エージェンティックコマースとは、AIエージェントが消費者に代わって商品を探し購入する取引のことです。
3年から5年の計画を立てる立場にいるなら、無視できない数字が出そろっています。米国では2030年までにオンライン売上の15〜25%がAIエージェント経由になるという予測があり、金額では3,000億から5,000億米ドル規模とされます。予測の幅は大きく、機関によって10%程度に留まるという見方もあります。ここで問われるのは「予測を当てること」ではなく、どちらに転んでも困らない打ち手を今どれだけ仕込めるかです。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援を2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、中期計画の組み替え方を整理します。
予測は3機関で割れている、まずそこを押さえる
結論として、2030年の見通しは10%から25%の間で割れています。この幅をそのまま受け止めるのが、計画づくりの出発点になります。
Bain & Companyは、米国市場だけで2030年までに3,000億から5,000億米ドル規模になり、これはEC売上全体の15〜25%にあたると見ています。この試算はDigital Commerce 360などでも取り上げられました。
Morgan Stanleyの見方はやや保守的で、2030年の米国EC支出のうち1,900億から3,850億米ドルがエージェント経由になると試算し、オンライン小売に占める割合は10%程度が現実的、強気に見ても20%までとしています。J.P. Morganは最大25%という数字を出しつつ、その大半は食料品や定期購入といった反復性が高く失敗リスクの低いカテゴリに集中するという条件を付けています。
さらに大きい数字もあります。McKinseyは2030年の米国小売でエージェントが介在する売上を最大1兆米ドル、世界では3兆から5兆米ドル規模になりうると見ています。ただしこれは「エージェントが何らかの形で関与した取引」という広い定義で、購入までエージェントが完結させる狭い定義の数字とは比較できません。予測を並べるときは、定義の広さを必ず確認してください。
日本市場の数字はどうか。2026年8月時点で、日本のEC売上に占めるエージェント経由比率を継続的に計測している公的統計は確認できていません。ここは要確認としておきます。ただし決済や検索の動きは米国の後を1年から2年で追う傾向が続いてきたため、米国の推移を先行指標として見る扱いが実務的でしょう。実際に何が起きているかはAI経由の注文が伸びているという実データの記事も参照してください。
予測の幅を前提に、中期計画をどう分解するか
中期計画を「エージェント比率が20%になる前提の計画」として1本で組むのは危険です。外れたときに全部が無駄になります。分解の仕方を提案します。
第一層は、どちらに転んでも効く施策です。商品データの構造化、在庫と価格の正確性、返品条件の明示。これらはエージェントが増えても増えなくても、既存の検索流入と人間の購買判断に効きます。中期計画の予算配分では、ここに最も厚く置きます。目安として、AI関連投資の6割程度をこの層に置く配分が扱いやすい構成です。
第二層は、エージェント比率が上がったときにだけ効く施策です。エージェント向けの商品フィード整備、AIアシスタント経由の流入計測、エージェント決済への対応。これらは比率が上がらなければ回収できませんが、上がったときに未対応だと一気に置いていかれます。予算配分の3割程度を割り当て、四半期ごとに継続可否を判断する形が現実的です。
第三層は、比率が上がりきった世界を想定した実験です。エージェント同士の価格交渉への対応、自動発注に紐づく在庫確保の設計など。ここは1割程度に留め、失敗を前提に小さく試します。2026年8月時点で本番運用に載せている国内事業者の事例は限られており、先行して大きく張る合理性は薄いと考えます。
この3層で分けると、予測が外れても第一層が残るため、投資が丸ごと無駄になる事態を避けられます。楽天とAmazonの両方を回している店舗で観測されたのは、第一層の商品データ整備だけでも、AI経由か否かにかかわらず商品ページの回遊が改善するという傾向でした。
カテゴリによって影響の出方はまったく違う
一律に「20%がエージェント経由になる」と考えると判断を誤ります。J.P. Morganが指摘する通り、初期に伸びるのは反復購入と低リスクのカテゴリです。
伸びやすいのは、日用品、食品、サプリメント、ペットフード、消耗品全般です。銘柄が決まっており、価格と在庫と配送日で選べる商品はエージェントが判断しやすく、消費者側も任せる心理的抵抗が小さくなります。定期購入の仕組みを持っている事業者は、ここで先行できる余地があります。
