楽天は、AIコーディングツール「Claude Code」の導入で新機能の開発期間を79%短縮しました。楽天が公開した導入事例によると、新機能を市場へ出すまでの平均日数が24営業日から5日へと縮まったとのことです。これは、日本最大級のECを運営する企業が、開発の現場そのものを作り替えた事例として注目されます。本記事は、EC支援19年・5,000社超の支援実績を持ち、AI導入支援を2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者にとっての意味に絞って解説します。

何が起きたか:楽天が開発期間を24日から5日へ
楽天は、ECや旅行、フィンテック、デジタルコンテンツなど70以上の事業を横断して、ソフトウェア開発にClaude Codeを組み込みました。楽天が公開した導入事例によると、新機能の平均リードタイムは24営業日から5日へ、79%短縮されたとのことです。
象徴的なのが、7時間にわたる自律コーディングの逸話です。機械学習エンジニアの成瀬健太は、大規模なオープンソースライブラリvLLM(複数言語で構成された約1,250万行のコード)に、特定の活性ベクトル抽出手法を実装する課題をClaude Codeに与えました。Claude Codeは1回の実行でこの作業を7時間かけて自律的に完了し、参照手法との数値精度は99.9%に達したとのことです。成瀬は「その7時間、私はコードを書いていません。時折、方向づけをしただけです」と述べています。
楽天はこれを「AI-nization(AI化)」と呼ぶ全社戦略の一部と位置づけています。AIビジネス担当ジェネラルマネージャーの梶泰幸は「4つをClaude Codeに任せ、残る1つに集中することで、5つの作業を並列で進められます」と、開発力が掛け算で伸びる感覚を語っています。さらに楽天は、Anthropicが提供するClaude Managed Agentsを、製品・営業・マーケティング・財務の各部門にわずか1週間で展開しました。これらのエージェントはSlackやTeamsに接続し、スプレッドシートやスライド、アプリを隔離環境で生成するとのことです。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
この事例が重要なのは、楽天が「AIでコードを速く書いた」からではなく、開発を非エンジニアにまで開放し、組織全体をAI前提に組み替えたからです。楽天市場という巨大モールに出店する日本のEC事業者にとって、示唆は3つあります。
第一に、出店先プラットフォームの進化速度が上がることです。開発リードタイムが5分の1になれば、検索アルゴリズムやRMSの新機能、AIコンシェルジュのような施策が、これまでより短い周期で出店者側に届く可能性があります。管理画面や仕様変更への追随を、年数回のイベントではなく常時のオペレーションとして構える必要が高まります。反映時期は楽天の発表次第であり、ここは要確認です。
第二に、「非エンジニアが開発に参加する」モデルは、規模を問わず移植可能だという点です。楽天は、ターミナル経由でコードを直接編集せずに開発へ貢献できる仕組みを整え、ガイドラインを与えることでClaude Codeを安全のガードレールとして機能させたとしています。エンジニアを抱えない中小のEC事業者でも、商品CSVの整形、価格の監視、レビューの分類といった小さな業務からなら、同じ発想で自動化に着手できます。楽天のシニア機械学習エンジニア、ディエゴ・マテオスも「以前はテスト駆動開発を自然には使っていませんでしたが、Claude Codeがそれを簡単にしてくれました」と、働き方そのものが変わったと述べています。
第三に、業務系エージェントを「会話ツールに寄せる」流れです。楽天がManaged AgentsをSlackやTeamsに接続し、成果物を生成させているように、受注処理や在庫確認、広告レポートといった定型業務を、普段使うチャット上で片づける構図は中小EC事業者にも現実的です。関連する考え方はManaged Agents APIによるEC業務自動化の解説でも整理しています。
今後の展望と、EC事業者の初動
楽天の挑戦はさらに先へ進んでいます。成瀬は現在、複雑なタスクを24の並列Claude Codeセッションに分解し、それぞれが巨大なモノレポ(統合コード基盤)の異なる部分を更新する「アンビエントエージェント」を構築中とのことです。手作業なら1カ月以上かかる規模の更新を狙う取り組みで、複数のAIを同時に走らせる運用は今後さらに一般化しそうです。並列実行の考え方はClaude Codeのフォーク・バックグラウンド並列実行の解説でも扱っています。
日本のEC事業者が取るべき初動は、大がかりな導入計画ではありません。まず、失敗しても検証しやすい1業務を切り出し、Claude Codeのような生成AIに任せてみることです。次に、非エンジニアが安心して使えるよう、確認手順や禁止事項といったガードレールを先に用意します。そのうえで、楽天が掲げるようにスピードとROIを指標に置き、うまくいった業務から横展開していきます。楽天が成果指標に「AI-nization比率」を据えたように、自社でも「どの業務がAI前提に切り替わったか」を可視化すると進捗が測れます。組織としての進め方は楽天店舗運営をAIチーム化する視点も参考になります。
なお、楽天の79%短縮や99.9%精度は、機械学習エンジニアを擁する大企業の環境で得られた数字です。中小のEC事業者がいきなり同じ成果を前提にするのは危険で、まずは検証可能な狭い範囲から始め、生成物を人がチェックする運用を崩さないことが重要です。
まとめ
楽天のClaude Code導入は、開発期間を24日から5日へ短縮した効率化の話であると同時に、開発を全社員に開放し、組織をAI前提に組み替える「AI-nization」の実践例です。EC事業者にとっての要点は、プラットフォーム進化の加速、非エンジニアによる開発参加、チャット連携エージェントの3つです。規模の大小を問わず、小さな検証から同じ方向へ踏み出せます。
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
参考文献
- Rakuten Claude Code case study(楽天のClaude Code導入事例)|Anthropic
- Inside Rakuten’s plan to turn every employee into a builder with Claude Managed Agents|Anthropic
- Claude Code 製品ページ|Anthropic
- vLLM 公式ドキュメント
引用元: Rakuten Claude Code case study|Anthropic
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。