Claude Coworkとは、Claudeに仕事を丸ごと任せて背後で進めさせる作業モードのことです。
2026年7月7日、AnthropicはClaude CoworkをモバイルとWebに広げました。これまで手元のパソコンでしか動かなかった作業が、スマートフォンからも確認でき、パソコンを閉じても背後で進むようになった変化です。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援を2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、楽天・Amazon・Shopifyを回すEC事業者の視点で、Claude Coworkに何をどこまで任せられるかを実装レベルで整理します。読み終えたときに、来週どの業務から手渡すかの当たりがつく状態を目指します。

モバイル対応で「店を離れても作業が止まらない」に変わった
今回のアップデートで実務が変わる核心は、作業の継続性です。Anthropicの公式発表によると、Claude Coworkはスケジュール実行がデバイス非接続でも走るようになりました。たとえば月曜の朝6時に「先週の受注とレビューを整理して、返信の下書きまで作っておいて」と予約しておけば、パソコンを閉じたまま作業が進み、出勤前のコーヒー片手に結果を確認できます。
EC運営の現場では、店を閉めたあとや移動中に「あれをやっておきたかった」と積み残す作業が山ほどあります。楽天RMSの受注一覧の確認、Amazonの返品理由の整理、Shopify Adminの在庫アラートの棚卸し。こうした「仕事の周りにある仕事」は、誰の職務定義にも書かれていないのに、週の時間をかなり食います。Anthropicが自社の利用実態を分析したところ、Claude Coworkの使われ方の9割以上はソフトウェア開発ではなく、最大のカテゴリは業務オペレーションとコンテンツ制作で、これだけで全体のおよそ半分を占めたと報告しています。EC事業者の日常業務と、この分布はよく重なります。
対応範囲も押さえておきます。Webはclaude.aiのホーム画面からCoworkセッションを開始でき、モバイルはiOSとAndroidのClaudeアプリのサイドバーから起動します。ローカルのファイルやブラウザまで使う本格作業はデスクトップ版が担い、外出先のスマホは「進捗確認と承認」に向く、という役割分担です。ベータは2026年7月7日からMaxプラン(月額100米ドル)を起点に数週間かけて順次拡大し、対応プランは今後増える見込みと案内されています。導入判断の前に、自社が使っているプランで使えるかは公式のヘルプセンターで確認してください。
大事な点として、最終判断は人に戻ってきます。Claudeが自分だけでは決められない場面に来ると質問を投げ、その問い合わせがスマホに届きます。下書きは作られても、レビューして承認するまで何も送信・公開されません。EC運営で怖いのは誤送信と誤公開ですが、承認ゲートが常に手前にある設計なので、任せる範囲を広げても事故が起きにくい構造になっています。
Claude CoworkにEC業務を手渡す5つの型
ここからは、実際にClaude Coworkへ渡す依頼文の型を5つ提示します。いずれもスマホから確認・承認する前提で、たたき台を夜間や移動中に作らせ、翌朝に人が仕上げる流れを想定しています。依頼文は具体的であるほど精度が上がるため、対象データの場所と「完成の定義」を必ず添えてください。
(型1:翌朝までに受注と問い合わせを整理させる)
夜間にデータを渡し、朝までに要約と対応リストを作らせる型です。閉店後に仕掛けておくと、翌朝の初動が変わります。
あなたはEC店舗の運営アシスタントです。
添付の受注CSVと問い合わせスレッドを読み、明日の朝までに次を用意してください。
1. 昨日の受注のうち、出荷までに確認が要るもの(在庫不足・住所不備・ギフト指定)を抽出
2. 未返信の問い合わせを「至急・通常・保留」に3分類し、各件に一次回答の下書きを添える
3. 返品・キャンセルの理由を集計し、上位3つを1行ずつコメント
出力は、私がスマホでそのまま確認できる箇条書きにしてください。
判断が要る箇所は送信せず、私に質問を投げてください。
(型2:レビュー返信の下書きを一括生成させる)
