日本からベトナムへの越境EC入門:市場動向・始め方・成功のコツ

投稿日: カテゴリー 越境EC

近年、急成長を続けるベトナムのEC(電子商取引)市場は、日本の中小企業にとって新たなビジネスチャンスとして注目されています。実質GDP成長率が5%台と高水準で推移し人口約1億人(平均年齢31歳)という若い市場では、オンラインショッピング利用者が年々増加中です。また、「日本製品は品質が良い」「日本企業は信頼できる」という印象から、日本発の商品への需要と期待も高まっています。とはいえ、越境ECには現地市場の知識や物流・決済面での課題も付きものです。本記事では、日本からベトナムへの越境ECを始めるにあたり知っておきたい最新の市場動向、ベトナムEC市場の特徴、具体的な始め方のステップ、ありがちな失敗例とその対策、そして初心者が押さえるべき成功のコツを解説します。初心者にもわかりやすく、ゼロから越境ECをスタートするためのガイドとしてぜひ参考にしてください。

ベトナム向け越境EC市場の現状と成長性

ベトナムのEC市場はここ数年で急拡大しており、その成長性は非常に高いと言えます。2024年のベトナムEC市場規模は前年比約20%増の約250億ドルに達し、国内小売市場全体の8%を占めています。これはASEAN諸国の中でインドネシア、タイに次ぐ第3位の規模で、2025年には450億ドル規模に達するとの予測もあります。政府も「2025年までにEC比率10%以上」を目標に掲げ、将来的に20%超まで引き上げたい意向を示しており、市場拡大に向けたインフラ整備や制度整備が進んでいます。

特に都市部を中心にインターネット・スマホ普及率が高く、若年層を中心としたオンライン購買意欲が旺盛です。2018年から2023年の5年間でEC市場規模がおよそ2.6倍にも拡大し、一人当たりの年間オンライン購入額も336ドル(約4万~5万円)と約7割増加しました。これはEC利用が日常生活に浸透しつつある証拠と言えるでしょう。政府の積極的なデジタル経済推進策やキャッシュレス化の促進も相まって、市場は今後も二桁成長が続く見通しです。

こうした市場成長とともに、越境EC(海外からのオンライン購入)も増加傾向にあります。実際、2024年には海外からベトナムへのEC商品輸入数が3億2,400万点超となり、前年から約38%増加しました。その売上総額は約5億6,450万ドル規模(前年比43%増)に達しており、越境ECによる購買ニーズが急速に高まっていることがわかります。日本企業にとっても、質の高い日本製品を求めるベトナム人消費者にアプローチできる絶好の機会が広がっています。事実、東南アジア最大級のECプラットフォームである「Shopee(ショッピー)」は、ベトナム国内での高いシェアと日本製品需要の高まりを背景に、2024年4月から日本発の商品をベトナム向けに販売できるサービスを開始しました。多くの日本企業・消費者がこの開始を待ち望んでいたとも言われ、越境ECを通じて日本の商品を直接ベトナムに届けるハードルは徐々に下がっています。

以上のように、ベトナム向け越境EC市場は高い成長性と潜在力を持っています。経済成長による購買力アップに加え、現地での日本製品に対する信頼感も追い風となり、今後さらに市場規模が拡大することが期待されます。ただし、競合他国(中国や韓国など)の参入も増えているため、しっかりと市場を分析し、自社の強みを活かした戦略で挑むことが重要です。

ベトナムのEC市場の特徴(モール、SNS、購買行動、人気商品)

次に、ベトナムのEC市場が他国と比べてどのような特徴を持つのか把握しておきましょう。主要なポイントとして、「どのプラットフォーム(モール)が使われているか」「SNSなどの活用」「消費者の購買行動」「人気商品カテゴリ」が挙げられます。

