毎日のように繰り返す商品登録、在庫確認、メール対応、スプレッドシートへのデータ転記。EC事業者であれば、こうした「手を動かすだけの作業」に1日の大半を奪われている実感があるのではないでしょうか。2026年3月23日、AI開発企業Anthropicが発表した「Computer Use(コンピュータ操作)」機能は、まさにこの課題に対する一つの回答になりえます。AIがチャットで答えるだけでなく、実際にパソコンの画面を操作してタスクを完了する──そんな未来が、すでに動き始めています。
AIが「答える」から「動く」に変わった瞬間
Anthropicが提供するAIアシスタント「Claude」に、新たに追加されたのが「Computer Use」と呼ばれる機能です。これはClaude CoworkおよびClaude Codeという作業環境の中で、AIがユーザーのMacを直接操作できるようにするものです。
具体的には、SlackやGoogleカレンダーなどの連携ツール(コネクタ)が用意されている場合はそちらを優先的に使い、連携がない場合はAIが画面上のマウスやキーボードを操作して、ブラウザを開いたりファイルを操作したりできます。Anthropicが公開したデモ動画では、ユーザーがスマートフォンから「ピッチ資料をPDFに書き出して、会議の招待に添付して」と指示するだけで、Claudeがパソコン上でその作業を完了する様子が紹介されています。
さらに、先週リリースされた「Dispatch」という機能と組み合わせることで、外出中にスマートフォンからタスクを指示し、帰宅後にはデスクトップで完成した仕事を確認する、という使い方も可能になりました。
現時点ではmacOS限定のリサーチプレビューとして、ProおよびMaxプランの契約者のみが利用できます。
EC事業者にとっての実務的インパクト
この機能が本格化したとき、EC事業者の業務はどう変わるでしょうか。
たとえば楽天やAmazonの管理画面での商品情報更新。現状ではRMSやセラーセントラルにログインし、一つひとつの項目を手動で入力しています。Computer Use機能が安定すれば、「この商品の価格を◯◯円に変更して、セール期間を設定して」といった自然言語の指示だけで、AIが管理画面を操作して変更を完了する世界が見えてきます。
また、毎朝の売上データ集計やレポート作成も有力な活用シーンです。Dispatchで「昨日の売上データをスプレッドシートにまとめて」と朝の通勤中に指示しておけば、出社時にはレポートが完成している──そんなワークフローが現実味を帯びています。
2026年現在、AIエージェント市場は急速に拡大しています。EC運営における業務自動化ツールとしてはn8nやDifyなどのワークフロー型ツールも注目されていますが、これらは基本的にAPI連携が前提です。一方、Computer Useの最大の特徴は「API連携がないツールでもGUIを通じて操作できる」という点にあります。日本のEC事業者が日常的に使う楽天RMSやYahoo!ストアクリエイターProなど、外部API連携が限定的なプラットフォームこそ、この技術の恩恵を最も受ける可能性があります。
まだ「万能」ではない──知っておくべき制約とリスク
もちろん、現時点では制約も少なくありません。
Anthropic自身が認めているとおり、この機能はまだ初期段階にあります。複雑な操作は複数回の試行が必要になることがあり、画面操作ベースのタスク実行はAPI連携に比べて処理速度が遅いという課題もあります。また、金融・取引系のアプリケーションはデフォルトで制限されており、セキュリティ面への配慮がなされています。
EC事業者として特に注意すべきは、セキュリティリスクです。AIにパソコンの操作権限を渡すということは、受注データや顧客情報、決済情報にAIがアクセスできる環境を作ることを意味します。Claudeは新しいアプリケーションにアクセスする際に必ずユーザーの許可を求める仕組みになっていますが、業務に導入する際は「どの範囲までAIに操作させるか」を事前に明確にしておく必要があるでしょう。
また、今年初頭に爆発的に広がったオープンソースのAIエージェントフレームワーク「OpenClaw」との比較も重要です。OpenClawはWindows・Linux・macOS対応でプラグインの自由度が高い一方、セキュリティ設定が複雑で、悪意ある第三者によるハイジャックのリスクも指摘されています。Claudeのアプローチは許可制を基本とした「安全性重視」であり、業務利用においてはこの設計思想が安心材料になります。
EC事業者が今やるべきこと
AIが「会話」から「操作」へとフェーズを移したことは、EC業界にとって大きな転換点です。ただし、すぐにすべての業務をAIに任せるのは現実的ではありません。
まず着手すべきは、自社の業務の「棚卸し」です。毎日繰り返している定型作業は何か、どのツールにログインして何を操作しているか。この作業マップがあれば、Computer Use機能が安定版になったとき、即座に導入判断ができます。
次に、AIエージェント全般への理解を深めることです。2026年はOpenAI、Google、Anthropicの三社がそれぞれ異なるアプローチでAIエージェントを推進しています。ShopifyがChatGPTの決済機能と連携するなど、ECプラットフォーム側もAIエージェント前提の設計に舵を切り始めています。こうした動向を把握しておくことが、今後の競争力に直結します。
AIが「手を動かしてくれる」時代は、もはや未来の話ではありません。EC事業者にとっての次の問いは「AIに何をさせるか」ではなく、「自分は何に集中するか」です。
引用:https://www.cnet.com/tech/services-and-software/claude-control-your-computer-to-perform-tasks/
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齋藤 竹紘(さいとう・たけひろ)
株式会社オルセル 代表取締役 / 「うるチカラ」編集長
Experience|実務経験
2007年の株式会社オルセル創業から 17 年間で、EC・Web 領域の課題解決を
4,500 社以上 に提供。立ち上げから日本トップクラスのEC事業の売上向上に携わり、
“売る力” を磨いてきた現場型コンサルタント。
Expertise|専門性
技術評論社刊『今すぐ使えるかんたん Shopify ネットショップ作成入門』(共著、2022 年)ほか、
AI × EC の実践知を解説する書籍・講演多数。gihyo.jp
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