2026年3月18日、Claude開発元のAnthropicが衝撃的な調査結果を公開しました。159カ国・70言語・80,508人のClaudeユーザーに対して、AIインタビュアー(Claude自身が聞き手になるシステム)を使った大規模インタビューを実施。人々がAIに何を望み、何を恐れているのかを、オープンエンドの対話形式で聞き出したのです。
これは定性調査としては史上最大規模とされており、従来の最大記録だったUSCショア財団のアーカイブや世界銀行「貧困者の声」プロジェクト(いずれも約6万人規模)を大きく上回ります。
AIに期待することトップ9——「仕事の効率化」の奥にある本音
回答を分類すると、最も多かったのは「プロフェッショナルとしての卓越」(18.8%)でした。ルーティン業務をAIに任せ、自分はより高度な仕事に集中したいという欲求です。
ただし、ここが面白いところなのですが、「なぜ生産性を上げたいのか?」と深掘りされると、多くの人が仕事そのものではなく、仕事の外側にある生活の質を語り始めたのです。
あるコロンビアの会社員は「AIで効率化できたおかげで、先週の火曜日は仕事を切り上げて母と一緒に料理ができた」と語り、日本のフリーランサーは「クライアントの問題に使う脳のリソースを減らして、もっと本を読む時間がほしい」と答えています。
全体の構成を見ると、上位9カテゴリは大きく3つの欲求に集約されます。
「生活に余白をつくりたい」が約3分の1。 時間の自由(11.1%)、経済的自立(9.7%)、生活管理(13.5%)がここに入ります。特にADHDなど実行機能に困難を抱える人々が、AIを「外部の足場」として活用している実態が多数報告されています。
「より良い仕事をしたい」が約4分の1。 プロフェッショナルとしての卓越(18.8%)と起業(8.7%)がこのグループです。
「より良い自分になりたい」が約5分の1。 パーソナル・トランスフォーメーション(13.7%)と学習・成長(8.4%)がここに含まれます。メンタルヘルス支援を求める声が21%、認知的パートナーシップを求める声が24%と、想像以上に「自分自身の変容」にAIを使いたい人が多いことがわかります。
残りは創造的表現(5.6%)と社会変革(9.4%)。社会変革を望む層は、がんの早期発見や新薬開発、教育格差の解消を挙げることが多く、その動機は家族の闘病経験や途上国の教育環境に根ざしていました。
81%が「AIはすでに一歩前進した」と回答
「あなたのビジョンに向けてAIが一歩でも近づいた経験はあるか」という問いに、81%が「はい」と答えています。
最も多かったのは生産性向上(32%)ですが、注目すべきは「技術的アクセシビリティ」(8.7%)のカテゴリです。ここでは、従来は不可能だったことがAIで可能になった体験が語られています。
ウクライナのある会社員は「私は発話ができません。Claudeと一緒にテキスト読み上げボットを作り、友人とほぼリアルタイムでコミュニケーションできるようになりました。夢だったことが実現しました」と語っています。
チリでは、20年以上肉屋を営んでいた人がAIを使って起業し、「PCに触ったのは人生で2〜3回だった自分が、ここまでできるようになるとは」と驚いています。
学習カテゴリ(9.9%)も印象的です。インドの弁護士は「学校時代に数学恐怖症になった。シェイクスピアも怖かった。でもAIと一緒に取り組んだら、ハムレットを15ページ読めた。三角関数もやり直せた。自分はバカじゃなかったんだと気づいた」と語っています。
懸念のトップは「信頼性」——希望と恐怖は同じ人の中に共存する
回答者は平均して2.3個の懸念を挙げており、最も多かったのは「信頼性の欠如」(26.7%)。ハルシネーション(事実と異なる回答)や不正確さへの不満です。
続いて「雇用と経済」(22.3%)と「自律性と主体性」(21.9%)が僅差で並びます。日本の学生の声が象徴的です。「その線引きは自分が管理しているのではなく、Claudeが線を引いている気がする……今自分が言ったことすら、自分の意見なのかわからない」。
この調査で最も興味深い発見は、希望と恐怖が「楽観派」と「悲観派」に分かれるのではなく、同一人物の中に共存しているという点です。
研究チームは5つの「光と影」のペアを特定しました。