主なECプラットフォーム(モール)
ベトナムではマーケットプレイス型のECモールがオンライン購入の中心です。中でも最大手はShopee(ショッピー)で、2024年時点でベトナムEC市場の約67%もの取引額シェアを占める圧倒的トップ企業です。Shopeeは東南アジア全域で人気が高く、モバイルアプリの使いやすさや定期的な大型セール(例: 9月9日や11月11日のセール)によって若年層を中心に支持されています。また、近年急成長しているのがTikTok Shopです。ショート動画SNSのTikTok上で直接買い物ができるサービスで、ライブコマースやエンタメ性を取り入れた「ショッパーテインメント」でユーザーを急速に獲得しています。TikTok Shopは2024年にベトナムEC市場シェアの約27%を占めるまでになり、2025年上半期には売上が前年同期比69%増と爆発的な伸びを示しました(市場シェアも一時40%近くまで上昇)。このようにShopeeとTikTok Shopで市場全体の9割以上を占めており、新人が参入するならまずこの2強プラットフォームを検討するのがおすすめです。

その他のプラットフォームでは、東南アジアで広く展開するLazada(ラザダ)、国内資本のTiki(ティキ)、C2C寄りのSendo(センドー)などがあります。ただしShopeeやTikTokに比べると近年はシェアを落としており、一部では業績悪化も報じられています。FacebookやInstagramといったSNS上で個人間売買やライブ配信販売も行われていますが、公式なモールに比べると信頼性や決済面で課題があり、現状ではマーケットプレイスを通じた購入が主流です。まずはShopeeなど日系企業の出店サポートが整ったプラットフォームから始め、ゆくゆく販路拡大の一環でSNS活用や自社サイト展開を検討すると良いでしょう。

SNSと購買行動の関係
ベトナムではSNS利用率が非常に高く、FacebookやZalo(ベトナムのチャットアプリ)、TikTok、Instagramといったプラットフォームが日常的に使われています。特にTikTokは若者を中心に爆発的な人気で、エンタメ動画から商品を知りそのまま購入するケースも増えています。またFacebook上のショップページやグループで商品を売買するソーシャルコマースも根強く存在します。このように、商品情報の収集や口コミ確認にSNSを活用する消費者が多いことが特徴です。購入前にSNSやレビューサイトで評判をチェックしたり、ライブ配信で実物を見て安心した上で購入を決める傾向があります。日本企業にとっても、現地でSNSマーケティングを駆使することがブランド認知・信頼獲得の鍵となるでしょう。

ベトナム消費者の購買行動・志向
ベトナムのオンライン消費者には、「慎重である」という傾向が指摘されています。過去に詐欺サイトや偽物被害などもあり、初めて利用するショップや見知らぬ販売者に対してすぐには信用せず十分に確認してから購入に踏み切る人が多いようです。例えば、EC上でも問い合わせ機能(チャット)を使って積極的に販売者へ質問し、応対の様子や回答を見て「信頼できる」と感じてから購入することがよくあります。これは、対面の実店舗で店員と会話し安心して買う感覚に近く、オンラインでもコミュニケーション重視の文化があると言えます。一方、日本では通販で購入時に販売者と直接やり取りすることは稀ですが、この違いを理解し現地の期待に応える対応が求められます。また、商品品質に対する警戒心も強く、ある調査では84%の消費者がオンライン購入時に品質への不安を感じると報告されています。そのため、「日本製で高品質だから安心」と納得すれば購入意欲が一気に高まるケースも多く、日系事業者は商品の品質保証や正規品アピールをしっかり行うことが大切です。

また、支払い方法に関する嗜好も特徴的です。近年モバイル決済やクレジットカードも普及し始めていますが、それでも代金引換(Cash on Delivery, COD)を好む人が少なくありません。商品到着時に現金払いできるCODは長年オンライン取引の主流であり、特に地方や高齢層では根強く使われています。一方で都市部の若年層では電子ウォレット(MoMoやZaloPayなど)や国際ブランドのクレジットカード払いを利用する人も増えています。このように世代や地域による違いはあるものの、「支払いはとりあえず現金で」という安心感は依然強いと言えます。越境ECで日本から販売する際も、現地消費者が使いやすい決済手段を提供することが重要です。マーケットプレイスに出店すればプラットフォーム側がCODや電子決済を代行してくれるため、まずはそうした仕組みを活用するとよいでしょう。

