AmazonがPerplexityのAIショッピングエージェントを裁判所命令で遮断|「AIが勝手に買い物する時代」にEC事業者が備えるべきこと

投稿日: カテゴリー Amazon, Perplexity

2026年3月10日、EC業界にとって極めて重要な判決が下されました。サンフランシスコの連邦裁判所が、AI検索スタートアップPerplexityのブラウザ「Comet」によるAmazonサイトへのアクセスを一時的に差し止める仮処分命令を出したのです。

この判決は単なるAmazon対Perplexityの二社間の争いではありません。「AIエージェントがユーザーの代わりにECサイトで買い物をする」という行為そのものの合法性が、初めて法廷で問われたケースです。日本のEC事業者にとっても、今後のAIエージェント時代の到来を見据える上で見逃せない動きです。

何が起きたのか──Amazon vs Perplexityの経緯

Perplexityは2025年にリリースしたAIブラウザ「Comet」を通じて、ユーザーがAIに指示するだけでAmazon上の商品を検索し、比較し、購入まで代行する機能を提供していました。ユーザーが「防水のランニングシューズを探して、レビュー評価が高いものを買って」と指示すれば、CometがAmazonにログインし、商品を探して購入ボタンを押すところまで自動で処理するイメージです。

Amazonは2024年11月の時点からPerplexityに対してアクセス停止を複数回要請しており、2025年8月には技術的なブロックも実施しました。しかしPerplexityはその24時間以内にブロックを回避するソフトウェアアップデートを配信。Amazonはこれを受けて2025年11月に連邦コンピュータ詐欺・不正利用法(CFAA)に基づく訴訟を提起しました。

今回の判決で、Maxine Chesney判事はAmazon側の主張を概ね認め、Perplexityがユーザーの許可は得ていたものの、Amazon自体からの承認なしにパスワードで保護されたアカウント領域にアクセスしていたことについて「実質的に争いのない証拠」があると判断しました。

Perplexityにはアクセスの即時停止と、収集済みのAmazon顧客データの破棄が命じられています。ただし、控訴のための1週間の猶予期間が設けられており、法的な争いはまだ続く見込みです。

なぜAmazonはAIエージェントを排除するのか──広告ビジネスへの脅威

この裁判の背景にある本質的な問題は、セキュリティだけではありません。Amazonの収益構造そのものへの脅威です。

Amazonの広告収入は2025年に686億ドル(約10兆円超)に達しています。この広告ビジネスは「ユーザーが検索結果を見て、スポンサー商品をクリックして、購入に至る」という導線の上に成り立っています。

ところが、AIエージェントが間に入ると何が起きるか。ユーザーはAmazonの検索結果ページを見ません。スポンサー商品の広告も表示されません。AIが直接「最適な商品」を判断して購入ボタンを押すため、広告に対するインプレッション自体が発生しないのです。

Amazon自身も訴状の中で、AIエージェントが生成するトラフィックは広告主に課金する前に検出・除外する必要があり、そのための新たな検知メカニズムの開発が必要になったと述べています。広告主は「実際の人間のインプレッション」にのみ支払う契約になっているため、AIエージェントのアクセスが増えるほど、広告収益の計算が狂ってくるわけです。

これは楽天市場にも当てはまる構造です。RPP広告やCPA広告など、楽天の広告商品も「人間が検索結果や商品ページを閲覧する」ことを前提に設計されています。AIエージェントがこの導線をバイパスするようになれば、モール型ECの広告モデル全体が揺らぐ可能性があります。

「ユーザーの許可」と「プラットフォームの承認」は別物──法的な新基準

今回の判決で最も注目すべき法的ポイントは、「ユーザーがAIに自分のアカウントへのアクセスを許可しても、プラットフォーム側が承認していなければ不正アクセスに該当しうる」という判断が示されたことです。

Perplexity側は「CometはユーザーがAIに指示して行わせているだけであり、ユーザーの権限を引き継いでいる」と主張しましたが、裁判所はこの論理を暫定的に退けました。つまり、ユーザーの同意とプラットフォームの同意は法的に別物であるという前例が生まれつつあるのです。

