バズ商品の水筒で急成長したスタンレー1913が、ボトル一本足からの脱却に動いています。Modern Retailの報道によると、同社は収納・モビリティへの商品拡張、海外展開、スポーツとの協業という3本柱で、ライフスタイルブランドへの転換を進めています。一発当たった商品への依存をどう解くか。日本のEC事業者にとっても他人事ではない論点が詰まっています。
何が起きたか:水筒バブルの後で
スタンレー1913は、SNSで火がついた保冷タンブラーで一気に拡大したブランドです。Modern Retailによると、売上は2019年の7,300万ドルから2023年には約7億5,000万ドルへ急伸し、米国のDTC水筒市場で約3割のシェアを握るまでになりました。2022年には米国のDTC売上が300%伸びたとされます。
一方で、ブームの反動も鮮明です。2025年には米国DTC売上が約20%減少したと報じられています。OwalaやYeti、HydroFlaskといった競合がひしめき、保冷ボトルというカテゴリー自体の鮮度が落ちてきました。
そこで同社が打ち出したのが、商品ポートフォリオの拡張です。2026年2月から4月にかけて、バックパックやトートを含む「Vitalize Collection」、ストラップ付きの「Clutch Bottle」、漏れにくい「Flowstate Spring Bottle」を相次いで投入しました。Flowstate Spring Bottleは発売初週で小売チャネルの22%、DTCの50%が売れたとされ、ボトル以外への横展開でもバズの再現を狙っています。グローバルブランド責任者のMatt Navarroは、タッチダウン前のテールゲートパーティーからヨガスタジオまで「消費者がどう暮らしているかを観察している」と語っています。
日本のEC事業者にとっての論点
このニュースが日本のEC事業者に刺さるのは、「一発屋のジレンマ」がそのまま当てはまるからです。楽天市場やAmazon、Shopifyで運営する店舗でも、ヒット商品一本に売上が集中したまま、レビューと広告費だけで延命しているケースは少なくありません。スタンレー1913の動きは、バズが冷める前に隣接カテゴリーへ商品を広げ、購買体験ごと太らせるという定石を示しています。
特に注目したいのが海外展開です。Modern Retailによれば、同社の海外売上はこの12〜18カ月で最も伸びており、英国、ドイツ、スペイン、フランス、そして日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドが主要市場に挙がっています。日本も成長市場として名指しされており、越境ECや国内モールでの並行輸入品との競合という形で、日本のEC事業者にも影響が及びます。海外発のDTCブランドが楽天やAmazon、自社Shopifyで日本市場に入ってくる流れは、今後さらに強まると見ておくべきです。
もう一つはスポーツIPとの協業です。同社はアーセナルやユヴェントスといったサッカークラブ、リオネル・メッシ、カイトリン・クラーク、ネリー・コルダ、コリン・モリカワらと組み、2026年5月にはワールドカップ仕様の限定タンブラー7種を出しました。Navarroは、すでにブランドを支持する女性層と、ブランドを知り直してほしい男性層の両方を狙うと述べています。客層を広げるためにIPとコラボするという発想は、日本の楽天店舗やAmazon出品者が限定パッケージやアニメ・スポーツコラボで新規客を取りにいく動きとも重なります。

今後の展望と初動アクション
日本のEC事業者がこの事例から拾えるアクションは、大きく三つあります。
一つ目は、ヒット商品の売上構成比を可視化することです。1SKUに売上の過半が集中しているなら、それはリスクです。スタンレー1913が収納・モビリティへ広げたように、既存客が「ついでに買う」隣接カテゴリーを定義し、まず1〜2型をテスト投入してみる価値があります。
二つ目は、限定・コラボ施策を新規客獲得の入口として設計し直すことです。単なる話題づくりではなく、誰に届けたいかを先に決めてからIPを選ぶ。Navarroが客層別に協業相手を選んでいる点は参考になります。
三つ目は、海外DTCブランドの国内流入を前提に、自店の独自価値を言語化しておくことです。価格や品揃えだけで戦うと、資本力のあるグローバルブランドに押されます。レビュー資産やアフターサポート、日本向けの細やかな商品説明など、現場でしか積み上がらない強みをページとKPIに落とし込んでおきましょう。
まとめ
スタンレー1913の転換は、バズで急成長したブランドが次に直面する課題と、その解き方を具体的に見せてくれます。商品拡張、海外展開、IP協業という3本柱は、規模こそ違えど日本のEC事業者にも応用できます。一発のヒットに安住せず、隣接カテゴリーと新規客層へ計画的に手を広げる。その準備を今から始めておきたいところです。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。