人気商品カテゴリと日本製品のチャンス
ベトナムのEC市場ではファッション(衣料品)が取引額ベースで最大カテゴリとなっており、若い女性を中心に国内外の衣料・アクセサリーがオンライン購入されています。次いで日用消費財(FMCG)や家電・電子製品が大きな割合を占め、特に日用品・食品などの消費財は前年から62%増と著しい伸びを示しました。この背景には、都市部の共働き世帯を中心にネットで日用品や食料品をまとめ買いする習慣が広がっていることが挙げられます。こうした現地需要を踏まえ、日本から参入する際も以下のような商品にチャンスがあります。

生活雑貨・家庭用品:日本製の生活雑貨(キッチン用品、掃除グッズ、文具など)は品質の良さや便利さから人気があります。実際、日本企業の越境EC担当者への調査でも「ベトナムで売りたい商品」のトップに生活雑貨が挙げられています。100円ショップの商品や日本の伝統工芸品なども面白いかもしれません。

衣料・ファッション小物:若者向けのファッションは競争が激しい分野ですが、日本ブランドやデザイン性の高い服飾品には一定のファン層がいます。特に機能性アパレルやバッグ・アクセなどは潜在需要があります(調査では衣料品が売りたい商品の2位)。サイズ感や流行の違いには注意が必要ですが、独自性のある商品で勝負できます。

食品・飲料:日本のお菓子、インスタント食品、調味料、お茶・飲料などは東南アジア各国で人気が高まっています。ベトナムでも和風の調味料や健康志向の食品などに興味を示す層があります。ただし生鮮食品や賞味期限の短いものは避け、長期保存が可能で現地で珍しいものに絞るのが良いでしょう(調査では食品(加工食品)が3位)。

化粧品・日用品:日本製の化粧品・スキンケアや医薬部外品、ベビー用品は「高品質で安全」と評価されやすいジャンルです。越境ECでも売れ筋カテゴリの一つですが、一部製品は輸入規制や現地許認可が必要な場合があるため事前確認が必須です。

ホビー・ソフトウェア等:意外なところでは、ゲーム・アニメ関連商品や日本のソフトウェア・サービスもニーズがあります(調査でソフトウェアを売りたいとする回答が約28%ありました)。デジタルコンテンツやサブカルチャー商材など、ニッチでも熱狂的なファンがいる分野はオンラインとの相性が良く狙い目です。

以上のように、ベトナムEC市場の特徴を踏まえて商品戦略や販売チャネルを選ぶことが重要です。どのモールに出店するか、SNSでどのように宣伝するか、現地消費者の購買行動にどう対応するか、といった点を押さえておけば、越境EC展開の成功率を高めることができるでしょう。

ベトナム向け越境ECを始めるステップ

それでは、具体的に日本からベトナムへの越境ECを始める手順をステップごとに見ていきましょう。初めて海外ECに挑戦する場合でも、このステップに沿って準備を進めればスムーズにスタートできるはずです。

市場リサーチと商品選定
まずは現地の市場ニーズを調査し、販売する商品を選ぶところから始めます。ベトナムでどんな商品が人気なのか、競合はどんな商品を売っているのか、価格帯はどれくらいかといった情報を集めましょう。具体的には、ベトナムの主要ECサイトで類似商品の売れ行きやレビューをチェックしたり、SNSで話題の商品をリサーチすると効果的です。例えば「日本製○○」で検索して現地ユーザーの反応を見るのも参考になります。また、自社の商品が現地の文化や嗜好に合うかも評価ポイントです。商品候補が決まったら、その商品が輸出入規制に抵触しないか(例:食品や化粧品は成分規制あり、電化製品は技術基準あり)を確認し、問題なければ試験的に少量を販売してみると良いでしょう。市場リサーチに時間をかけることが、後々の大きな失敗防止につながります。

