メキシコのEC市場が2024年に20%成長し、388億4400万ドル(約5兆8000億円)に達したという驚異的な数字が、メキシコオンライン販売協会(AMVO)から発表されました。特に注目すべきは、この2桁成長が6年連続で続いているという事実です。成熟期を迎えつつある日本のEC市場において、メキシコの成長要因を分析することは、新たな成長戦略を模索する上で重要な示唆を与えてくれます。
メキシコのデジタル購買者の浸透率は84%に達し、インドの63%や世界平均の60%を大きく上回っています。さらに、ラテンアメリカは北米、アジア、ヨーロッパを抑えて世界で2番目に成長が速い地域となっています。本記事では、この急成長の背景と、日本のEC事業者が参考にすべきポイントを探ります。
メキシコEC市場の成長を支える3つの要因
1. Eコマースの民主化:中低所得層への浸透
AMVOの市場調査・ビジネスインテリジェンス部門ディレクターであるダニエラ・オロスコ氏は、成長の主要因として「中低所得層と銀行口座を持たない層へのEコマースの民主化」を挙げています。これは日本のEC事業者にとって重要な気づきです。
日本では、ECは比較的裕福な層や都市部の利用者が中心と考えられがちですが、メキシコの事例は、適切なアプローチにより、より幅広い顧客層を開拓できることを示しています。特に、高齢者や地方在住者、デジタルに不慣れな層へのアプローチを再考する必要があります。
2. 現金決済の積極的な受け入れ
メキシコのEC市場で特に興味深いのは、現金決済が全体の26%を占めるまでに成長したことです。小売チェーンでの現金払いの増加が、銀行口座を持たない層のEC利用を促進しました。
日本でも、クレジットカードを持たない若年層や高齢者は依然として多く存在します。コンビニ決済や代金引換など、現金ベースの決済オプションを充実させることで、新たな顧客層を取り込める可能性があります。また、後払い決済サービスの活用も、クレジットカードを持たない層へのアプローチとして有効でしょう。
3. 小口・高頻度購買の促進
メキシコのEC市場の平均購買単価は1,000ペソ(約7,350円)と、比較的小額です。この小口購買と高頻度の組み合わせが、市場全体の成長を支えています。
日本のEC事業者も、高額商品の販売に注力するだけでなく、日常的に購入される低価格帯の商品ラインナップを充実させることで、購買頻度を高められます。サブスクリプションモデルの導入や、定期購入割引なども、購買頻度向上に有効な施策です。
市場シェア拡大の可能性
メキシコは小売売上全体に占めるオンライン販売の割合が14.8%に達し、世界トップ15に入りました。これはポーランド、日本、アルゼンチンを上回る数字です。日本のEC化率が依然として10%前後で推移していることを考えると、メキシコの事例は、適切な戦略により市場シェアをさらに拡大できる可能性を示唆しています。
特に注目すべきは、メキシコがこの成長を実現した背景には、インフラの整備だけでなく、消費者の行動変容を促す取り組みがあったことです。日本のEC事業者も、単に商品をオンラインで販売するだけでなく、消費者の購買行動そのものを変革する視点が必要です。
課題と対策:関税問題への対応
AMVOのエグゼクティブディレクターであるピエール・クロード=ブレーズ氏は、2025年も成長は続くと予測する一方で、米国による関税の影響を懸念しています。「マクロ経済要因は確かにEコマースに影響を与えるが、困難な時期においても大きな回復力を見せてきた」と述べています。
この指摘は、日本のEC事業者にとっても重要です。国際情勢の変化、為替変動、原材料価格の高騰など、外部要因による影響は避けられません。しかし、メキシコの事例が示すように、市場の基本的な成長トレンドが強固であれば、一時的な逆風も乗り越えられます。
日本のEC事業者が実践すべき成長戦略
メキシコの成功事例から、日本のEC事業者が学ぶべき戦略をまとめます。
まず、顧客層の拡大です。既存の顧客層に満足せず、これまでECを利用していなかった層へのアプローチを強化する必要があります。高齢者向けの使いやすいインターフェース、地方への配送体制の強化、デジタルに不慣れな層へのサポート体制など、包括的な取り組みが求められます。
次に、決済方法の多様化です。クレジットカード決済に偏らず、現金ベースの決済、電子マネー、QRコード決済、後払いサービスなど、多様な決済オプションを提供することで、より幅広い顧客層にアプローチできます。
また、購買頻度を高める施策も重要です。高額商品だけでなく、日常的に購入される商品の充実、定期購入プログラムの導入、リピート購入を促すロイヤルティプログラムなど、顧客との継続的な関係構築に注力すべきです。
さらに、レジリエンスの構築も欠かせません。外部環境の変化に対応できる柔軟な事業構造、複数の調達ルートの確保、価格戦略の見直しなど、困難な時期でも成長を維持できる体制を整える必要があります。
まとめ:持続的成長への道筋
メキシコのEC市場が6年連続で2桁成長を達成した事実は、適切な戦略により、成熟市場と思われていた分野でも大きな成長が可能であることを証明しています。Eコマースの民主化、決済方法の多様化、小口・高頻度購買の促進という3つの要因は、日本のEC市場でも十分に応用可能です。
重要なのは、既存の枠組みにとらわれず、まだECを利用していない潜在顧客層に目を向けることです。メキシコが中低所得層や銀行口座を持たない層を取り込んだように、日本でも高齢者、地方在住者、デジタルに不慣れな層など、未開拓の市場は確実に存在します。
EC事業者の皆様には、メキシコの成功事例を参考に、自社の成長戦略を見直すことをお勧めします。市場の成熟は成長の終わりではなく、新たな戦略による飛躍のチャンスかもしれません
引用:americaeconomia