AIエージェントブラウザ「Comet」が示すEC運営の未来|メール送信から在庫管理まで自動化する新時代

投稿日: カテゴリー EC×AI活用

PerplexityのAIブラウザ「Comet」が登場し、ウェブブラウジングの概念を根本から変えようとしています。単なる検索結果の表示ではなく、AIアシスタントがユーザーの代わりにメールを書いて送信し、SNSに投稿し、タスクを完了させる。この「エージェント型」ブラウザは、EC事業者の日常業務を劇的に変える可能性を秘めています。

Googleが独占禁止法訴訟でChromeの売却を迫られる可能性がある中、Perplexityは月間7億8000万件の検索クエリを処理し、毎月20%の成長を続けています。この新しいブラウザ戦争が、EC運営にどのような影響をもたらすのか、具体的に見ていきましょう。

Cometが実現する「サイレントワーカー」という革命

PerplexityのCEO、アラヴィンド・スリニヴァス氏は、Cometを「単なるチャットボットではない。バックグラウンドで継続的に動作するサイレントワーカー」と表現しています。この言葉は、EC事業者にとって極めて重要な意味を持ちます。

従来のブラウザは、人間が操作するための道具でした。しかしCometは、人間の指示を受けて自律的に動作するデジタルアシスタントです。「ブラウザをコントロールして…」という指示から始めることで、より複雑なタスクも実行できるようになります。

EC運営における日常業務を考えてみてください。顧客へのメール返信、商品情報の更新、競合価格の調査、SNSでの情報発信、プロモーションメールの配信停止処理など、膨大な「操作」が必要です。Cometは、これらの作業を人間の代わりに実行できる可能性を示しています。

「青いリンクの羅列」から「即座の答え」へ

Cometの最大の特徴は、Google検索の結果ページをPerplexityの「アンサーエンジン」に置き換えたことです。ユーザーが求める情報を、複数のウェブサイトへのリンクではなく、AI生成の回答として直接提供します。

EC事業者が「最新のSEOトレンド」を検索した場合、従来なら複数のサイトを開いて情報を集める必要がありました。Cometなら、関連する情報源を参照しながら、統合された回答を即座に提供します。これにより、情報収集にかかる時間が大幅に短縮されます。

さらに重要なのは、Cometが関連コンテンツを提案する機能です。ユーザーが見ているコンテンツや過去に読んだ内容を基に、次に必要となりそうな情報を先回りして提案します。EC運営において、この機能は市場調査や競合分析の効率を飛躍的に向上させるでしょう。

エージェント機能がもたらす業務自動化の実例

Cometのアシスタント機能は、画面右上のボタンからアクセスでき、サイドバーにチャットインターフェースが表示されます。ここで指示を出すことで、様々なタスクを自動実行できます。

EC事業者の日常業務に当てはめると、以下のような活用が可能です。

顧客対応メールの自動化では、「この注文キャンセルの問い合わせに対して、丁寧な謝罪と返金手続きの説明を含むメールを作成して送信して」と指示すれば、AIが適切な文面を作成し、実際に送信まで行います。

プロモーション管理では、「すべてのプロモーションメールの配信を停止して」という指示で、複数のメールマガジンからの退会処理を自動化できます。これは、顧客からの要望に素早く対応する際に非常に有用です。

SNSマーケティングでは、「新商品の紹介文をLinkedInに投稿して」と指示することで、商品情報を基に魅力的な投稿文を作成し、実際に公開まで行います。複数のSNSプラットフォームへの同時投稿も可能になるでしょう。

現在の限界と将来の可能性

Perplexityの広報担当者によると、ショッピングなどの複雑なエージェント機能は、単純なタスクよりも失敗率が高いとのことです。これは現在のAIモデルの限界によるもので、今後改善される見込みです。

スリニヴァス氏は「エージェントが実行できないと感じたら、いつでも人間が引き継いで完了できる」と述べています。これは重要な点で、完全自動化ではなく、人間とAIの協働による効率化を目指していることを示しています。

EC事業においても、この「協働モデル」は現実的なアプローチです。定型的なタスクはAIに任せ、判断が必要な部分や創造的な作業は人間が行う。この分業により、全体の生産性を最大化できます。

Chromiumベースが意味する互換性の高さ

CometはGoogleが管理するオープンソースのChromiumフレームワークを基盤としています。これはMicrosoft Edge、Brave、DuckDuckGoなども同様です。この選択には重要な意味があります。

EC事業者の多くは、Chrome用の拡張機能やツールを使用しています。価格追跡ツール、SEO分析ツール、広告ブロッカーなど、業務に欠かせない拡張機能が多数存在します。Cometは、Googleアカウントをリンクすることで、これらの拡張機能やブラウザコンテキストをそのまま移行できます。

つまり、新しいブラウザに切り替える際の最大の障壁である「環境の再構築」が不要になるのです。これにより、EC事業者は既存のワークフローを維持しながら、AIエージェント機能の恩恵を受けられます。