販売チャネル(モール)の選定
次に、どのプラットフォーム上で販売するかを決めます。ベトナム向け越境ECでは、多くの場合現地のECモール(マーケットプレイス)に出店する形が現実的です。先述の通りShopeeやLazadaなどが代表的で、これらのサイトでは海外販売者向けの出店プログラムが用意されています(日本語でのサポートや物流代行サービス等も利用可能)。特にShopeeは2024年から日本→ベトナム直送に対応しており、初心者でも比較的簡単にアカウント開設・出品ができます。まずはこうした大手モールに出店し、プラットフォームの集客力を活かすのが得策です。一方、自社でベトナム語のECサイトを立ち上げる方法もありますが、集客や決済手段の確保が難しいため、初期段階ではハードルが高いでしょう。将来的にブランディング目的で自社サイトを運営するにしても、まずはモールで実績を積んでから検討するのがおすすめです。またSNS上での直接販売(例:FacebookショップやInstagramショッピング)も可能ですが、決済・物流面の課題が多いため、現地パートナーなしでいきなり行うのはリスクがあります。総じて、信頼性が高く利用者の多いチャネルから始めることが成功への近道です。

物流(国際配送)の手配
販売チャネルを決めたら、商品の発送方法と物流体制を整えましょう。越境ECでは、日本からベトナムまで商品を送る国際配送が必要になります。一般的な方法としては、国際宅配便(クーリエ)を利用するケースと、モール提携の越境物流サービスを利用するケースがあります。たとえばShopeeに出店する場合、指定の日本国内集荷拠点に商品を送れば、あとはShopee側がベトナム顧客への最後の配送まで手配してくれる仕組みがあります。自社で個別に手配する場合は、EMS(国際スピード郵便)やDHL/UPSなどのクーリエ便を利用できますが、送料が高額になる傾向があります。商品単価や大きさ・重量によって最適な方法を選びましょう。複数注文をまとめて国際輸送し、現地で小分け配送するフォワーダーサービスを活用するとコスト削減できる場合もあります。いずれにせよ、配送コストと配達日数のバランスが重要です。配送に時間がかかりすぎるとクレームになりかねませんし、送料が高すぎると顧客離れにつながります。目安として、航空便利用で発送後3日~1週間程度で届くスキームを構築できると理想的です。また、万が一の紛失・破損時の補償や返品対応の流れも決めておきましょう。初めは少量出荷から始め、実績ができてきたら現地に在庫を置くことも検討すると、配送リードタイムが短縮でき競争力が上がります。

決済方法の準備
ベトナムの顧客から代金を受け取る決済手段も重要なステップです。上述のようにベトナムではCOD(代金引換)が多く利用されていますが、海外事業者が直接CODを提供するのは難しいため、モールに出店する場合はプラットフォームの決済システムに任せる形になります。ShopeeやLazadaでは、顧客からの支払い(オンライン決済や受取時の現金)をいったんプラットフォーム側が受け取り、その後売上を出店者に送金する仕組みです。したがって、個別に現地の決済代行会社と契約しなくても、モールを使えば主要な決済手段は網羅できます。自社サイトで販売する場合は、ペイパルなどの国際決済サービスや、現地の決済ゲートウェイを導入する必要があります。しかし手続きや管理が煩雑になるため、初心者にはハードルが高めです。まずはモール標準の決済フローを利用し、売上代金の日本への送金方法(例えば月次で日本の銀行口座に振込など)を確認しておきましょう。また、価格設定の際には決済手数料や為替レートも考慮します。プラットフォーム手数料や送金時の為替手数料で数%差し引かれることが多いため、利益計算に入れておきましょう。加えて、プロモーション目的で割引クーポンやポイントを提供する際は、そのコストも自社負担になる場合があります。適切な決済手段を準備し、スムーズかつ安全に代金回収できる体制を整えることが信頼構築にもつながります。

