中国では Claude の API が公式価格の1割で売買されています。
オックスフォード大学China Policy Labの研究員である Zilan Qian が ChinaTalk に公開した調査で、中国国内に「中転站(transfer station)」と呼ばれるAPI中継業者のグレーマーケットが広がり、Anthropic の Claude を公式価格の10〜30パーセントで販売している実態が明らかになりました。安さの原資は盗難クレジットカードとモデルすり替え、そして利用者のプロンプトそのものです。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。日本のEC事業者にとっても、格安をうたうAI代理店の見極めは他人事ではありません。
中転站とは何か、いくらで売られているのか
中転站とは、利用者のAPIリクエストを海外サーバー経由でAnthropicへ転送し、応答を返す非公式のAPIプロキシ業者のことです。利用者は接続先を公式エンドポイントから中転站のアドレスに差し替え、WeChat PayやAlipayで人民元を支払うだけで済みます。海外のクレジットカードもVPNも不要になる点が、中国の開発者にとっての最大の利便性です。
価格の目安は「1米ドル分のクレジットが1人民元」、つまり公式価格の70〜90パーセント引きです。安い業者では公式の10パーセント、場合によっては5パーセント程度まで下がるとされています。これらの業者は GitHub、Taobao、Telegram 上で公然と宣伝され、コミュニティのリポジトリが価格と稼働率でランキング化しているとQianは報告しています。
背景には、Anthropic が中国本土からのアクセスを多層的に遮断してきた経緯があります。2025年9月には未サポート地域の企業が50パーセント超を保有する法人のアクセスを禁止し、2026年4月には一部利用者に政府発行の写真付き身分証と自撮り動画による本人確認を求め始めました。しかし規制を1枚重ねるたびに、それを迂回する産業が1つ生まれてきたというのが調査の要点です。
9割引が成立する「一魚三喫」の内訳
なぜここまで安くできるのか。Qianは中国語の言い回しを借りて「一魚三喫(1匹の魚で3度食べる)」と説明しています。
1つ目は仕入れの安さです。無料の5ドルクレジットを目当てにアカウントを大量登録する、余ったクレジットを転売する、法人・教育向け割引を横流しする、月額200ドルのMaxプランを時間あたりトークン量で数十人に切り売りする、といった手口が積み上がります。さらに盗難・不正クレジットカードで取得したアカウントは、業者にとって実質コストゼロで在庫に加わります。
2つ目はモデルのすり替えです。利用者はプロキシ越しにしか結果を見られないため、どのモデルが実際に応答したかを検証できません。ドイツのCISPAヘルムホルツ情報セキュリティセンターの研究チームが17のAPIプロキシを監査したところ、広範なモデル置き換えが確認され、「Gemini-2.5」として提供されたアクセスは医療系ベンチマークで37.00パーセントにとどまりました。公式APIの83.82パーセントから半分以下への転落です。Opus を指定したのに Sonnet や Haiku、あるいは中国製モデルが返ってくることがある、ということです。
3つ目、そして本命が「ログそのものが商品」という構造です。プロキシを通過したプロンプト、応答、ツール呼び出し、試行錯誤の全履歴が業者のサーバーに残ります。コーディングエージェントの場合、そこには実在するリポジトリの文脈と人間が正解と認めた出力が含まれ、後続モデルの学習データとして極めて価値が高くなります。実際、出所の不明な Claude Opus 4.6 の推論データセットが HuggingFace 上で流通していると同調査は指摘しています。複数の中国人開発者は「安売りは客集めで、ログの回収が本当の利益」と述べており、Tom’s Hardware もこの構造を米国側の警戒と結びつけて報じています。

日本のEC事業者が確認すべき3つの論点
第一に、契約先が一次提供者か中継業者かを契約書レベルで確認することです。日本国内でも「公式より安いAI API」「上位モデル使い放題」をうたう再販が存在します。Anthropic の利用規約や OpenAI との直接契約、あるいは Amazon Bedrock や Google Cloud のような正規の再販経路であれば、データの取り扱い義務が契約で担保されます。第三者プロキシにはその義務がありません。2023年にサムスン電子の技術者が社内ソースコードを外部AIに貼り付けて情報が流出した事例が知られていますが、無審査のプロキシはそれと同種のリスクを、利用規約の保護すらない状態で抱えることになります。
第二に、EC運用でAIに通しているデータの棚卸しです。商品原価表、仕入先リスト、受注CSV、顧客の氏名や住所、レビュー分析用の問い合わせ全文などは、そのまま学習データや詐欺の素材になり得ます。楽天市場やAmazonの受注データを外部AIツールに連携している場合、そのツールがどのAPI経路でモデルに到達しているかは、ベンダーに直接確認する価値があります。
第三に、出力品質の異常を「モデルの調子」で片付けないことです。指定したモデルより明らかに精度が落ちる状態は、中国の開発者コミュニティで「降智(知能が下がる)」と呼ばれています。商品説明の生成やレビュー要約で、同じプロンプトなのに品質が急に落ちたと感じたら、経路を疑う材料になります。なお中継業者はアカウントを頻繁に切り替えるためキャッシュが継続せず、単価は安くても総消費トークンが膨らみ、結果的に割高になる構造も報告されています。安値の裏側にある総コストは、実測しなければ見えません。
まとめ
Claude の闇流通が示しているのは、アクセス制限やアカウント停止といった安全策が、中継業者を挟まれた瞬間に機能しなくなるという事実です。日本のEC事業者にとっての実務上の含意は単純で、AIの調達経路を把握し、正規契約の範囲内で使うこと、そして自社と顧客のデータがどこを通っているかを説明できる状態にしておくことです。価格の安さは、多くの場合どこかで誰かが払っています。
参考文献
- ChinaTalk|How to Buy Cheap Claude Tokens in China(Zilan Qian, 2026年5月5日)
- Tom’s Hardware|Chinese grey market sells Claude API access at 90% off(2026年5月9日)
- Anthropic|Detecting and preventing distillation attacks
- Anthropic|Updating restrictions of sales to unsupported regions
- Anthropic Support|Identity verification on Claude
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: ChinaTalk
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。