OpenAIは2026年9月10日、全二重音声モデルGPT-Live-1のAPI提供を開始しました。
価格はフロント側の音声レイヤーが1分あたり0.05ドル、秒単位課金です。電話回線での運用(テレフォニー)にも対応し、予約受付からカスタマーサポートまで、人の話に割り込まれながら会話を続ける音声エージェントを自前のアプリに組み込めるようになりました。GPT-Live-1は聞くことと話すことを1つのモデルで処理するため、これまで音声AIの導入を阻んできた「返事が遅い」「割り込むと会話が壊れる」という2つの壁が同時に下がります。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者の電話対応という視点から解説します。

GPT-Live-1のAPI提供とは何が変わったのか
全二重(フルデュプレックス)とは、聞くことと話すことを同時に行える方式のことです。OpenAIの発表によると、GPT-Live-1は入ってくる音声と出ていく音声をひとつのモデルでまとめて処理します。
従来の音声エージェントは、音声認識(STT)、推論モデル、音声合成(TTS)の3つを数珠つなぎにする構成が一般的でした。この構成は受け渡しのたびに遅延が積み上がり、会話のリズムや文脈が失われやすいという弱点を抱えています。GPT-Live-1はこの音声レイヤーを1モデルに統合し、深い推論とツール実行だけを背後のモデルへ委譲します。つまり、相手の話に相づちを打ちながら、裏側では在庫照会や注文検索を走らせておく、という動き方が可能になります。
背後に置くモデルは開発側が選べます。OpenAIは例として、予約や注文状況の更新といった件数の多い処理には軽量なLunaを、込み入った顧客対応にはGPT-6 Astraを組み合わせる構成を挙げています。処理の重さとコストを用途ごとに割り当てられる設計です。音声認識の文字起こしと応答テキストはモデルが標準で出力し、キーワードの重み付けや英数字の聞き取り精度も強化されています。ターンベースのモデルではないものの、明示的な発話区切りの検出には対応しているため、既存の設計思想を残したまま移行することもできます。
割り込み処理と応答速度の数字
GPT-Live-1の価値は、会話が乱れたときの挙動に表れています。
OpenAIが公表した評価では、割り込みや相づちへの反応を測るFull Duplex Benchで、前世代のGPT-Realtime-2.1より30ポイント高いスコアを記録しました。Unite.AIが整理した内訳では、航空・小売・通信分野の電話応対タスクを扱うTau3(Voice)のPass@1がGPT-Live-1で86.2%、GPT-Realtime-2.1が45.7%。相手が話し終えてから応答を始めるまでの遅延は0.798秒で、1.41秒だった前世代から約4割短縮した計算になります(短縮率は公表値からの単純計算です)。
導入企業の声も具体的です。言語学習サービスのSpeakは、学習者が考え込んでいる間にAIが割り込んでしまう回数が、従来のターンベース方式と比べて初期評価で約80%減ったと報告しています。実装面では、医療系サービスの共同創業者兼CTOであるTony Stoyanovが「従来の多段構成と比べ、コードベースを80%簡素化し、2万3,000行を削除できました」と述べています(OpenAI)。Yelpも、予約やフードオーダーの電話をYelp Hostが受ける運用で、通話の処理率が有意に改善したとしています。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
第一に、電話対応の原価が分単位で見積もれるようになった点です。音声レイヤーは1分0.05ドルですから、1ドル150円換算なら1分あたり約7.5円という計算になります(為替により変動します)。ただしこれはフロント側だけの価格で、背後のモデル利用料とツール実行料は別課金です。月間の通話分数さえ分かれば概算は出せるので、まずは自社の電話ログから算出してみる価値があります。なお、日本語での音声品質や対応言語の範囲は今回の発表で明記されていないため、実用判断の前に要確認です。
第二に、EC特有の「会話が往復する問い合わせ」で完了率が変わりうる点です。配送日の変更、サイズ違いの交換、注文のキャンセルは、いずれも顧客が途中で言い直したり、思い出しながら話したりします。従来の自動音声応答が最も脱落を生んでいたのがこの領域でした。割り込みを前提に設計されたモデルであれば、楽天市場やYahoo!ショッピングの受注変更、Shopifyで運営する自社ECの問い合わせ窓口で、有人に回さずに完了できる割合が変わる可能性があります。
第三に、通話が構造化データとして残る点です。GPT-Live-1は文字起こしを標準で出力するため、これまで担当者の記憶の中にしか残らなかった電話の内容が、検索できるテキストとして蓄積されます。商品ページのFAQ改善や、レビューには出てこない不満の把握に直結する資産です。ただし通話録音やAIが応対している旨の事前告知については、各社の運用ルールと関連法令の確認が必要で、こちらも要確認としておきます。
初動として何から手をつけるか
まず電話の内容を、定型照会、変更・キャンセル、クレームの3つに仕分けます。自動化の対象は定型照会だけに絞るのが安全です。次に、その定型照会が月に何分あるかを数え、分単価を掛けて概算コストを出します。背後のモデルは最初から高性能なものを選ばず、軽量モデルで成立するかを試すほうが費用対効果を測りやすくなります。そして最も重要なのが、有人へ切り替える条件を先に文章で決めておくことです。金額の訂正、返金、謝罪が必要な場面をAIに任せない線引きを作っておけば、導入後の事故は大きく減らせます。
まとめ
GPT-Live-1のAPI提供は、音声AIを「試すもの」から「原価計算できる業務」へ動かす変化です。1分0.05ドルという明示的な価格と、遅延0.798秒という実測値があるため、判断材料はそろいました。日本語対応の詳細は要確認ですが、電話の内容を仕分けて原価を出す作業は今日から始められます。
参考文献
- OpenAI|Build more natural voice experiences with GPT‑Live‑1 in the API
- OpenAI|Introducing GPT-Live
- OpenAI Developers|GPT-Live-1 API ガイド
- OpenAI|Introducing OpenAI Presence
- Unite.AI|OpenAI’s GPT-Live-1 Arrives in the API at $0.05 Per Minute
音声AIの周辺動向は、うるチカラでも継続的に取り上げています。電話の一次対応をどこまで任せるかの判断はGPT-Live-1でEC電話接客はどう変わるかに、文字起こしを業務に組み込む手順はMeta Muse Voice Transcribeの単語誤り率3.1%にまとめています。多言語での音声接客はGrok Voiceの多言語対応、他社モデルとの比較検討はClaude音声モードをEC運営で使う5場面もあわせてご覧ください。
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: OpenAI
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。