関税・法規制の確認
越境ECでは輸出入に関わる各種法規制への対応も避けて通れません。まず念頭に置くべきは関税や輸入消費税(VAT)の負担です。ベトナムでは2024年8月の法改正により、国際郵便・宅配便で輸入される50ドル未満の商品にも一律20%の関税が課されるようになりました(従来は50ドル以下は免税)。つまり小額の商品でも税金がかかるため、商品価格設定や送料込みの総額表示などで顧客に不信感を与えない工夫が必要です。通常、関税やVATは受取人(顧客)側が負担しますが、配送業者が立替えて配達時に徴収する形になります。高額商品になるほど税負担も重くなるため、その点を説明文に記載する、あるいは価格に予め込み込みにして「関税込価格」とするケースもあります。また、商品によっては輸入許可や検疫が必要です。例えば食品や健康食品、化粧品は本来ベトナム側で登録や許可が求められます。ただし少量で個人使用目的と見なされる範囲では簡易な通関で済むこともあります。トラブルを避けるため、販売前に現地の規制を確認し、必要に応じて扱いやすいカテゴリの商品から始めると良いでしょう。さらに2025年以降、ベトナム政府は越境ECでの消費者保護を強化する方向にあります。具体的には、海外事業者にも現地企業と同等の責任を課す新電子商取引法が検討されており、可決すればベトナムで販売する外国企業は商工省への事業登録や現地代表者の設置が義務化される可能性があります。今後法規制が変わることも見据え、最新情報をウォッチするとともに、場合によっては現地のパートナー企業を通じて販売する体制も検討しましょう。以上のように、関税負担や法令順守への対応は煩雑に思えますが、ここを軽視すると最悪商品の配送停止や罰則にもなりかねません。信頼できる物流業者・通関業者と連携しつつ、適切に対処してください。

現地サポート体制・パートナーの活用
最後に、現地での運営サポート体制を整える/協力パートナーを見つけることも成功のカギです。言語の壁や時差、文化の違いを考えると、すべてを日本の本社メンバーだけで賄うのは難しい場合があります。そこで、例えばベトナム語対応が可能なスタッフやカスタマーサポート要員を確保しましょう。社内にいなければ、フリーランスの翻訳者やBPOサービスを利用してチャット対応や問い合わせメールの返信を委託することもできます。返信の早さや丁寧さはレビュー評価にも影響するため、現地語でスムーズに対応できる体制は必須です。また、マーケティング面では現地のEC運営代行会社やデジタルマーケティング代理店に協力を仰ぐ方法があります。彼らは検索広告やSNSプロモーション、インフルエンサーマーケティングなど現地ならではの集客ノウハウを持っており、費用対効果が見合うようであれば検討する価値があります。さらに、商品回収や返品対応のために現地倉庫を持つ物流パートナーと契約するケースもあります。これは扱う商品量が増えてからで構いませんが、将来的な拡大を見据え早めに情報収集しておくと良いでしょう。総じて、「信頼できるパートナーを持つこと」が越境EC成功の近道です。現地の文化・商習慣に詳しいパートナーのアドバイスは貴重ですし、トラブル時の対応も安心です。もちろんパートナーに頼りきりではなく、自社でも現地市場への理解を深めながら二人三脚で進めていく姿勢が大切です。

以上のステップを踏むことで、日本に居ながらベトナムの顧客に商品を届ける越境ECビジネスをスタートすることができます。次章では、初心者が陥りがちな失敗例とその対策について具体的に見ていきましょう。

よくある失敗例と対策

越境ECにはチャンスがある一方で、準備不足や日本国内と同じ感覚で挑戦すると思わぬ失敗につながることもあります。ここでは、日本→ベトナム越境ECでよくある失敗パターンと、その対策(解決策)をいくつか紹介します。同じミスを繰り返さないよう、事前に対策を講じておきましょう。

