Shopifyの最新AIツール「Sidekick」、海外では75万店舗が導入済み:日本のEC事業者が知るべき活用法

投稿日: カテゴリー Shopify

2025年のホリデーシーズンを前に、アメリカやヨーロッパのShopify加盟店では、AI活用が当たり前の光景になりつつあります。Shopifyが提供するAIアシスタント「Sidekick」は、2025年第3四半期だけで75万以上の新規店舗が利用を開始しました。日本ではまだ馴染みの薄いこのツールですが、海外の中小EC事業者がどのように活用しているのか、具体的な事例から学べることは多いはずです。

Sidekickとは何か

Sidekickは、Shopifyの管理画面に直接組み込まれたAIアシスタントです。単なるチャットボットではなく、デザイナー、コピーライター、マーケター、テクニカルサポート、データアナリストという5つの役割を兼ね備えています。しかも各店舗のビジネスデータを理解しており、店舗固有の状況に応じた提案ができる点が特徴です。

これまでに約1億回の会話を処理してきたこのツールは、かつては大企業にしかできなかった高度な機能を、独立系の小規模店舗でも使えるようにしています。実際、海外の小売事業者の88%が今シーズンにAI導入への投資を行っていると報告されており、競争環境が大きく変化していることがわかります。

海外事例1:アメリカの子供服ブランド「Brave Little Ones」

アメリカで子供服を展開するBrave Little Onesは、昨年の繁忙期を前にShopifyの最新テーマ「Horizon」に移行しました。共同創業者のJon Ezellによれば、わずか1日で新しいテーマへの移行が完了したといいます。

大型セール前にサイトのデザインや文言を修正するのは、多くのEC事業者にとって負担の大きい作業です。しかしSidekickを使うことで、Jonはこれを驚くほど短時間で実行できるようになりました。

「Sidekickを使えば、アイデアを思いついた瞬間にセクションを作成してウェブサイトに配置し、効果を確認できます」とJonは語ります。今年のブラックフライデー・サイバーマンデー(BFCM)では、カスタムバナーの作成にSidekickを活用する予定です。複数のバージョンを素早くテストし、顧客の反応に応じてリアルタイムで調整する、というアプローチが可能になっています。

日本の楽天市場やYahoo!ショッピングでも、セール期間中のバナー変更や特集ページの作成は重要な作業です。このような迅速なA/Bテストの考え方は、日本のEC事業者にも参考になるでしょう。

海外事例2:オーストラリアのアパレル「BlackMilk Clothing」

バービー、スーパーマリオ、スター・ウォーズといった人気フランチャイズとのコラボで知られるオーストラリアのBlackMilk Clothingは、Sidekickを人材育成に活用しています。

CEOのJackie Krugerが見つけた活用法は、新入社員の研修支援です。「知っているべきことを質問して恥をかきたくない、という場面がありますよね」とJackieは言います。「Sidekickは店舗のことを理解しているので、技術的な質問にも答えられます。新人は自分のペースで学べるんです。」

ホリデーシーズンに向けて季節雇用を増やす店舗にとって、この活用法は非常に実用的です。日本でも年末商戦や福袋シーズンに臨時スタッフを雇う店舗は多いはずです。オンボーディングの効率化は、人手不足に悩む日本の中小EC事業者にとって大きなヒントになります。

さらにBlackMilkは、海外市場への展開にもSidekickを活用しています。「データを地域別に分析して、地域ごとに活動を最適化しています。Sidekickはその作業を大幅に効率化してくれます」とJackieは述べています。

海外事例3:イギリスのバッグブランド「Cancha」

元プロテニス選手のJack Oswaldが立ち上げたイギリスのバッグブランドCanchaは、世界中に商品を発送するグローバルビジネスを展開しています。一人で事業を運営するJackにとって、AIは欠かせないパートナーです。

「1〜2年前には不可能だった方法で戦略的計画に取り組めるようになりました」とJackは言います。「ソロプレナーとして、共同創業者がいない中で複数の相互依存する計画を管理しています。」

