中国主導のWAICO発足|29カ国参加で並行AI秩序を狙う3つの論点

中国主導の世界AI協力機構WAICOが29カ国の署名で正式発足。本部は上海、西側主要国は不参加です。5000人のAI研修枠と並行AI秩序の狙い、日本の越境EC事業者への影響を3つの論点で解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

WAICOとは、中国主導で発足した世界初のAI専門の政府間国際機構のことです。

2026年7月16日、上海で29カ国の代表が「世界人工知能協力機構(WAICO)」の設立文書に署名しました。翌17日には習近平国家主席が世界人工知能大会(WAIC)に登壇し、グローバルサウス向けに5,000人分のAI研修枠を提供すると表明しています。米国や日本を含む西側主要国は参加しておらず、AI統治の枠組みが二極化する転換点になりうる動きです。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

上海で開催された世界人工知能大会の開幕式で記念撮影に応じる習近平国家主席

29カ国が署名、本部は上海の政府間組織

まず事実関係です。THE DECODERによると、WAICOは7月16日に29カ国が署名して正式発足した政府間組織で、本部は上海に置かれます。構想自体は2025年7月に李強首相がWAICで提唱したもので、約1年かけて制度化にこぎつけた形です。

Al Jazeeraの報道では、創設メンバーにはロシア、ブラジル、マレーシア、南アフリカ、セネガル、パキスタン、インドネシアなど、グローバルサウスの主要国が並びます。一方で米国、英国、ドイツ、フランス、日本といった西側主要国は1カ国も署名していません。PYMNTSによれば、署名式には王毅外相のほか国連のグテーレス事務総長も同席し、WAICOは国連憲章の原則に基づく独立した国際機構として「有益で、安全で、公平な」AI発展を掲げるとされています。

翌17日の演説で習近平は、オープンソースAIがもたらす「歴史的機会」を各国が受け入れるべきだと訴えました。「AIの発展は一国の独演であるべきではなく、国際協力の交響曲であるべきだ」という発言は、Al Jazeeraも見出しで取り上げています。AI分野で国家安全保障の概念を過度に拡大することへの反対も表明しており、米国の半導体輸出規制を念頭に置いた発言とみられます。あわせて、AIを含む中国の「スマート経済」の規模が1兆元(約1,400億ドル)を超えたことも明らかにしました。

なぜ重要か: AI統治の枠組みが二極化する

結論から言えば、WAICOの発足によって、AIのルールづくりが「西側主導」と「中国主導」の2系統に分かれていく構図が制度として固まりつつあります。これまでもAI規制はEUのAI法、米国の輸出規制、ドイツのAI Overviews規制判断のように地域ごとに分かれていましたが、常設の本部と加盟国を持つ政府間機構を中国が握ったことで、規格・規制・応用開発を継続的に調整する外交機構が生まれたことになります。

背景には中国製AIモデルの実力向上があります。うるチカラでも取り上げたとおり、Kimi K3が最上位モデルに肉薄するなど、中国発のオープンモデルは性能面で米国勢との差を数か月単位まで縮めています。安価なオープンソースモデルを「公共財」としてグローバルサウスに供給し、その利用国をWAICOで束ねるという流れは、技術輸出と制度輸出をセットにした戦略と読めます。PYMNTSは、WAICと同時に発表されたHuaweiの大規模AI計算クラスター「Atlas 950 SuperPoD」を、米国製半導体に依存しない自立志向の象徴として挙げています。

アナリストの見方も一致しています。カーネギー国際平和財団の分析では、米国がサイバー・AI分野の国際的な規範づくりから後退するなか、中国はグローバルサウスの支持を得て、国家中心の技術統治ビジョンへの賛同を広げようとしていると指摘されています(表現は要旨、原文はAl Jazeera経由で確認)。加盟国の数がそのまま国連での票数につながるため、今後の国連におけるAI政策の枠組みづくりにWAICOが影響を与える可能性は高いとみられます。

今後の動き: 国連での主導権争いと5,000人の人材育成

今後の注目点は3つです。1つ目は国連の場でのルール形成です。WAICOが加盟国の立場を束ねて国連のAI決議や標準化議論に臨めば、データ流通・コンテンツ規制・安全性評価の国際標準が2系統に割れていく可能性があります。2つ目は加盟国の拡大ペースです。現在の29カ国から東南アジア・アフリカ・中南米へどこまで広がるかが、この機構の実効性を左右します。3つ目は人材育成の実行です。5,000人分のAI研修枠が今後5年でどの国に配分されるかは、中国系AIエコシステムの浸透度を測る指標になります(配分の詳細は現時点で未公表のため要確認)。

日本のEC事業者にとっても、これは遠い話ではありません。越境ECで東南アジアや中東の市場に展開する場合、進出先の国がどちらのAI統治圏に入るかによって、利用できるAIモデル、データの越境移転ルール、レコメンドや広告に関する規制が変わってくる可能性があります。すでにApple IntelligenceがQwen採用で中国当局の承認を得たように、市場ごとに使うAIが変わる「AIの地産地消」は始まっています。海外販路を持つ事業者は、進出国のAI規制がどの枠組みに沿って作られるかを、物流や決済と同じインフラ選定の観点でウォッチしておくべき段階に入りました。

まとめ

WAICOは、中国が29カ国を束ねて7月16日に発足させたAI専門の政府間機構で、西側とは別のAI統治秩序をつくる動きの中核です。加盟国の広がりと国連での影響力次第で、AIモデルの選択肢や規制環境が市場ごとに分かれる時代が近づきます。越境展開するEC事業者は、進出先のAI規制動向を中長期の事業リスクとして把握しておきましょう。

参考文献

※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/

引用元: THE DECODER


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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