失敗例1: 市場リサーチ不足による商品ミスマッチ
・ありがちな失敗: 十分な市場調査をしないまま「日本で売れているから」という理由だけで商品を選び、ベトナムでは需要が低かったり競合が強すぎたりして売れないケースです。また、現地の文化や習慣を考慮せずニッチすぎる商品を投入してしまい、思うような結果が出ないこともあります。

・対策: 進出前に徹底した市場リサーチを行いましょう。現地ECサイトのランキングやレビューを調べ、ターゲット層や競合状況を把握します。可能であれば現地の知人やSNSコミュニティから生の声を集めるのも有効です。そして最初は小ロット・少数の商品でテスト販売し、反応を見てから本格的に仕入れるようにします。一度に大量の商品を送り込むのではなく、まずは様子を見る慎重さが大切です。

失敗例2: 言語・文化の壁への対応不足
・ありがちな失敗: 商品ページやカスタマーサポートを日本語や英語で済ませてしまい、現地顧客に内容が伝わらなかったり不信感を与えたりするケースです。自動翻訳だけに頼った不自然なベトナム語や、文化的に不適切な表現を使ってクレームになることもあります。

・対策: 現地言語へのローカライズは基本中の基本です。商品タイトル・説明は自然なベトナム語に翻訳し、サイズや重量など単位も現地標準に合わせましょう(cmやg表記にする等)。可能であればネイティブチェックを受けて、不自然な表現や誤訳をなくします。また、ベトナム特有の文化やタブーにも配慮しましょう。例えば縁起の良い色・悪い色、数字の意味合いなど、日本とは異なる点があります。現地向けのプロモーションやビジュアルデザインでも、文化的背景をリサーチした上で作成すると好印象を与えられます。言語と文化の壁を乗り越える努力が、顧客からの信頼と共感につながります。

失敗例3: 信頼構築の軽視(コミュニケーション不足)
・ありがちな失敗: 出店すれば自然と売れるだろうと考え、顧客からの質問やレビューに十分答えなかったり、店舗プロフィール・商品情報が簡素なままで信頼感を得られないケースです。特にベトナムの消費者は慎重なため、情報不足だと購入を躊躇してしまいます。

・対策: 丁寧な情報提供とコミュニケーション対応を心がけましょう。商品ページには商品の仕様・サイズ・素材、使い方、保証や返品ポリシーまでできる限り詳しく記載し、顧客の不安を取り除きます。問い合わせには迅速に返信し、たとえ繰り返し聞かれる内容でも丁寧に対応することで「誠実な販売者」という評価を得られます。また、日本企業である強みも活かしましょう。「日本直送」「日本人スタッフ検品済み」「Made in Japanの高品質」といったアピールや、自社ブランドの歴史・受賞歴など信頼につながるエピソードを紹介するのも効果的です。さらに、購入者から良いレビューをもらったらお礼を伝える、問題が起きたら真摯に謝罪して迅速に対応するといった姿勢も大切です。信頼は何よりの資産ですので、短期的な売上より長期的な信用構築を優先しましょう。

失敗例4: コスト計算の甘さによる採算悪化
・ありがちな失敗: 現地の販売価格や送料、手数料、関税などを正確に把握せずに出店し、いざ始めてみたら「売れても利益がほとんど出ない」「むしろ赤字だった」というケースです。特に送料や関税は見落としがちで、後から想定以上にコストがかかっていることに気づくことがあります。

・対策: 収支シミュレーションを事前に行うことが重要です。商品原価に加え、日本国内送料+国際送料+現地配送料、プラットフォーム手数料、決済手数料、関税・VAT、為替変動リスクといった要素をすべて洗い出し、適正な販売価格を設定しましょう。競合価格と照らし合わせて高すぎないかも確認が必要です。また、送料節約のために梱包を工夫する(軽量化・コンパクト化)、まとめ買い割引を提供して一件あたり利益率を上げるなどの対策も有効です。セールやクーポンを乱発しすぎて自ら利益を削り過ぎないよう注意しましょう。越境ECはコスト構造が日本国内販売と大きく異なるため、最初は細かく経費を計算し、軌道に乗ってきたら物流改善や値引き交渉でコストダウンを図っていくと良いでしょう。

