Chewyの広告事業が1年で倍増|LTV ROAS 7倍が示すEC広告の新常識

Chewyの広告事業が1年で倍増しLTV ROAS 7倍を達成。リテールメディアネットワークの最新動向と、楽天・Amazon広告をLTVと増分ROASで見直す日本のEC事業者向け論点を解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

米国最大手のペット用品ECであるChewyが、自社のリテールメディアネットワーク(RMN)を急拡大させています。Modern Retailによると、Chewyの広告事業「Chewy Ads」は2025年から2026年にかけて広告主数とキャンペーン数がいずれも倍増しました。注目すべきは広告効率で、広告クリックの3回に1回が購入につながり、投資1ドルあたりの平均LTV ROAS(顧客生涯価値ベースの広告費用対効果)は7ドルに達するといいます。単発の購入ではなく顧客生涯価値で広告を評価するこの手法は、日本のEC事業者が楽天市場やAmazonの広告を見直すうえでも重要な示唆を含んでいます。

Chewyが進める「ペット特化型リテールメディア」とは何か

リテールメディアネットワークとは、ECモールや小売サイトが自社の購買データと広告枠を使い、出店するブランドに対して広告を販売する仕組みのことです。検索結果の上部に出るスポンサー商品枠、商品ページ内の動画枠、ブランドとの共同コンテンツなどが代表例で、自社サイトに集まる第一者データ(ファーストパーティーデータ)を武器に広告精度を高められる点が特徴です。

ChewyのChewy Adsは2023年5月に始まりました。同社はアクティブ顧客が2,000万人を超え、そのうち84%が定期配送(オートシップ)経由という、極めて継続購入比率の高い顧客基盤を持っています。ペットフードやサプリメントといった消耗品を定期的に買い続ける顧客が大半を占めるため、一度の購入額だけでなく、その顧客が将来にわたって生み出す売上、すなわち顧客生涯価値(LTV)を見据えた広告設計がしやすいわけです。

転機となったのは、広告配信を第三者プラットフォーム任せにするのをやめ、自社内製のシステムへ移行したことです。これにより高度なターゲティングとLTV計測を社内で完結できるようになりました。さらに2026年3月には、AIを活用したターゲティング機能「Chewy Max」を開始しています。Chewyの広告枠は自社サイト内(オンサイト)にとどまらず、MetaやTikTok、Google、コネクテッドTVといった外部チャネル(オフサイト)にも広がっており、自社の購買データを軸に、サイトの内外を横断して広告を最適化する体制が整いつつあります。

日本のEC事業者にとっての論点:LTVと増分ROASの透明性

このニュースが日本のEC事業者にとって重要なのは、広告効果を「単発の売上」から「顧客生涯価値」へと測る軸を変えている点です。日本でも楽天市場のRPP広告(検索連動型のクリック課金広告)やクーポンアドバンス、Amazonのスポンサープロダクト広告、Yahoo!ショッピングのアイテムマッチなど、モールが提供する広告は事実上の日本版リテールメディアとして定着しています。しかし多くの店舗が、これらの広告を「その回のROAS(広告経由売上÷広告費)」だけで評価し、新規獲得した顧客がその後どれだけリピートするかまでは追えていないのが実情です。

Chewyの事例が突きつけるのは、増分ROAS(incremental ROAS、その広告がなければ起きなかった純増分の売上で測る指標)とLTVの透明性という論点です。たとえば、もともと指名買いで戻ってきたはずの既存顧客に広告を当てて「広告経由の売上」として計上していれば、見かけのROASは高く出ますが、実際には広告費が増分を生んでいない可能性があります。逆に、初回ROASは低くても定期購入につながりやすい顧客を獲得できているなら、LTVベースでは十分に黒字という判断もありえます。広告クリックの3回に1回が購入につながり、1ドルあたり7ドルのLTV ROASを出すというChewyの数字は、定期購入比率の高さと自社データによるターゲティング精度がそろって初めて成立するものだと理解しておく必要があります。

日本でも、ペット用品・健康食品・サプリメント・化粧品・コーヒーや水といった定期購入型のジャンルは、Chewyと同じ構図で考えられます。これらのジャンルでは、初回購入時の利益が薄くても、2回目以降の継続で回収する設計が成り立ちます。自社の購買データ、たとえば購入回数や最終購入日、購入カテゴリといった情報をもとに顧客を分け、AIによるターゲティングと組み合わせれば、広告の当て先を「これから定期客になる見込みの高い層」へ寄せていけます。リテールメディア市場の規模は世界全体で2025年の1,840億ドルから2030年に3,120億ドルへ拡大する見込みとされており、モール広告の比重が今後さらに高まることはほぼ確実です。

今後の展望と日本のEC事業者の初動アクション

まず取り組みたいのは、広告の評価軸を初回ROASからLTVベースへ切り替える準備です。楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピングそれぞれの管理画面から取得できる注文データを使い、広告経由で獲得した顧客の2回目以降の購入を追えるよう、顧客単位での集計を社内で整えておくことが第一歩になります。

次に、定期購入が見込めるジャンルでは、初回の獲得コストを単発の利益ではなく想定LTVと突き合わせて許容ラインを引き直すことが有効です。あわせて、購入回数や最終購入日でセグメントを分け、広告とメール施策を出し分けることで、同じ予算でも増分を生みやすい層へ配分を寄せられます。リテールメディアの基本的な考え方はリテールメディアネットワークの解説記事で整理しているので、社内での共通理解づくりに役立ててください。

ここで注意したいのが楽天市場の店舗運営規約です。楽天R-Mail(店舗向けメルマガ)や商品ページに、自社ECサイトやSNSなど楽天市場外のURLを誘導として置くことは規約違反になります。Chewyのようにオフサイト広告へ自由に展開できるのは自社EC(自社ドメイン)だからこそで、楽天市場内ではあくまで楽天内で完結する施策、たとえば件名や配信時間帯の最適化、楽天内の他商品ページへの遷移、楽天RMSのA/Bテスト機能の活用といった手段に絞る必要があります。自社データとAIをどう広告運用へ落とし込むかはEC×AI導入の最初の90日の進め方も参考になります。

まとめ

Chewyの広告事業が1年で倍増し、1ドルあたり7ドルのLTV ROASを叩き出した背景には、自社内製化による高精度ターゲティングと、定期購入を前提としたLTV評価がありました。日本のEC事業者も、楽天やAmazonの広告を初回ROASだけで見るのをやめ、顧客生涯価値と増分という二つの軸で測り直す段階に来ています。まずは自社の購買データを顧客単位で可視化し、定期購入ジャンルから評価軸の転換を始めるのが現実的なスタンスです。

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引用元: Modern Retail


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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