楽天やAmazonのレビュー返信は、画一的な定型文だとかえってクレームの火種になります。件ごとにトーンを変えた下書きを作らせ、人が最終確認します。
あなたはEC店舗のカスタマーサポート担当です。
添付のレビュー一覧(星の数・本文つき)に対し、返信の下書きを1件ずつ作ってください。
条件:
1. 星1〜2は謝意と具体的な改善アクションを、星4〜5は感謝と次回購入の後押しを
2. 同じ言い回しを繰り返さない(定型のコピペにしない)
3. 薬機法・景品表示法に触れる表現(治る・最高・No.1・絶対など)は使わない
4. 1件120〜200字
承認前は投稿しないでください。判断に迷う件は理由を添えて私に確認してください。
(型3:競合商品ページを調べて訴求の差分を出させる)
移動中に「この商品の競合を見ておいて」と投げておく型です。価格と訴求の差分が朝に手元へ届きます。
あなたはEC商品企画のリサーチャーです。
次の自社商品と同カテゴリの競合商品ページを、公開情報の範囲で3〜5件調べてください。
- 自社商品:{ジャンル・商品名・価格・主要訴求}
調査項目:価格帯、送料条件、レビュー傾向、商品名に入っているキーワード、画像で押している訴求
出力:自社が負けている点と勝っている点を各3つ、明日の改善候補を優先度つきで5つ。
出典URLを併記し、推測は「推測」と明記してください。
(型4:月次売上サマリのたたき台を作らせる)
複数チャネルの数字を渡し、経営会議前のたたき台を作らせます。手数料控除後の実質粗利まで見るのがコツです。
あなたはEC事業の経営アナリストです。
添付の楽天・Amazon・自社ECの売上データから、月次サマリのたたき台を作ってください。
1. 売上・粗利率・広告費・ROAS・新規顧客数を前月比つきで
2. チャネルごとに手数料控除後の実質手取りを試算(手数料率が不明なら「要確認」と明記)
3. 前月比±30%以上の異常値を検出し、原因仮説を1行ずつ
4. 次月の打ち手を3つに絞り、期待効果と予算の目安を添える
数字の根拠と計算式を残し、確定していない数字は断定しないでください。
(型5:メルマガ企画の下書きを作らせる)
配信企画のたたき台をスマホで確認し、人が最終調整する型です。楽天のメルマガは規約上、モール外URLを本文に置けない点に注意して指示します。
あなたはEC店舗のCRM担当です。
来月のメルマガ企画を3案、それぞれ件名(30字前後)と本文構成案つきで作ってください。
前提:
1. 楽天R-Mailは楽天市場内で完結させる(自社サイトや外部SNSのURLは入れない)
2. セグメントは「初回購入者・リピーター・休眠客」の3つを想定
3. 誇大表現(最安・No.1・絶対など)は避ける
出力は私がスマホで見比べられる形に。配信はせず、下書きのまま止めてください。
これら5つの型に共通するのは、「たたき台をAIに、最終判断を人に」という線引きです。過去にうるチカラで解説したClaude Codeを使ったEC業務の自動化がコード寄りの自動化だとすれば、Claude Coworkはコードを書かない事務・企画・調査の自動化に向きます。
よくある失敗と回避策
任せる範囲を一気に広げすぎるのが、最初の失敗です。いきなり「全部やっておいて」と丸投げすると、承認確認が大量に飛んできて、かえって手間が増えます。最初の2週間は型1と型2だけに絞り、出力の精度が安定してから型を増やすのが定石です。
2つ目は、データの置き場所と完成の定義があいまいなケースです。「受注を整理して」だけでは、どのファイルの何を、どこまでやれば完了かが伝わりません。直近の支援案件で観測したのは、依頼文に「対象データの場所」「完成した状態」「送信・公開の可否」の3点を明記した店舗ほど、手戻りが少ないという傾向でした。
3つ目は、楽天の規約に触れる指示を無自覚に出してしまうパターンです。メルマガや商品ページの下書きを作らせるとき、AIは気を利かせて自社サイトやSNSへの導線を入れることがあります。楽天市場では店舗メルマガや商品ページからモール外へ誘導する行為が禁じられているため、型5のように「楽天内で完結」と最初に制約を書いておくことが欠かせません。生成物は必ず人が規約の観点でチェックしてから使ってください。
KPI設計と費用の目安