失敗例5: 現地ニーズ・商習慣への未対応
・ありがちな失敗: 日本のやり方のまま進めてしまい、ベトナム特有のニーズに応えられず失敗するケースです。具体的には「代金引換に対応していないため注文を取りこぼす」「現地の祝日・セール時期を逃して機会損失」「クレーム対応でお詫びの文化を誤解しトラブルになる」等があります。

・対策: 現地の商習慣や購買ニーズを事前によく学ぶことが大切です。例えば決済では可能な限りCOD対応する、あるいは代引不可の場合はその旨を明記し先払いの安心感を高める工夫をします(口コミや実績で信頼を獲得するなど)。プロモーションでは9月や11月の大型セール、旧正月(テト)前の需要増など現地の季節イベントに合わせた販売計画を立てます。現地のカレンダーを意識し、日本とは異なるタイミングの売れ筋を逃さないようにしましょう。カスタマーサービス面でも、クレームがあった際は日本以上に丁寧なお詫びや補償の提案をすることが求められる場合があります。東南アジアでは顧客が「King(王様)」とも言われるほどサービス重視の文化があり、特にネガティブな体験をさせてしまった際のフォローは手厚くすることで評価が改善します。「郷に入っては郷に従え」の精神で、現地のルール・マナーに沿った対応を心がけましょう。

失敗例6: パートナー不在による手詰まり
・ありがちな失敗: すべてを自社メンバーだけで行おうとして対応しきれず、結果として顧客対応の遅延やマーケティング不足で失敗するケースです。特に小規模チームの場合、言語の壁や時差対応、現地物流トラブルなどに個別対応しているうちにリソースが尽きてしまうことがあります。

・対策: 適切なパートナーや外部サービスを活用しましょう。例えば、繁忙時のカスタマーサポートは外注コールセンターを利用したり、翻訳業務はプロ翻訳者に任せたりするだけでも負担が減ります。マーケティングも現地の代理店にSNS運用を委託すれば、自社は商品開発や戦略に専念できます。また、現地で信頼できるビジネスパートナー(代理店や卸先)を見つけて共同でプロモーションを行うのも一手です。現地企業とのネットワークが広がれば、生の市場情報も入りやすくなります。「自分たちだけで何とかしよう」と抱え込まず、使えるリソースは積極的に使う柔軟さが、結果的に事業の継続性と拡大につながります。

以上のような失敗例は、事前に知っていれば避けられるものばかりです。越境ECでは日本国内の延長線上では通用しない部分も多いため、「現地目線で考える」「慎重すぎるくらいで丁度よい」を意識して準備・運営していきましょう。

初心者が最初にやるべきことと成功のコツ

初めて越境ECに挑戦する際、まず最初に取り組むべきなのは徹底的な事前準備です。特に市場調査と計画立案に時間を割いてください。どのカテゴリーにチャンスがありそうか、競合との差別化ポイントは何か、物流やコスト面の課題は何か――これらを洗い出し、ビジネスモデルをシミュレーションしてみましょう。また、可能であれば少額でも構わないので試験的に販売を始めてみることもおすすめします。小さく始めてみることで実際の課題が見えてきますし、成功体験が自信にもつながります。

最後に、ベトナム向け越境ECを成功させるためのコツや心構えをいくつか挙げます。

ローカライズ徹底と現地志向: 「現地の人になったつもり」で商品ページや接客対応を最適化しましょう。言語翻訳だけでなく、現地の文化・トレンドに沿ったキーワードやビジュアルを取り入れることで親近感を持ってもらえます。現地ユーザーの視点に立つことが何より重要です。