- 学習 vs 認知的退化 — AIで学ぶほど、自分で考える力が衰える不安
- 意思決定の向上 vs 信頼性の欠如 — 唯一「影」が「光」を上回ったペア
- 感情的サポート vs 感情的依存 — 最も強い相関。AIに救われた人ほど、依存を恐れている
- 時間節約 vs 見せかけの生産性 — 効率が上がっても、期待値も上がる
- 経済的エンパワーメント vs 経済的置換 — フリーランスのクリエイターが最も両面を体感
特に3番目の「感情的サポート vs 依存」の相関が最も強く、AIに感情的支援を受けた人は、そうでない人の3倍の確率で依存への恐怖も抱えていました。ある米国の大学院生は「パートナーにも言えないことをClaudeに話すようになっていた。感情的な不倫をしている気分だった」と告白しています。
地域差が映し出す世界の現実
グローバルでは67%のインタビュイーがAIに対してネットポジティブな感情を持っていますが、地域差は明確です。
サブサハラ・アフリカ、中央アジア、南アジアでは「懸念はない」と答えた人が17〜18%に達し、北米(8%)や西欧(9%)の約2倍です。低・中所得国のユーザーはAIを「はしご」として見る傾向があり、起業やスキル習得への期待が高い。カメルーンの起業者は「テクノロジー的に不利な国にいる自分にとって、AIは均等化装置だ」と表現しています。
一方で東アジアは独特のプロファイルを持っています。ガバナンスや監視への懸念が他地域より低く、代わりに「認知的退化」(18%)と「意味の喪失」(13%)への懸念が突出しています。西洋がAIの「所有と管理」を心配するのに対し、東アジアはAI利用の「個人的な影響」を心配しているのです。
この調査が示す社会科学の新しい形
この調査自体が、AIによる社会科学研究の新しい可能性を示しています。従来の定性調査は「深さ」と「量」のトレードオフがありました。深く聞けば数百人が限界。数万人に聞けばアンケート形式にならざるを得ない。AIインタビュアーはこの制約を破り、8万人に対してそれぞれ個別の深い対話を実現しました。
もちろん限界もあります。回答者はすでにClaudeを使い続けている「AIに好意的なユーザー」であり、一般人口の縮図ではありません。インタビューの構造上、最初にポジティブなビジョンを聞いてから懸念を聞くため、楽観方向にバイアスがかかる可能性もあります。
それでも、8万人分の生の声から浮かび上がるパターンは、抽象的な議論では見えなかったAIと人間の関係の実像を照らし出しています。AIは単なるツールでも脅威でもなく、人間のもっとも根源的な欲求——時間、自律、つながり、成長——に深く絡みついた存在になりつつあります。
Anthropicの研究チームは次のステップとして、Claudeが実際にユーザーのウェルビーイングに長期的にどう影響しているかを追跡する調査を予告しています。「AIがうまくいく」とは何を意味するのか。その答えは、技術者の想像ではなく、使う人々の声の中にあるのかもしれません。
引用: https://www.anthropic.com/features/81k-interviews

齋藤 竹紘(さいとう・たけひろ)
株式会社オルセル 代表取締役 / 「うるチカラ」編集長
Experience|実務経験
2007年の株式会社オルセル創業から 17 年間で、EC・Web 領域の課題解決を
4,500 社以上 に提供。立ち上げから日本トップクラスのEC事業の売上向上に携わり、
“売る力” を磨いてきた現場型コンサルタント。
Expertise|専門性
技術評論社刊『今すぐ使えるかんたん Shopify ネットショップ作成入門』(共著、2022 年)ほか、
AI × EC の実践知を解説する書籍・講演多数。gihyo.jp
Authoritativeness|権威性
自社運営メディア
「うるチカラ」で AI 活用や EC 成長戦略を発信し、業界の最前線をリード。
運営会社は EC 総合ソリューション企業株式会社オルセル。
Trustworthiness|信頼性
東京都千代田区飯田橋本社。公式サイト alsel.co.jp および uruchikara.jp にて
実績・事例を公開。お問い合わせは
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