Canchaでは、予約注文キャンペーン(「バッグドロップ」と呼んでいます)やホリデーセールの準備にSidekickを使用しています。今年のBFCMに向けては、在庫計画の予測にSidekickを活用しました。

「昨年第4四半期の販売速度に基づいて在庫生産を計画するためにSidekickを使いました。通常なら何時間もかかる作業が、信じられないほど短時間で完了しました」とJackは語ります。

日本のEC事業者も、年末商戦や季節商材の仕入れ判断には頭を悩ませているはずです。データに基づく需要予測は、在庫リスクを減らす上で極めて重要な要素です。

海外事例4:カナダのクッキー配送「Félix & Norton」

カナダでグルメクッキーの配送サービスを展開するFélix & Nortonは、Sidekickの導入によってデータアナリストの採用を見送ることができました。

COOのSimon Paquinは「AIツールのおかげで新規採用が不要になりました」と明言します。「私はCOO、CMO、パートタイムのCFOを兼任していますが、すべての仕事を9時から5時の間に終わらせています。」Sidekickがビジネスデータの分析を担当してくれるため、追加の人員が不要になったのです。

ホリデーシーズンが近づくと、企業向けギフトや大規模パーティーの注文が急増します。Simonはこの時期、マーケティング予算を最大限活用するためにSidekickに頼っています。

「Facebook広告がビジネスの要です。広告コストをSidekickに入力すると、何をすべきか教えてくれます」とSimonは説明します。

日本でもSNS広告の運用は重要な販促手段ですが、中小事業者が専門のマーケターを雇うのは現実的ではありません。AIによる広告最適化の提案は、限られたリソースで最大の効果を得たい事業者にとって魅力的な選択肢です。

日本のEC事業者への示唆

これらの海外事例から、日本のEC事業者が学べることは何でしょうか。

まず、AIツールは「大企業のもの」ではなくなっています。月商数百万円から数千万円規模の中小事業者こそ、限られた人員とリソースを最大限活用するためにAIを必要としています。

次に、AIの活用範囲は想像以上に広いという点です。商品説明文の作成だけでなく、在庫予測、スタッフ研修、データ分析、広告最適化まで、業務のあらゆる側面で活用できます。

ただし、Shopify Sidekickは現時点で日本語対応が限定的である可能性があります。日本でShopifyを使う事業者は、英語でのやり取りが必要になるかもしれません。一方、楽天市場やYahoo!ショッピング、BASEといった国内プラットフォームを使う事業者は、ChatGPTやClaude、Geminiといった汎用AIツールを活用することで、同様の効果を得られる可能性があります。

重要なのは、海外の中小EC事業者がすでに日常的にAIを使いこなしているという現実です。日本の事業者も、この流れを無視することはできません。年末商戦や新年度の準備を始める今こそ、AI活用の第一歩を踏み出す好機です。

引用: shopify


投稿者: 齋藤竹紘

齋藤 竹紘(さいとう・たけひろ) 株式会社オルセル 代表取締役 / 「うるチカラ」編集長

   
Experience|実務経験
2007年の株式会社オルセル創業から 17 年間で、EC・Web 領域の課題解決を 4,500 社以上 に提供。立ち上げから日本トップクラスのEC事業の売上向上に携わり、 “売る力” を磨いてきた現場型コンサルタント。
Expertise|専門性
技術評論社刊『今すぐ使えるかんたん Shopify ネットショップ作成入門』(共著、2022 年)ほか、 AI × EC の実践知を解説する書籍・講演多数。gihyo.jp
Authoritativeness|権威性
自社運営メディア 「うるチカラ」で AI 活用や EC 成長戦略を発信し、業界の最前線をリード。 運営会社は EC 総合ソリューション企業株式会社オルセル
Trustworthiness|信頼性
東京都千代田区飯田橋本社。公式サイト alsel.co.jp および uruchikara.jp にて 実績・事例を公開。お問い合わせは info@alsel.co.jp まで。

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