「品質」と「安心」の訴求: 日本製品の強みである品質や安全性は最大の武器です。商品のこだわりや品質証明(認証マーク等)があれば積極的に伝えましょう。「多少高くても良いものを買いたい」という層に響けば、送料や価格のハンデを乗り越えて選んでもらえます。逆に品質に自信がない商品で勝負するのは避けるべきです。

SNS・口コミの活用: 現地で影響力のあるSNSや口コミサイトで自社商品を紹介してもらう工夫をしましょう。たとえばFacebookやTikTokでプロモーションを行ったり、現地のインフルエンサー(KOL)に商品を試してもらいレビューしてもらう手もあります。良い口コミが広がれば信頼性が飛躍的に向上し、販売増加につながります。

プラットフォーム機能の最大活用: 出店したECモールの販促機能やキャンペーンは積極的に活用しましょう。セールイベントへの参加、クーポン発行、バナー広告の利用など、モール内で露出を増やす施策を継続的に実施します。特に「ダブルデーセール(11/11や12/12など)」は大量のユーザーが訪れるため、在庫と割引設定を準備して積極参戦する価値があります。

顧客の声をもとに改善: 販売を開始したら、顧客からのフィードバックを宝の山と捉えましょう。レビューや問い合わせで指摘された点は真摯に受け止め、商品改良やサービス向上に活かします。例えば「梱包が簡素だった」という声があれば緩衝材を追加する、「サイズが分かりにくい」という声があれば寸法図を載せる、といった具合です。現地の生の声を製品・運営に反映させることで、ブランドへの信頼とリピート購入が得られます。

辛抱強く継続する: 越境ECは一朝一夕で大成功することは稀です。最初の数ヶ月は注文が僅かかもしれませんが、そこで諦めずPDCAを回し続けることが大切です。地道な努力の積み重ねがある日花開き、口コミやリピーターで売上が伸びていくというケースも多々あります。「継続は力なり」を忘れず、中長期的な視点でビジネスを育てていきましょう。

まとめ

ベトナムへの越境ECは、中小の日本企業にとって大きな成長機会となり得ます。急成長する若い市場で、日本製品への信頼という追い風も受けつつ、自社の商品を直接届けられる魅力的なチャネルです。しかし、その反面で現地特有の課題も存在します。本記事で述べた市場動向やモール環境を理解し、適切なステップを踏んで準備することで、リスクを最小限に抑えつつ参入できます。重要なのは「相手を知る」ことと「入念な計画」、そして「継続的な改善」です。最初はハードルが高く感じられるかもしれませんが、小さく始めて経験を積めば徐々にコツが掴めてきます。ぜひ焦らずに一歩ずつ取り組み、ベトナム市場での越境EC成功を目指してください。皆さんのチャレンジが実り多いものとなることを願っています。


投稿者: 齋藤竹紘

齋藤 竹紘(さいとう・たけひろ) 株式会社オルセル 代表取締役 / 「うるチカラ」編集長

   
Experience|実務経験
2007年の株式会社オルセル創業から 17 年間で、EC・Web 領域の課題解決を 4,500 社以上 に提供。立ち上げから日本トップクラスのEC事業の売上向上に携わり、 “売る力” を磨いてきた現場型コンサルタント。
Expertise|専門性
技術評論社刊『今すぐ使えるかんたん Shopify ネットショップ作成入門』(共著、2022 年)ほか、 AI × EC の実践知を解説する書籍・講演多数。gihyo.jp
Authoritativeness|権威性
自社運営メディア 「うるチカラ」で AI 活用や EC 成長戦略を発信し、業界の最前線をリード。 運営会社は EC 総合ソリューション企業株式会社オルセル
Trustworthiness|信頼性
東京都千代田区飯田橋本社。公式サイト alsel.co.jp および uruchikara.jp にて 実績・事例を公開。お問い合わせは info@alsel.co.jp まで。

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