米小売最大手のWalmartが、店舗レベルの従業員に向けたAI研修を本格展開しています。Modern Retailが2026年6月11日に報じたところによると、WalmartはOpenAIとの認定資格プログラムを先週立ち上げ、Googleとの同様のプログラムも今年初めから開始済みです。経営層やエンジニアではなく、店舗の現場で働く従業員にAIスキルを身につけさせる動きであり、日本のEC事業者にとっても「AI教育を誰に届けるか」を考え直すきっかけになるニュースです。
何が起きたか:OpenAI・Googleと組んだ従業員向けAI認定プログラム
Modern Retailの記事によると、WalmartはOpenAIおよびGoogleとパートナーシップを組み、従業員向けのAI認定資格プログラムを展開しています。OpenAIとの認定プログラムは記事掲載の前週に立ち上がったばかりで、最初の修了者となったのは、43年前にWalmartの地域物流センターの請求部門でキャリアを始めたベテラン、学習開発マネージャーのDarlene Laneでした。
プログラムの設計を語ったのは、学習戦略グループディレクターのJosh Allenです。研修は職務内容に応じてカスタマイズされており、AIの基礎知識(AIフルーエンシー)、責任ある利用、そして人間の判断力の3つに焦点を当てているといいます。Allenは「AI upskilling is not about replacing people’s judgment(AIのスキルアップ研修は人の判断を置き換えるためのものではない)」と述べ、従業員が新しいツールを責任を持って使えるようになることが目的だと強調しています。
チーフタレントオフィサーのLorraine Stomskiも、AIは従業員の役割を増幅するツールだと位置づけており、顧客と向き合う仕事の中核部分をAIが支える構想を示しています。
現場で何が変わっているか:ケーキ装飾の指導からドライバー配車アプリまで
注目すべきは、研修が座学で終わらず、現場の業務改善に直結している点です。記事では具体例がいくつか紹介されています。
生鮮・ベーカリー部門では、AIエージェントが従業員にケーキのデコレーション方法や食品の取り扱いを指導しています。店舗マネージャーは、AI加速・プロダクト・デザイン担当上級副社長のDaniel Dankerによると、スケジューリング用のデジタルダッシュボードを自分で作れるようになり、マーチャンダイジング担当者は長文の資料を分かりやすいグラフィックに変換できるようになりました。さらに物流部門では、AI認定を取得したロジスティクスマネージャーが、ドライバーが週末に自宅へ帰れる最適な輸送案件を見つけるアプリを自ら開発したといいます。
つまりWalmartのAI研修は、「本社が作ったツールを現場に配る」のではなく、「現場の従業員が自分の業務課題をAIで解決できるようにする」方向に振られています。43年勤続のベテランが最初の認定修了者になったという事実も、AI教育が若手やデジタル人材だけのものではないというメッセージとして象徴的です。
日本のEC事業者への3つの示唆
このニュースは、楽天市場やAmazon、Shopifyで店舗を運営する日本のEC事業者にとって、自社のAI活用体制を見直すヒントになります。示唆は3つあります。
1つ目は、AI研修の対象を経営者や一部の担当者に限定しないことです。日本のEC現場では、ChatGPTやClaudeを使うのが店長やEC責任者だけ、というケースが少なくありません。しかし受注処理、商品登録、カスタマーサポート、画像加工といった日々の実務こそAIの効果が大きい領域です。Walmartのように、現場スタッフ全員が一定のAIリテラシーを持つ前提で教育を設計する価値があります。
2つ目は、研修を職務別にカスタマイズすることです。楽天RMSで商品ページを運用するスタッフと、問い合わせメールに対応するスタッフでは、役立つプロンプトもツールも異なります。汎用的な「生成AI入門」ではなく、自社の業務フローに沿った実践型の研修が定着率を高めます。
3つ目は、現場発のツール内製を許容する文化です。Walmartではロジスティクスマネージャーが自分でアプリを作りました。日本のEC事業者でも、ノーコードツールや生成AIを使えば、棚卸しチェックリストや出荷ダブルチェックの仕組みを現場が自作できます。うるチカラでもWalmart幹部がAIの効果とコストをどう見ているかやWalmartのAmazon型フライホイール戦略を取り上げてきましたが、同社のAI投資が経営層の構想から現場の標準スキルへ降りてきたのが今回の段階です。
まとめ
WalmartはOpenAI・Googleとの認定プログラムを通じて、店舗従業員のAI研修を「全員の基礎スキル化」へ進めています。日本のEC事業者がとるべきスタンスは、AIを一部の担当者の効率化ツールに留めず、現場全体の教育投資として設計することです。まずは職務別に1つずつ、実務に直結するAI活用研修から始めることをおすすめします。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。