Amazonは2026年3月4日付でビジネスソリューション契約を更新し、全てのAIエージェントに対してサービスアクセス時の自己申告を義務付ける規定を正式に追加しています。ChatGPTのショッピング機能も含め、数十のAIエージェントがすでにAmazonからブロックされている状況です。

日本のEC事業者への影響──3つの視点で考える

1. AIエージェント時代の「商品情報の書き方」が変わる

AIエージェントが商品を選ぶ判断基準は、人間のそれとは異なります。人間はサムネイルのビジュアルや価格の赤文字に反応しますが、AIはテキストデータ、レビューの数値、スペック情報、構造化データを重視します。

今後AIエージェントによるショッピングが広がるのであれば、商品名や商品説明文の構造化、レビュー対策、正確なスペック記載の重要性がこれまで以上に高まります。これは楽天SEOの考え方とも共通する部分が大きく、すでに取り組んでいる店舗にとっては追い風になるはずです。

2. 「広告に依存しないEC」の戦略が加速する

AIエージェントが広告を飛ばして直接商品を選ぶ世界では、RPPやスポンサープロダクト広告の効果が今よりも下がる可能性があります。これはAmazonだけの話ではなく、楽天やYahoo!ショッピングにも共通する構造的な問題です。

広告依存度を下げるための施策として、自社ECやD2Cチャネルの強化、リピーター獲得の仕組みづくり、ブランド指名検索を増やすためのSNS活用がますます重要になります。

3. 日本でも同様の法的議論が始まる可能性

今回の判決は米国でのケースですが、日本でも不正アクセス禁止法や著作権法の観点から、AIエージェントによるECサイトへのアクセスが法的に問題視される可能性は十分にあります。特に、AIがログイン済みのアカウントを操作して購入処理を行う行為については、まだ明確な法的整理がなされていません。

楽天市場やAmazon Japanが今後、利用規約でAIエージェントのアクセスをどう定義するかは注視しておくべきポイントです。

まとめ──「AIが買い物する時代」は来る、ただし道は険しい

PerplexityのCEOは以前から「AIエージェントショッピングはECの未来」と語っており、Amazon CEOのAndy Jassy氏も「エージェント型コマースはeコマースにとって本当に良いものになる可能性がある」と認めています。方向性そのものは両者とも否定していないのです。

問題は「誰がコントロールするか」です。Amazonは外部のAIエージェントをブロックしながら、自社のAIアシスタント「Rufus」を育てています。つまり、AIエージェントによるショッピング自体を否定しているのではなく、「自社のAIだけが入れる閉じた庭(Walled Garden)」を作ろうとしているわけです。

日本のEC事業者としては、この動向を「海の向こうの話」で終わらせず、AIエージェント時代に備えた商品情報の整備、広告依存度の見直し、そして自社チャネルの強化を今から始めておくべきでしょう。AIが勝手に買い物をする時代は確実に近づいています。その時に「AIに選ばれる店舗」になっているかどうかが、次の5年の勝敗を分けるかもしれません。

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投稿者: 齋藤竹紘

齋藤 竹紘(さいとう・たけひろ) 株式会社オルセル 代表取締役 / 「うるチカラ」編集長     Experience|実務経験 2007年の株式会社オルセル創業から 17 年間で、EC・Web 領域の課題解決を 4,500 社以上 に提供。立ち上げから日本トップクラスのEC事業の売上向上に携わり、 “売る力” を磨いてきた現場型コンサルタント。 Expertise|専門性 技術評論社刊『今すぐ使えるかんたん Shopify ネットショップ作成入門』(共著、2022 年)ほか、 AI × EC の実践知を解説する書籍・講演多数。gihyo.jp Authoritativeness|権威性 自社運営メディア 「うるチカラ」で AI 活用や EC 成長戦略を発信し、業界の最前線をリード。 運営会社は EC 総合ソリューション企業株式会社オルセルTrustworthiness|信頼性 東京都千代田区飯田橋本社。公式サイト alsel.co.jp および uruchikara.jp にて 実績・事例を公開。お問い合わせは info@alsel.co.jp まで。

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