米国のDTCブランド4社が、AI検索経由の集客と業務効率化にAIを本格投入し始めました。
米国の小売専門メディア Modern Retail が2026年8月17日、先週開催されたeTail Bostonのパネルディスカッションの内容を報じました。登壇したのはVaila Shoes、Murphy Door、Viv for your V、Hivessenceという規模も業種も異なるDTC4社の創業者・経営者です。共通していたのは、AIを「新しい広告チャネル」ではなく、価格設定と検索流入設計という業務の根幹に組み込み始めているという点でした。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
AI検索と価格設定に踏み込んだDTC4社の実践内容
結論から言えば、4社のAI活用は「コンテンツ生成の効率化」の段階をすでに越えています。用途は検索流入の設計と、値付けや受注処理といったオペレーション側に移っています。
もっとも踏み込んでいたのが、生理用品ブランドのViv for your Vです。創業者兼CEOのKatie Diastiは、2021年にDTCで立ち上げた同社がGeminiとChatGPT経由の流入を取り込むため、GEO(生成AI検索での被引用最適化)を軸にコンテンツ戦略を組み直したと語っています。きっかけは2024年夏、主要な生理用品の多くからヒ素と鉛が検出されたという研究がSNSで拡散した出来事でした。消費者が「最も安全なタンポンは何か」を検索し続けた結果、同社が多くのリストで上位に挙げられ、大量の流入につながったといいます。同社はその後、製品の安全性と透明性をテーマにしたコンテンツをSEOとGEOの両方に効かせる形で積み上げてきました。
注目すべきは、同社が今月後半に控える新商品ローンチにあたって、社内で先に「我々のAI検索戦略は何か」を問うている点です。Diastiは、バイラルは偶然を待つものではなく、新しい物語を繰り返し作ることで再現できるという趣旨の発言をしています。生成AIチャットボット経由で自社を知った顧客に対しては、SNSとメールで教育的なコンテンツを届けてリターゲティングしているとのことです。
カスタムドアを手がけるMurphy Doorのケースは、集客ではなく値付けの話です。CEOのJeremy Barkerによれば、2012年創業の同社は3億通りの設計構成を提供しており、この複雑さゆえに大型小売の売場では顧客体験を自社で制御できないという課題を抱えていました。そこでDTCへ軸足を戻す判断をし、AIを受注価格の算出に使い始めています。Barkerは「現在およそ6分に1製品を回転させており、価格はむしろ下がっている」と述べ、取引先であるHome Depotへの敵意はないとしつつ、最終的には大型小売比率をゼロにしてDTC100パーセントを目指すと語りました。
大きいサイズの靴を扱うVaila Shoesの創業者兼CEO、Ahriana Edwardsは、自社ECに加えてDia & Co、Macy’s、DSWという性格の違う販路を、顧客プロフィールごとに作り分けていると説明しています。2023年に開始したMacy’sでは家族連れと百貨店の平均的な買い物客に向けた陳列とストーリーテリングを重視し、DSWは主にEC中心の取引としながら店舗での返品受付を交渉で確保しました。自社サイトは働く若い女性にとっての「職場の相棒」という立ち位置に寄せているとのことです。
パーソナルケアのHivessenceでCEOを務めるDavid Burrowsは、コスト構造の変化を指摘しました。新規顧客の獲得も、SNSでファンを増やすことも、数年前より格段に高くつくようになったという認識です。そのうえでBurrowsは、消費者がAIチャットボットを「コンサルタント、弁護士、セラピスト」のように扱い、人に話しかけるように相談していると述べ、だからこそブランド側は正確な情報と人間味の両方を備えたコンテンツを出し続ける必要があると主張しています。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
日本の事業者がこの4社の事例から読み取るべき論点は、大きく3つあります。
第1に、GEOの起点は広告予算ではなく「引用される事実」だという点です。Viv for your Vが流入を得たのは、第三者の研究が話題になった際に、製品安全性という検証可能な情報を自社サイトに積んでいたからです。生成AIは、宣伝文句ではなく、成分・原産地・検査結果・保証条件といった照合可能な記述を引用します。楽天市場やAmazonに出店している事業者の場合、商品ページの記述はモール側ドメインの資産になるため、こうした一次情報を自社ドメインのコンテンツとしても持っておかないと、AI検索での被引用が自社に貯まりません。この構造については AI検索経由の流入が3倍になったShopifyの実測 でも整理しています。
第2に、新商品を出す前にAI検索側の設計を終えておくという順序です。Viv for your Vが新商品ローンチの前に社内でAI検索戦略を確認しているのは、発売直後に検索需要が立ち上がることを前提にしているからです。日本の事業者の多くは、発売後にSEO記事を書き始めます。生成AIは学習と参照のタイミングが検索エンジンより読みにくいため、発売の数週間前に商品の定義・比較軸・想定質問への回答を自社サイトへ置いておく方が合理的です。具体的な作り方は 商品ページのGEO対応 にまとめています。
第3に、AIを値付けと受注処理に使う発想です。Murphy Doorの3億通りという構成数は極端な例ですが、日本でも受注生産の家具、サイズ展開の多いアパレル、法人向けの見積対応など、価格を人が都度判断している領域は珍しくありません。ここは広告運用より投資対効果が見えやすい適用先です。価格算出の根拠データが社内に揃っているかどうかが分かれ目になります。
なお、楽天市場に出店している事業者は、楽天R-Mailの本文に自社サイトやSNSへのリンクを置く運用は規約に反するため、GEO用の自社コンテンツへの送客はモール外の導線で組む必要があります。この点は日本特有の制約として、設計段階で切り分けておくべきところです。
今後の展望と初動アクション
今後1年で焦点になるのは、AI検索経由の流入を「測れるか」という点です。すでにShopifyはAIプラットフォーム経由の流入と売上を計測するツールを提供しており、計測手段の整備はプラットフォーム側から進んでいます。日本の事業者も、まず現状把握から始めるのが現実的です。
初動としては、次の順序をおすすめします。はじめに、自社サイトのアクセス解析でChatGPT、Gemini、Perplexityなどからの参照流入がどれくらいあるかを確認します。次に、自社の主力商品について、生成AIに「この商品の安全性は」「競合と何が違うか」と実際に質問し、どのサイトが引用されているかを記録します。そのうえで、引用されている競合ページと自社ページの差分、特に数値と検証可能な事実の量を比較します。最後に、次の新商品ローンチの2〜3週間前を締切として、想定質問への回答ページを1本作ります。この4ステップであれば、追加の広告予算をかけずに着手できます。
AI検索での順位変動と実際のコンバージョンの関係については AI検索経由のコンバージョン率に関するGoogle公式の見解 もあわせて参照してください。
まとめ
eTail Bostonで語られたDTC4社の実践は、AIの用途が検索流入の設計と値付けという事業の中核へ移りつつあることを示しています。日本のEC事業者にとっての要点は、検証可能な一次情報を自社ドメインに積むこと、新商品の発売前にAI検索側の準備を終えること、価格判断など人手に依存する工程からAIを入れることの3点です。まずは自社サイトへの生成AI経由の流入を測るところから始めるのが妥当です。
参考文献
- Modern Retail: How DTC startups are using AI to scale more efficiently
- Modern Retail: Brands are seeing an influx of traffic from ChatGPT and Google Gemini
- Modern Retail: Measurement is the next frontier in GEO for brands
- Modern Retail: Shopify launches tools to help merchants track sales and traffic from AI platforms
- TechCrunch: Shopify says AI search is driving more traffic and sales, not replacing Google
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。