RadLE 2.0とは、読影AIの過信リスクを測る新ベンチマークのことです。
インドのアショカ大学CRASH Labが2026年7月に公開した「RadLE 2.0」は、X線などの医用画像を読影するAIモデルが「自分の限界をわきまえているか」を数値化する初の本格的なベンチマークです。200症例を16モデルに解かせた結果、放射線科医パネルが2,000点満点中988.7点を獲得したのに対し、首位のAIモデルは758点にとどまりました。精度そのものは急速に人間に迫る一方、多くのモデルが「間違った診断を高い自信で言い切る」という危険な傾向を示しています。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

何が起きたか:正直さに加点し過信に減点する採点方式
結論から言うと、RadLE 2.0の核心は「わからないと言える能力」を初めて採点対象にした点にあります。The Decoderが2026年7月19日に報じたもので、正式名称は「Radiology’s Last Exam」。2025年9月に公開された初版の改訂版にあたり、技術レポートがCRASH Labのサイトで公開されています。
採点方式は明快です。AIは各回答に0から4の信頼度を自己申告し、「わからない」と答えることも明示的に許されます。高い自信で正解すれば満点、高い自信で誤答すれば同じだけ減点、「わからない」なら0点で減点なし。つまり、当てずっぽうで自信満々に答えるモデルは、素の正答率がそこそこ高くても順位を落とす設計です。
この設計は、精度だけを報酬にするベンチマークがAIに「推測」を学習させてしまうという、Nature掲載の論文で提起された問題意識を実装したものです。医療では、自信満々の誤診のほうが、正直な「わかりません」よりはるかに危険だからです。
なぜ重要か:総合王者は不在、モデルごとに性格が割れた
重要なのは、16モデルの中に「全部門で勝てるモデル」が1つも存在しなかったことです。信頼性を測る主要指標ではAnthropicのClaude Fable 5が首位となり、素の正答率ではGoogleのGemini 3 Proがトップでした。人間への引き継ぎ判断が最もうまかったのはMetaのMuse Spark 1.1で、同モデルは誤答するくらいなら回答を拒否する調整によりハルシネーション率をほぼ半減させた経緯があります。逆にxAIのGrok 4.5は、知識が増えた一方で誤答への確信も強まり、前世代よりハルシネーションが増えたと指摘されています。
研究チームによると、オープンウェイトモデルと医療特化モデルの劣化が特に顕著でした。これらはほぼ全症例に回答を試み、その多くが中〜高信頼度の誤答だったといいます。「もっと黙っていれば大幅にスコアが上がったはずのモデルが複数あった」というのがチームの評価です。
一方で、進歩の速度も無視できません。2025年9月の初版では放射線科医の正答率83パーセントに対し首位モデルは約30パーセントでしたが、わずか3か月でGemini 3 Proは研修医レベルを超えました。精度は急伸しているのに、自分の限界を知る能力だけが取り残されている構図です。
今後の動き:患者は既にMRIをチャットボットに送っている
この研究が急がれる背景には、一般の患者がX線やMRI画像をチャットボットにアップロードして回答を信じる行動が既に広がっている現実があります。npj Digital Medicineの研究は、広く使われるチャットボットが医療の質問にしばしば信頼できない回答を返すことを示しました。また2026年4月のJAMA Network Openの研究では、当時最先端とされた21モデルが監督なしの臨床利用に耐えないと結論づけられています。
研究チームは、「AIは既に99パーセントの医師より正確に診断できる」といった経営者や投資家の主張の多くが逸話やシミュレーションに基づくと批判しています。他方で、電子カルテ向けのMIRAや対話診断のAMIEが模擬診察で総合診療医に匹敵したという報告もあり、評価は割れています。RadLE 2.0の著者らの立場は一貫していて、AIが単独で判断を下す前に「判断しないほうがよい場面」を学ぶべきだ、というものです。
人間側のスキル低下も論点です。2025年のポーランドの観察研究では、大腸内視鏡検査でAIを常用した医師が、AIなしの場面で前がん病変の検出率を28.4パーセントから22.4パーセントに落としました。著者らはこれをカーナビなしでは道に迷う「Google Maps効果」と呼んでいます。2016年にGeoffrey Hintonが「放射線科医の育成はやめるべきだ」と予言してから約10年、放射線科医は今も人手不足のままで、予言は撤回されました。
まとめ
RadLE 2.0が示したのは、読影AIの弱点が「精度」ではなく「過信」に移ったという構造変化です。この教訓は医療に限りません。EC事業者がAIに商品説明の生成やレビュー分析、需要予測を任せる場合も、自信満々の出力がそのまま正しさを意味しないのは同じです。Claude Fable 5の安全ルーティングと拒否対策やGPT-5.6 SolとFable 5のベンチマーク比較で解説したとおり、モデルごとに「答え方の性格」は大きく違います。ベンチマークが実力を測りきれない問題も含め、AIの回答に「わからない」と言わせる余地を残した業務設計が、2026年後半の実務の要点になりそうです。
参考文献
- CRASH Lab・RadLE 2.0 Technical Report
- arXiv・Radiology’s Last Exam(RadLE初版論文)
- Nature・ベンチマーク設計とAIの推測行動に関する論文
- npj Digital Medicine・チャットボットの医療回答の信頼性研究
- JAMA Network Open・21モデルの臨床利用適性の検証
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引用元: The Decoder
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。