AI検索企業Perplexityは2025年11月6日、同社のWebブラウザ「Comet」に搭載されるCometアシスタントの大幅なアップデートを発表しました。この新バージョンは、従来の単純な質問応答を超えて、複数のブラウザタブを横断する複雑なタスクを自動化できる「エージェント型AI」へと進化しています。同社の内部テストでは、前バージョンと比較して23%の性能向上が確認されており、より長時間にわたる複雑な作業をこなせるようになりました。
複数タブでの同時作業を実現
新型Cometアシスタントの最大の特徴は、複数のブラウザタブを同時に操作できる能力です。従来のAIアシスタントは単一のページやタブに限定されていましたが、新バージョンは異なる情報源から文脈を取得しながら作業を進められます。
具体的な活用例として、スプレッドシートとWebサイトの両方を使うデータ入力作業があります。従来はユーザーがタブを切り替えながら情報を転記していましたが、Cometアシスタントは両方のタブを同時に見ながら、正しい情報をスプレッドシートに入力できます。これは自然なマルチタスク処理といえ、人間が複数の作業を並行して行うのと同じような効率性を実現しています。
就職活動の整理も新機能の恩恵を受けます。求人サイト、企業の公式ページ、履歴書テンプレートなど、複数の情報源を横断しながら、応募状況の追跡や書類の準備を一括で管理できます。旅行計画では、複数の予約サイトを比較しながら、最適な航空券とホテルの組み合わせを見つけ、カレンダーにスケジュールを追加するといった一連の作業を任せられます。
Webサイトとの相互作用機能の強化
アップデートのもう一つの重要な要素は、Webサイトとの相互作用能力の向上です。Perplexityによれば、Cometアシスタントには「Webの知覚と相互作用のための新しいツール」が追加され、複雑なWebサイトの理解が改善されています。
これにより、フォームへの入力、ボタンのクリック、ページのスクロールなど、より多様なアクションが可能になりました。ユーザーはアシスタントが実行している操作をリアルタイムで確認でき、サイドカー(画面横に表示されるアシスタントパネル)で推論の過程を段階的に追跡できます。アシスタントがどこをクリックし、どのようにサイトと対話しているかが明確に表示され、いつでも作業を停止したり追加の指示を与えたりするボタンも用意されています。
ユーザーコントロールとプライバシーへの配慮
Perplexityは11月14日に公開した別の記事で、アシスタント開発における基本原則を明確にしています。それは「透明性」「ユーザーコントロール」「適切な判断力」の3つです。
新しいCometアシスタントは、ブラウザを使った作業が必要なリクエストを受けた際、まずユーザーに許可を求めるようになりました。ユーザーはCometにタスクをブラウザ上で直接実行させるか否かを選択でき、一度選択した設定はそのタスク全体を通じて維持されます。これは「AIアシスタントはユーザーのもの」という同社の姿勢の現れで、ユーザーが常にコントロールを保持できる設計になっています。
プライバシー面では、個人のChatGPT記憶機能(パーソナルメモリー)がグループチャットでは使用されないのと同様の配慮がなされています。閲覧履歴、検索クエリ、AI対話はユーザーのデバイスにローカルで保存され、エンドツーエンドの暗号化が施されています。Cometがデータにアクセスするのは、ユーザーが明示的にパーソナライズされたアシスタンスを要求した場合のみで、その際も最小限の目的特化型データに限定されます。
競合他社との位置づけ
Cometアシスタントの進化は、AI検索とブラウザの統合を巡る競争の激化を反映しています。Googleの「Gemini Extensions」、マイクロソフトの「Edge Copilot」、The Browser Companyの「Arc Browser」など、各社が自然言語プロンプトをWeb上のアクションに変換する機能を競っています。
Perplexityの強みは、ブラウザファーストの設計と、複雑なリクエストを細分化する明示的な「プランナー」機能にあります。これは拡張機能ベースのモデルと対照的で、後者は特定のエコシステムのサービスに限定されがちです。また、ユーザーコントロールとプライバシーを重視する姿勢も差別化要因となっています。AIアシスタントに無制限の制御を与えることへの警戒感がユーザーの間で強まる中、明示的な許可と「人間が介在するループ」の制御は重要な競争優位性です。
マイクロソフトは2025年10月にCopilot AIアシスタントでグループチャット機能を更新しており、OpenAIも11月にChatGPTでグループチャット機能を開始しました。これらは複数ユーザーがAIと協業する方向性を示していますが、Perplexityのアプローチはブラウザという「個人のデジタルライフの中心」に焦点を当てている点が異なります。
Cometの普及状況と今後の展開
Cometブラウザは2025年7月に月額200ドルのMaxプラン加入者向けに初めてリリースされ、10月2日には無料で全世界に公開されました。この3カ月間で数百万人がウェイトリストに登録し、Perplexityは「今年最も求められたAI製品」と位置づけています。
無料ユーザーはサイドカーアシスタント(閲覧中のページについて質問に答えたり、コンテンツを要約したりする機能)にアクセスできます。月額20ドルのProユーザーと月額200ドルのMaxユーザーは、より高度なAIモデル、画像・動画生成、ファイルアップロード・分析などの機能に加え、今回アップデートされたフル機能のCometアシスタントを利用できます。
Perplexityは現在、100万社以上の有料ビジネス顧客を抱えており、製薬、小売、テクノロジー、金融サービスなどの分野で採用が進んでいます。8月にはEnterprise Pro向けにCometを提供開始し、SOC 2 Type II認証、GDPR、HIPAAコンプライアンスなど、企業が求めるセキュリティ機能を標準搭載しています。
まとめ
Perplexityの新型Cometアシスタントは、AIアシスタントを「回答エンジン」から「アクションエンジン」へと進化させる試みです。複数タブの横断、Webサイトとの高度な相互作用、複雑なタスクのプランニング機能により、従来は手作業で時間がかかっていたワークフローを自動化できます。
ユーザーコントロールとプライバシーを重視する設計は、AIに完全な自動化を任せることへの不安に対応したものです。ブラウザをパーソナルAIの「オペレーティングシステム」として位置づけるPerplexityのビジョンは、デジタルライフを管理する「チーフオブスタッフ」的なエージェントの実現を目指しています。
今後、Cometがどれだけのユーザーに受け入れられ、競合他社との差別化を維持できるかが注目されます。AIの知性ではなく、信頼性とユーザーインターフェースの設計こそが次世代AIの決定的な要素になるという同社の賭けが、どのような結果をもたらすか見守る必要があります。
引用: perplexity