伸びにくいのは、アパレル、化粧品、インテリア、ギフトなど、好みや試着、質感の確認が判断に関わるカテゴリです。ただし「伸びにくい」は「無関係」ではありません。エージェントが候補を絞る段階には関与し、最終判断だけ人間が行う形が想定されます。この場合、候補に残るための商品データの精度が勝負になります。素材、寸法、着用イメージ、色の表現といった属性が構造化されていないと、候補集合に入る前に落ちます。
判断が分かれるのが、家電や工具のような仕様で選べるが金額が大きいカテゴリです。仕様の比較はエージェントが得意ですが、金額が大きいと人間が最終確認をしたがります。ここは「エージェントが比較表を作り、人間が承認する」という中間形態が長く続くと見ています。
自社のカテゴリがどこに属するかで、第二層への投資時期が変わります。日用品寄りなら前倒し、感性寄りなら候補集合に残る施策に絞る、という判断になります。
モール依存度によって、打ち手の順番が変わる
もう1つ、計画づくりで見落とされやすい変数があります。自社サイトとモールの売上構成比です。ここが違うと、同じカテゴリでも打ち手の順番が変わります。
モール中心の事業者の場合、エージェント対応の主導権はモール側にあります。楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピングがエージェント向けにどう商品データを開示するかは、店舗側では決められません。したがって店舗側の打ち手は、モールが求める属性項目を先に埋めておくことに集中します。楽天RMSの商品属性、Amazonの出品ファイルの推奨項目、Yahoo!ショッピングの商品スペックのいずれも、埋まっていない項目が残っているケースがほとんどです。ここを埋める作業は、モール側の仕様変更を待たずに今日から着手できます。
自社サイト中心の事業者の場合は、逆に主導権が自分にあります。構造化データの実装、商品フィードの提供、AI経由流入の計測まで自分で決められます。そのぶん、何をどの順で整えるかを自分で判断しなければならず、優先順位を誤ると工数が分散します。順番としては、商品データの属性整備、次に構造化データ、その後に計測、という並びが扱いやすい構成です。計測を先にやりたくなりますが、整えるべきデータが定まっていない段階では測る対象も定まりません。
両方を回している事業者は、モール側の作業を先に、自社サイト側を後に置く配分が現実的です。理由は単純で、モール側は属性を埋めるだけで済むのに対し、自社サイト側は設計から必要になるためです。着手の重さが違います。
なお、自社サイトの構造化データについては、実装の順序と検証方法を整理した内容が別記事にあります。属性整備が終わってから読むと理解が早いはずです。
中期計画づくりに使えるプロンプト4本
計画づくりを会議の場の議論だけで進めると、前提が言語化されないまま数字だけが決まります。以下の4本で前提を書き出してください。
まず、自社カテゴリでエージェント経由がどれだけ伸びうるかを見積もります。
プロンプト1:自社カテゴリのエージェント浸透度の見積もり
あなたはEC市場の分析を担当するアナリストです。
以下の自社情報をもとに、2030年時点でAIエージェント経由になりうる売上比率のレンジを見積もってください。
前提として使う外部予測(米国市場・2030年):
- Bain:EC売上の15〜25%
- Morgan Stanley:10%程度が現実的、強気で20%
- J.P. Morgan:最大25%、ただし反復購入・低リスクカテゴリに集中
自社情報:
- 主力カテゴリ:{カテゴリ}
- 定期購入比率:{%}
- リピート購入比率:{%}
- 平均単価:{円}
- 商品選定で試着・質感確認が必要か:{要/不要}
出力:低位・中位・高位の3シナリオでの比率、それぞれの根拠を2文ずつ、日本市場での時期のずれに関する注記
次に、いまの商品データがエージェントに読める状態かを点検します。
プロンプト2:商品データのエージェント可読性チェック
あなたは商品データの設計を担当するエンジニアです。
以下の商品データについて、AIエージェントが購入判断に使える状態かを点検してください。
点検項目:
1. 商品を一意に特定できる識別子(JAN/GTIN/型番)の有無
2. 寸法・重量・容量・素材などの物理属性が構造化されているか
3. 適合条件(対応機種・対象年齢・使用シーン)が属性として持てているか
4. 在庫数と納期が最新か、更新頻度はどれくらいか
5. 返品・交換条件が商品ページ単体で完結して読めるか
商品データ(1件分の全項目を貼る):
