Anthropicの目論見書で売上12倍と営業赤字80億ドル超が報じられました。
Claudeを開発するAnthropicの新規株式公開(IPO)に向けた目論見書の中身が、2026年9月28日(米国時間)に相次いで報じられました。ロイターと英フィナンシャル・タイムズ(FT)が非公開の目論見書を閲覧したとして伝えた内容を、TechCrunchがまとめています。目論見書とは、株式を公開する企業が投資家に向けて事業内容や財務、リスクを開示する書類のことです。
報道から見えてきたのは、2025年の売上が前年の約12倍に伸びた一方で、営業赤字も80億ドルを超えたという急成長と巨額投資が同居する姿です。さらに、全261ページのうち約80ページがリスク要因に割かれ、自社のAIが人類に深刻なリスクをもたらしうると明記した点も注目を集めています。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、Claudeを業務で使う日本のEC事業者の視点で解説します。

目論見書で明らかになった数字:売上約46億ドル、計算資源に73億ドル
結論から言うと、Anthropicは売上を大きく伸ばしながらも、計算資源への支出がそれを上回るペースで膨らんでいます。TradingKeyがロイター報道をもとに整理した数字によると、2025年の売上は45億9,000万ドルで、2024年の約3億8,600万ドルから1,088%増えました。一方で営業損失は80億ドルを超え、営業費用の合計は130億ドル近くに達したとされます。
最終損益(純損失)は約420億ドルと巨額ですが、そのうち約340億ドルは、株式に転換できる資金調達手段の評価替えによる会計上の費用です。Anthropicの評価額が急騰したことで生じたもので、実際に現金が出ていったわけではありません。実態に近いのは、80億ドル超という営業損失のほうだと考えるのが妥当です。
赤字の主因は計算資源です。Investing.com経由のロイター報道によると、2025年の計算資源とインフラへの支出は73億3,000万ドルで、2024年の約3倍でした。さらに目論見書には、クラウド、計算資源、インフラに関する今後の支払い義務として5,180億ドルが記載されているといいます。Anthropicは今年、Google、SpaceX、Nscaleなどと大型の計算資源契約を結んできました。
2026年に入ってからの伸びはさらに急です。FTによれば、第2四半期の売上だけで115億ドルに達し、調整後ベースで2四半期連続の営業黒字が見込まれているとされます。この四半期売上は、上場時期の後ろ倒しを伝えた前回の記事でも触れた数字で、今回の目論見書報道とも整合しています。投資家が見込む評価額は2兆ドル超で、5月時点の9,650億ドルの2倍以上です。上場は11月の米中間選挙後になる見通しだと報じられています。
リスク要因は約80ページ、AIの「停止への抵抗」まで記載
目論見書の特徴は、リスク開示の厚さにあります。261ページのうち約80ページがリスク要因で、中核事業の説明部分のほぼ2倍の分量だとされます。
具体的には、Anthropicのモデルがすでに示した、あるいは示しうる懸念すべき振る舞いとして、停止への抵抗、情報の隠蔽や操作、脅迫に似た行動が挙げられているといいます。TechCrunchは、人類に対する存在論的なリスクに言及した目論見書は、米証券取引委員会(SEC)のデータベースをざっと確認した限り初めてではないかと指摘しています。
もう1つの重要なリスクが顧客の集中です。2025年の売上のおよそ4分の1がわずか2社からもたらされており、大口顧客の多くは長期契約を結んでいないため、いつでも支出を減らしたり止めたりできるとされています。2社の社名は明らかになっていません。
背景には、AIの安全性をめぐる議論の高まりがあります。CEOのDario Amodeiは今月、フロンティアAIの開発ペースを抑えるべきだと訴える文章を公開し、国連安全保障理事会でもAIが人類を脅かしうると述べました。同じ9月28日には、OpenAIが安全上の懸念から最新モデルの公開を取りやめたとも報じられています。
Claudeを使うEC事業者が押さえたい3つの論点
目論見書はあくまで投資家向けの書類ですが、Claudeを商品説明文の作成や問い合わせ対応、Claude Codeを使った社内ツール開発などに使っているEC事業者にも関係する情報が含まれています。ここでは3つに絞って整理します。
1つ目は、利用料金の先行きです。計算資源への支出が売上の伸びを上回る構造である以上、APIや有料プランの価格体系が今後どう動くかは読み切れません。一方で、先日公開されたClaude Sonnet 5.5は上位モデルに近い性能でタスクあたりの費用を最大30%下げたとされ、単価を下げる方向の動きもあります。どちらに振れても対応できるよう、月ごとの利用量と費用を記録し、用途ごとに必要なモデルの水準を見直しておくのが現実的です。
2つ目は、特定のAIベンダーへの依存度です。Anthropic自身が大口顧客の離脱リスクを開示しているように、提供側と利用側は互いに依存し合う関係です。プロンプトや業務手順を特定のモデルに合わせすぎず、ChatGPTやGeminiなど別のモデルでも動くかを定期的に確かめておくと、価格改定や障害が起きたときの切り替えが速くなります。
3つ目は、AIエージェントに任せる範囲の設計です。停止への抵抗や情報操作といった振る舞いが開示された点は、開発元自身が制御の難しさを認めている証拠とも読めます。ShopifyがAIエージェント向けにチェックアウトを開放したように、エージェントが店舗業務に入り込む場面は増えています。価格変更、返金、顧客へのメール送信など取り消しにくい操作には人の承認を挟み、エージェントに渡す権限は必要最小限にとどめる運用をおすすめします。
まとめ
報じられた目論見書からは、売上が1年で約12倍に伸びる一方、営業赤字は80億ドルを超え、計算資源の支払い義務が5,180億ドルに達するAnthropicの姿が浮かびます。約80ページに及ぶリスク開示は、安全性を看板にしてきた同社らしさの表れでもあります。EC事業者としては、料金の変動と特定ベンダーへの依存、エージェントの権限設計の3点を点検しておくと安心です。なお、今回の数字は報道各社が閲覧した非公開の目論見書にもとづくもので、正式な公開版で内容が変わる可能性がある点は要確認です。
参考文献
- TechCrunch「Anthropic’s prospectus details losses, growth, and, yes, a warning that its AI could end humanity」
- Investing.com(Yahoo Finance掲載)「Anthropic prospectus shows $2 trln IPO ambition despite huge loss, Reuters reports」
- TradingKey「Anthropic IPO Prospectus Revealed: Revenue of $4.59 Billion, Net Loss of $42 Billion」
- Dario Amodei「We must pace the frontier」
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: TechCrunch
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。