スウェーデンのアウトドアブランド、フェールラーベンが北米で直営店網を拡大し、看板商品カンケンへの依存を薄める戦略を進めています。
Modern Retailが2026年9月1日に報じたところによると、フェールラーベンは北米で30店舗超の直営店を構え、9月にはボストンに2店舗を新規出店します。年商は世界で約7億ドル、北米の直営店経由売上は域内売上の24〜30%に達しています。1本の看板商品で伸びた会社が、その看板商品を店頭の「奥」に置くという判断をしている点が、日本のEC事業者にとって示唆に富みます。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

何が起きたか:ボストンに2店舗、看板商品は店の奥へ
フェールラーベンは2026年9月、ボストンのニューベリーストリートに2ブロック離れた2店舗を同時に開きます。165番地がフェールラーベン単独のブランドストア、304番地が新業態「Fjällräven + Co.」で、後者は姉妹ブランドであるハンワグ(ドイツの登山靴)、ロイヤルロビンズ(米国のアウトドア衣料)、ティエラ(スウェーデンのアウトドア衣料)を1つの屋根の下に集める形式です。オープニングウィークエンドは9月11日から13日に設定されています。
同社は1960年創業、1970年代に登場したカンケンというカラフルなバックパックで広く知られています。2007年に米国へ投入されたカンケンは、2010年から2017年にかけて売上が10倍に伸びました。ところが同社は、店舗をカンケン中心に組み立てていません。バックパックは入口に「予告編」として少量だけ置き、カンケンウォールは店の最奥に配置します。買い物客はパンツやジャケットの棚をひととおり通り過ぎないと、目当ての商品にたどり着けない設計です。米州CEOのネイサン・ドップは、Modern Retailに対して直営店の狙いを「自分たちが見せたい形でブランドを表現するため」と説明しています。
数字の裏付けもあります。北米売上は卸とD2Cで50対50、直営店は域内売上の24〜30%を占めます。カナダは北米事業の約24%、メキシコは今年800万ドルの売上見込みで8店舗目を準備中です。世界年商は約7億ドルで、米国が最大市場になっています。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
結論から言えば、この事例が突きつけているのは「看板商品の売上比率をどこまで下げられるか」という設計課題です。日本のEC事業者にも、そのまま置き換えられる論点が3つあります。
第一に、単品依存のリスク管理です。フェールラーベンの経営陣は、カンケンが爆発的に売れていた2010年代半ばの時点で「いずれトレンドは終わる」と考え、一発屋で終わらせない布石を打ちました。実際にコロナ禍でリモート授業が広がるとカンケンの販売は鈍りましたが、その頃までに他カテゴリを認知させていたため、別商品の売上が伸びて全体を支えました。楽天市場やAmazonで1SKUが売上の半分以上を占める店舗は少なくありませんが、その状態は検索順位の変動、模倣品の流入、季節要因のいずれか1つで一気に崩れます。売上構成比の上位3SKUが全体の何%かを毎月測る指標を持っておくだけでも、判断は変わります。この論点はモール依存からの脱却を3段階で整理した記事でも扱いました。
第二に、導線設計の考え方です。実店舗の「カンケンを奥に置く」は、ECの回遊設計にそのまま翻訳できます。指名検索で入ってきた顧客を、その商品ページで完結させずに、関連カテゴリを通過させてからカートへ運ぶという発想です。楽天市場であれば商品ページ内の関連商品バナーやカテゴリページへの遷移、Shopifyであれば商品ページ下部のレコメンド枠やコレクションページの並び順が、この「ナチュラルトレイルのような回遊」に相当します。楽天市場の商品ページからモール外へ誘導することは店舗運営規約で認められていないため、楽天の場合はあくまでモール内の他商品・カテゴリページへの遷移で設計する必要があります。指名買いの顧客に何アイテム見せられているかは、Googleアナリティクスの「セッションあたりページビュー」やRMSのアクセス解析で確認できます。
第三に、直営比率という経営指標です。フェールラーベンは北米で卸とD2Cを50対50に保ちつつ、直営店で24〜30%を稼いでいます。日本のEC事業者に置き換えると、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングというモール売上と、自社EC売上の比率にあたります。モールは集客力が高い代わりに顧客データが取りにくく、自社ECはその逆です。どちらかに寄せるのではなく、比率を意図的に設計して四半期ごとに測る姿勢が、価格競争や手数料改定に耐える体力につながります。卸とD2Cの併走をどう組み立てるかはBoggの事例記事でも掘り下げています。
今後の展望と初動アクション
海外ブランドの北米出店は、フェールラーベン単独の動きではありません。フランスのサロモンは2028年末までに米国店舗数を倍増させる計画で、Modern Retailが以前報じています。物理店舗プラットフォームDouble03 Retailの創業者レベッカ・フィッツは、米国ブランドの多くが出店数の天井に達している一方、国際ブランドが成長の主役になっていると指摘します。オランダの水着ブランド、ワリアンは2025年に米国でオンライン販売を始め、2026年6月の米国オンライン売上が前年同月比443%増になったことを受けて、初のポップアップを開いています。
日本のEC事業者が明日から着手できることは、大きく4つあります。1つ目は、直近12か月の売上を商品別に並べ、上位3SKUの構成比を算出すること。50%を超えていれば単品依存の警戒域です。2つ目は、看板商品の商品ページに、関連カテゴリへの遷移導線が何本あるかを数えること。1本もないなら、まずは同一シリーズの別サイズ・別カラーへの導線を追加します。3つ目は、モール売上と自社EC売上の比率を四半期ごとに記録し、目標比率を決めること。4つ目は、看板商品以外の商品の販売データを、購入者属性ごとに分けて見ることです。看板商品から入った顧客が2回目に何を買っているかが分かれば、次に育てるカテゴリが特定できます。
なお、フェールラーベンが2030年に迎える70周年に向けて掲げているのは「初心者から熟練者まで幅広い層に語りかける」という方向性です。ターゲットを広げるのではなく、ブランドの世界観を共有できる層を深く取りに行くという意味であり、この点は日本のEC事業者が値下げ以外の差別化を考えるうえでも参考になります。
まとめ
フェールラーベンは北米30店舗超という直営網を武器に、看板商品カンケンへの依存を意図的に薄めてきました。直営店経由が域内売上の24〜30%、卸とD2Cが50対50という数字は、意図的な設計の結果です。日本のEC事業者がまず取るべきスタンスは、上位SKUの構成比を測り、看板商品から他カテゴリへ顧客を流す導線を1本ずつ増やしていくことです。
参考文献
- Modern Retail: Brands Briefing: Fjällräven is going beyond Kånken backpacks as it builds stores in North America
- Modern Retail: Brands Briefing: Salomon is working to double its US store count by 2028
- Fjällräven Asia: Kånken – A History
- Fjällräven 公式オンラインストア(米国)
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。