{データ}
出力:項目別の合否、不足している属性の一覧、優先して追加すべき属性を3つ
3本目は投資配分です。3層に分けた予算の妥当性を検証します。
プロンプト3:AI関連投資の3層配分レビュー
あなたはEC事業の投資計画をレビューする立場です。
以下の投資計画を、3層の枠組みで評価してください。
3層の定義:
- 第一層:エージェント比率にかかわらず効く施策(商品データ整備・在庫精度・返品条件明示など)
- 第二層:比率が上がったときに効く施策(フィード整備・AI流入計測・エージェント決済対応など)
- 第三層:比率が上がりきった世界の実験
投資計画:
{施策名/金額/担当/期待効果 の一覧}
出力:各施策の層の判定、層ごとの金額と構成比、配分の偏りに関する指摘、組み替え案
最後に、計画の見直しトリガーを決めます。これを決めておかないと計画が形骸化します。
プロンプト4:中期計画の見直しトリガー設計
あなたは経営計画の運用設計を担当します。
以下の計画について、どの数字がどう動いたら見直すかのトリガーを設計してください。
計画の前提:
- 想定するエージェント経由比率:{%}({年}時点)
- 前提が崩れた場合に影響する施策:{施策名}
候補となる観測指標:
- 自社サイトのAI経由セッション比率
- AI経由の注文数と客単価
- 主要モールのエージェント対応機能の提供状況
- 競合のエージェント向け施策の有無
出力:指標ごとの閾値、閾値に達した場合の具体的な行動、確認の頻度、確認の担当
この4本の出力を1つの資料にまとめると、そのまま取締役会や幹部会議の説明資料になります。特にプロンプト4のトリガー表は、計画を放置しないための装置として機能します。
よくある失敗と回避策
3つ挙げます。
1つ目は、米国の予測をそのまま日本の計画に当てはめるケースです。決済手段の普及度、モールの構造、返品文化がいずれも異なるため、比率も時期もずれます。回避策は、米国の数字を「上限側のシナリオ」として扱い、日本の計画は自社の実測値を起点に組むことです。自社サイトのAI経由セッションを計測していないなら、そこから始めてください。
2つ目は、エージェント対応を「新しいチャネルの追加」として捉えるケースです。実態はチャネルの追加ではなく、既存の商品データの品質が問われる場面が増えるということです。新しい部署や新しいツールを立ち上げるより、既存の商品マスタを直すほうが効きます。5,000社支援の中で何度も再現したパターンとして、新規施策より既存データの是正のほうが投資対効果が高い、という結果が出ています。
3つ目は、比率が伸びない場合の撤退基準を決めていないケースです。第二層と第三層の施策は、伸びなければ回収できません。開始時に「四半期末にこの指標がこの水準に届かなければ縮小する」と決めておかないと、成果が出ないまま予算だけが継続します。ゼロクリック化への具体的な対応はゼロクリックコマース対策の記事にまとめています。
測るべき指標と、費用の目安
指標は3つに絞ります。第一に、AI経由セッションの比率と絶対数。GA4のカスタムチャネルグループでAIアシスタントの参照元を分離して計測します。第二に、AI経由セッションのコンバージョン率。人間経由と比べて高いか低いかで、対応の優先度が変わります。第三に、AI経由注文の客単価とカテゴリ構成。どのカテゴリから伸びているかが分かれば、投資先を絞れます。
費用については、第一層の商品データ整備が最も工数を要します。1,000SKU規模で属性の棚卸しと補完を行う場合、社内対応で2〜4週間、外部委託なら数十万円からが目安です。第二層の計測基盤は、GA4の設定変更が中心であれば数日で済みます。第三層の実験は、範囲を区切れば1件あたり数万円規模から始められます。いずれも2026年8月時点の相場感で、案件により大きく振れます。
投資回収の見方は、第一層と第二層で分けるべきです。第一層は既存流入の改善として回収を測り、第二層はAI経由売上の増加で測ります。ここを混ぜると、どちらが効いたのか分からなくなります。
計測の実務でつまずきやすいのが、参照元の判定です。AIアシスタント経由の流入は、参照元がアシスタント側のドメインで届く場合と、参照元なしの直接流入として届く場合があります。後者は既存の直接流入に紛れるため、比率を過少に見積もる原因になります。完全な分離は難しいのが実情で、傾向を掴む目的なら、判別できた分だけを下限値として扱い、直接流入の増減とあわせて見る運用が現実的です。
もう1点、社内での説明の仕方も設計に含めておくと進みが違います。「AIエージェント対応」という言葉で予算を求めると、成果が見えにくく通りにくくなります。「商品属性の欠損を埋めて、検索とAIの両方で拾われる状態にする」という言い方に置き換えると、既存施策の延長として説明でき、承認も得やすくなります。実際にやることは同じです。