コンピューティングコストと料金体系の課題

AIエージェントは、通常のチャットボットよりも計算集約的で、運用コストが高くなります。Perplexityは現在、この課題に対処するため、有料ユーザーの拡大を急いでいます。

現在、CometはPerplexity Maxの有料会員か、早期アクセスのウェイトリストに登録したユーザーのみが利用可能です。将来的には無料版も提供される予定ですが、高度なAI機能は引き続き有料プランに限定される見込みです。

EC事業者にとって、この料金体系は重要な検討事項です。月額料金を支払っても、それ以上の価値(時間削減、効率化、売上向上)が得られるかどうか。具体的なROIを計算し、投資判断を行う必要があります。

スマートフォンへのプリインストール戦略

Reutersの報道によると、Perplexityはスマートフォンメーカーと交渉を進め、Cometブラウザのプリインストールを目指しています。これが実現すれば、モバイルコマースの世界も大きく変わる可能性があります。

スマートフォンでのEC利用が増加する中、モバイル端末でもAIエージェント機能が使えるようになれば、消費者の購買行動が根本的に変化します。「このスニーカーと同じような商品を他のサイトでも探して、価格を比較して」という指示一つで、複数のECサイトを巡回し、最適な商品を提案してくれる世界が現実になるのです。

EC事業者が今すぐ準備すべきこと

Cometのようなエージェント型ブラウザの登場は、EC業界に大きな変革をもたらします。この変化に備えるため、以下の準備を始めることをお勧めします。

まず、自社のウェブサイトがAIエージェントにとって「操作しやすい」構造になっているか確認しましょう。明確なボタン配置、分かりやすいフォーム構造、一貫性のあるナビゲーションなど、AIが理解しやすいUI/UXの実装が重要です。

次に、APIの整備を進めます。AIエージェントが効率的にデータを取得し、操作を実行できるよう、商品検索、在庫確認、注文処理などの主要機能をAPI化することで、将来的なAI連携に備えます。

さらに、社内でのAIエージェント活用を試験的に始めます。Cometが利用可能になったら、まず社内の定型業務から自動化を試み、効果を測定します。成功事例を積み重ねることで、組織全体のAI活用能力を向上させます。

ブラウザ戦争の新章:EC事業者にとってのチャンス

GoogleのChrome、MicrosoftのEdge、そして今回のPerplexityのCometと、大手テック企業がAI統合ブラウザの開発を競っています。OpenAIも独自のAIブラウザを開発中との噂があります。

この競争は、EC事業者にとって大きなチャンスです。各社が競って新機能を開発し、より使いやすく、より強力なツールが次々と登場するでしょう。重要なのは、これらの新技術を積極的に試し、自社のビジネスに最適なツールを見極めることです。

同時に、顧客側でもこれらのツールの利用が広がることを想定し、AIエージェントフレンドリーなECサイト構築を進める必要があります。人間とAIの両方に優れた体験を提供できる企業が、次世代のEC市場で勝者となるでしょう。

まとめ:サイレントワーカーと共に働く未来

Perplexityの月間7億8000万件の検索クエリ処理と毎月20%の成長率は、AIベースの検索とブラウジングへの需要の高さを示しています。Cometのようなエージェント型ブラウザは、この需要に応える次世代のソリューションです。

EC事業者にとって、Cometは単なる新しいブラウザではありません。それは、日常業務を自動化し、生産性を飛躍的に向上させる「サイレントワーカー」です。メール送信から在庫管理、SNSマーケティングまで、あらゆる業務がAIエージェントによって効率化される時代が到来しています。

重要なのは、この技術を恐れるのではなく、積極的に活用することです。AIエージェントと人間が協働することで、より創造的で、より顧客志向のEC運営が可能になります。

ブラウザ戦争の新章が始まった今、EC事業者も新たな武器を手に、次の戦いに備える時が来ています。あなたのビジネスに「サイレントワーカー」を迎え入れる準備はできていますか?
引用:Indian Express


投稿者: 齋藤竹紘

齋藤 竹紘(さいとう・たけひろ) 株式会社オルセル 代表取締役 / 「うるチカラ」編集長

   
Experience|実務経験
2007年の株式会社オルセル創業から 17 年間で、EC・Web 領域の課題解決を 4,500 社以上 に提供。立ち上げから日本トップクラスのEC事業の売上向上に携わり、 “売る力” を磨いてきた現場型コンサルタント。
Expertise|専門性
技術評論社刊『今すぐ使えるかんたん Shopify ネットショップ作成入門』(共著、2022 年)ほか、 AI × EC の実践知を解説する書籍・講演多数。gihyo.jp
Authoritativeness|権威性
自社運営メディア 「うるチカラ」で AI 活用や EC 成長戦略を発信し、業界の最前線をリード。 運営会社は EC 総合ソリューション企業株式会社オルセル
Trustworthiness|信頼性
東京都千代田区飯田橋本社。公式サイト alsel.co.jp および uruchikara.jp にて 実績・事例を公開。お問い合わせは info@alsel.co.jp まで。

お問い合わせ

     
  • うるチカラEC×AI活用塾開講