効果は「削減できた作業時間」で測るのが分かりやすいです。3チャネルを回す店舗で、受注整理・レビュー返信・競合調査のたたき台をClaude Coworkに寄せると、これらの下ごしらえにかけていた時間を圧縮でき、空いた分を判断と改善に振り向けられます。削減幅は業務量や商品数で変わるため、まずは1つの業務で「着手前の所要時間」と「導入後の所要時間」を2週間だけ記録し、自店の数字で判断することをおすすめします。
費用面では、モバイル・Web版のベータはまずMaxプラン(月額100米ドル、2026年7月時点)から始まっています。中小のEC事業者にとって決して安くはない金額なので、いきなり全社導入ではなく、店長1人が1業務で試し、削減時間が月額に見合うかを検証してから広げるのが現実的です。ローンチ記念として、Cowork利用枠を倍にする措置が2026年8月5日まで延長されているため、試すなら余裕のあるこの期間が向いています。生成AIの料金は変動が速いので、最新の金額は必ず公式の料金ページで確認してください。API経由でのコスト最適化まで踏み込むなら、AIのトークンコストを抑える考え方も併せて参照してください。
今後の展望と独自考察
Claude Coworkのモバイル対応は、単なる「スマホで使える」以上の意味を持ちます。作業が特定の端末から切り離され、時間と場所に縛られず進むようになると、EC運営の時間割そのものが変わります。これまで営業時間内に人が張り付いていた事務作業を夜間や早朝の「無人の時間」に寄せられるため、日中は接客や商品企画といった人にしかできない仕事に集中しやすくなります。
チャットとCoworkのホームが1つに統合され、プロジェクトと成果物が両者で共有されるようになった点も見逃せません。「聞く(チャット)」と「任せる(Cowork)」の境界が下がり、思いついたその場で作業を手渡せます。EC事業者にとっては、質問と実務の往復が速くなるほど、施策の回転数が上がります。承認を人が握り続ける設計である以上、AIエージェントに現場を明け渡すのではなく、判断の質を保ったまま手数を増やす道具として捉えるのが、2026年時点の妥当な向き合い方だと考えます。ChatGPT・Claude・Geminiの使い分けを整理したうえで、任せる作業と自分で握る判断を切り分けていくとよいでしょう。
よくある質問
Claude Coworkは無料で使えますか
いいえ、モバイル・Web版のベータは2026年7月時点でMaxプラン(月額100米ドル)を起点に提供が始まっており、無料では使えません。対応プランは順次拡大するとされているため、最新の提供範囲と料金は公式の料金ページとヘルプセンターで確認してください。
スマホだけで完結できますか
いいえ、スマホは進捗確認と承認に向き、ローカルファイルやブラウザまで使う本格作業はデスクトップ版が担います。外出先で確認し、机に戻って仕上げる、という役割分担で使うのが実務的です。
勝手に商品ページやメルマガが公開されませんか
いいえ、公開されません。Claude Coworkは承認するまで送信も公開もしない設計で、判断が要る場面では質問がスマホに届きます。依頼文に「承認前は送信しない」と明記しておくと、より安全に運用できます。
楽天やAmazonの規約に違反しませんか
生成物の内容次第です。AIは自社サイトやSNSへの導線を気を利かせて入れることがあるため、楽天のようにモール外誘導が禁じられているプラットフォームでは、依頼文で制約を明示し、公開前に人が規約の観点で確認する必要があります。
最初に任せるべき業務はどれですか
受注整理とレビュー返信の下書きから始めるのがおすすめです。定型度が高く、承認さえすれば完結する業務なので、精度と使い勝手を見極めやすいからです。慣れてから競合調査や月次サマリへ広げてください。
著者:齋藤竹紘(株式会社オルセル 編集長/5,000社以上のEC支援実績/書籍3冊)
参考文献
- Claude by Anthropic|Claude Cowork on web and mobile: hand off work anywhere
- 9to5Mac|Anthropic expanding Claude Cowork to mobile and web
- PYMNTS|Anthropic Launches Mobile Access for Claude Cowork
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。