この先3年の見立て
見立てとして、2027年から2028年にかけて日本でも「エージェント経由の注文をどう受けるか」が実務課題になると考えています。理由は、決済側の対応が先に進むためです。チャット内での決済完結が主要サービスで整えば、事業者側は受け皿を用意せざるを得なくなります。
そのとき効いてくるのが、商品データの一貫性です。モールごとに属性の粒度が違い、自社サイトとモールで在庫の反映タイミングがずれている状態だと、エージェントは判断を誤り、結果として候補から外れます。今のうちに整えておく価値は、比率の予測が当たるかどうかとは独立して存在します。
もう1つの見立ては、勝ち筋が中小事業者にも開かれるという点です。エージェントは指名検索の強さではなく条件の適合で選ぶため、ブランド力で劣る事業者にも候補に入る余地が生まれます。実際、AI経由の購入が上位カテゴリ以外に広く分布しているという観測も出ています。ここは中小事業者にとって数少ない構造的な追い風でしょう。
よくある質問
エージェンティックコマースとは何ですか
エージェンティックコマースとは、AIエージェントが消費者に代わって商品を探し購入する取引のことです。従来の検索とカート投入を人間が行う形と違い、条件を伝えると候補の絞り込みから決済までをエージェントが進めます。2026年時点では候補提示までを担い、最終判断は人間が行う形が主流です。
2030年に本当に25%まで伸びますか
機関によって見方が分かれており、10%程度に留まるという予測もあります。Bainは15〜25%、Morgan Stanleyは10%程度が現実的で強気でも20%としています。幅を前提に計画を組み、実測値で見直すのが安全です。
日本でも同じ比率になりますか
2026年8月時点で日本の比率を継続計測した公的統計は確認できておらず、要確認です。決済や検索の動向が米国の1〜2年後を追う傾向を踏まえると、米国の数字は上限側のシナリオとして扱うのが妥当と考えます。
どのカテゴリから影響が出ますか
日用品、食品、サプリメント、ペットフードなど反復購入で銘柄が定まりやすいカテゴリから伸びます。アパレルや化粧品は最終判断に人間が関与する形が長く続くと見られますが、候補集合に残るための商品データ整備は同じく必要です。
中小事業者に不利ではありませんか
いいえ、むしろ有利に働く面があります。エージェントは指名検索の強さではなく条件の適合で選ぶため、ブランド力が弱くても条件に合えば候補に入ります。ただし商品データが整っていないと候補集合に入る前に落ちるため、データ整備が前提条件になります。
今すぐ何から始めるべきですか
AI経由セッションの分離計測と、主力商品の属性の棚卸しの2つです。どちらも大きな投資を必要とせず、予測が外れても無駄になりません。属性の棚卸しは本記事のプロンプト2で商品1件ぶんから始められます。
投資額はどれくらい見ておくべきですか
第一層の商品データ整備が中心で、1,000SKU規模なら社内対応で2〜4週間、外部委託で数十万円からが目安です。第二層の計測基盤はGA4設定が中心なら数日で済みます。第三層は範囲を区切って小さく始めてください。
まとめ
2030年にオンライン売上の何%がAIエージェント経由になるかは、機関によって10%から25%まで割れています。当てにいく必要はありません。必要なのは、どちらに転んでも効く商品データ整備に予算の大半を置き、比率が上がったときにだけ効く施策には撤退基準を付けて配分することです。まずはAI経由セッションの分離計測を始め、自社の実測値を持つところから着手してください。
著者:齋藤竹紘(株式会社オルセル 編集長/5,000社以上のEC支援実績/書籍3冊)
参考文献
- Bain & Company|2030 Forecast: How Agentic AI Will Reshape US Retail
- Digital Commerce 360|Bain: Agentic AI could account for 25% of U.S. ecommerce sales by 2030
- Morgan Stanley|Agentic Commerce Market Impact Outlook
- Digital Commerce 360|McKinsey forecasts up to $5 trillion in agentic commerce sales by 2030
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。