消費者が情報を得る入り口が、検索やSNSからAIチャットボットへ静かに移り始めています。オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所が2026年6月に公表した最新調査によると、ニュースをAIチャットボットで週に1回以上利用する人は世界全体で7%から10%へ増えました。まだ少数派ですが、伸び率は大きく、しかも利用者の多くは原典サイトをほとんど開きません。これは商品情報を扱うEC事業者にとっても、集客の前提が動き始めているサインです。本稿では、この変化を日本のEC運営の視点で3つの論点に整理します。
何が起きたか:AIチャットボットが情報接点になりつつある
今回のデータは、ロイター・ジャーナリズム研究所の「デジタルニュースレポート2026」で示されたものです。ChatGPTやGoogle Geminiといった単体のAIチャットボットをニュース目的で週次利用する人は、世界全体で前年の7%から10%に増加しました。一方で「AIが主なニュース源」と答えた人は1%にとどまり、現状は既存の情報源を補完する位置づけです。
利用は若年層が牽引しています。最も若い年齢層では17%が利用し、最年長層の5%の3倍以上です。同研究所が2025年に公表した別調査では、生成AIツール全体の週次利用が6市場平均で2024年の18%から2025年に34%へ伸びたとされており、AIを日常的に使う層の拡大が背景にあります。
注目したいのは信頼と利用の関係です。ニュース全般を信頼する人は37%ですが、AIチャットボット経由のニュースを信頼する人は20%にとどまります。ただし実際に使っている人に限ると44%が信頼し、使っていない人では17%という差が出ました。つまり低い信頼は「使っていない人」が押し下げており、一度使い始めると評価が上がる構造です。使い方の最多は追加質問(フォローアップ)で利用者の42%、次いで最新ニュースの取得が35%、要約が34%、情報源の信頼性評価が33%、内容をわかりやすくする用途が30%と続きます。
日本のEC事業者にとっての論点:クリックされない時代の集客
EC運営にとって最大の論点は、原典への遷移率です。同調査では27市場全体で、AIチャットボットから元の情報源へ「常に・よく」遷移する人はわずか4%でした。検索経由の19%、SNS経由の17%と比べて大きく低い水準です。これは「回答エンジン」が回答内で完結し、外部サイトへ送客しないという出版業界の懸念を裏づけるものですが、同じ力学は商品情報にも働きます。消費者がAIに「この価格帯でおすすめの加湿器は」と尋ね、AIが回答内で比較を完結させれば、各ショップの商品ページへの流入は細ります。
日本市場では特に見過ごせない傾向があります。同レポートは、AIを「ニュースをわかりやすくする」用途で使う行動がドイツや日本で上位に来ると指摘しています。日本の消費者は、情報を噛み砕いて提示してくれるAIの使い方に親和性が高いということです。商品選びでも、スペック表を自力で読み比べるより「結局どれがいいの」とAIに要約させる行動が広がりやすいと考えられます。さらに同調査によれば、GoogleのAIによる概要(AI Overviews)は2026年3月時点でフランスを除く調査対象の全市場に展開済みで、日本でも検索結果の上部でAIが先に答えを返す場面が一般化しています。楽天市場やAmazon、Shopifyで自社サイトを運営していても、消費者がたどり着く手前でAIが商品を要約・比較してしまう局面が増えるわけです。
今後の展望と初動アクション
第一に、クリックを前提にしたSEOから、AIの回答内に「引用される」ことを狙う設計へ重心を移すことです。商品名・型番・価格・在庫・主要スペックを構造化データやFAQ形式で明記し、AIが正確に拾える形にしておくと、回答内での言及やAI Overviewsでの参照が得られやすくなります。うるチカラでは、この生成AI時代の最適化をGEO(Generative Engine Optimization)と呼んで重視しています。
第二に、AIが要約しにくい一次情報を厚くすることです。今回の調査でも、AIに置き換えられにくいのは独自の深い情報だと結論づけられています。実測レビュー、使用シーン別の比較、自社で撮影した写真や動画、購入者の具体的な声など、AIが他サイトから合成できない固有のコンテンツが、回答内で選ばれる理由になります。
第三に、流入計測の見直しです。AI経由の訪問は参照元が判別しにくく、従来のアクセス解析では「ノーリファラー」や直接流入に紛れがちです。直近では、ShopifyがAIプラットフォーム経由の売上とトラフィックを可視化するツールを公開するなど、各社が計測強化に動いています。まずは指名検索や直接流入の増減を、AI露出施策と並べて観察する習慣をつけることが、現実的な第一歩になります。
まとめ
AIチャットボットでニュースを得る人はまだ全体の1割ですが、伸びは速く、原典への遷移はわずか4%という事実は重く受け止めるべきです。EC事業者がとるべきスタンスは、検索順位やクリック数だけを追うのではなく、AIの回答内で正確に引用される情報設計と、AIが代替できない一次情報の蓄積を同時に進めることです。
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引用元: Reuters Institute Digital News Report 2026
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。