Anthropicは、Claude Managed Agentsで作った購買エージェントにインバウンド対応を任せ、商談化率を従来の2倍以上に引き上げました。
本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
Anthropicは2026年9月30日、自社の営業チームがインバウンド対応を購買エージェントで作り直した事例を公開しました。購買エージェントとは、問い合わせ客の要件を聞き取り、質問に答え、最適なプランの購入まで案内するAIのことです。ECの店舗運営でいえば、24時間対応の接客担当をAIに任せる取り組みに近く、問い合わせ対応に追われる中小の店長にも参考になる内容です。この記事では、事実関係、日本のEC事業者への示唆、初動アクションの順に整理します。

Anthropicの営業が購買エージェントに任せた仕事と結果
Anthropicのブログによると、同社には毎月数万件のインバウンド問い合わせが届いていました。営業開発担当だけでは捌ききれず、顧客は返答まで数日待つ状態でした。しかも質問の多くは、料金はいくらか、最低何席からか、HIPAAに対応しているかといった、ドキュメントに載っている基本的な内容でした。
そこで同社は、Contact Salesページ、料金ページ、製品内、メールの4か所に購買エージェントを置きました。エージェントは顧客が何をしたいのかを聞き、追加で質問し、料金やセキュリティ、データの扱いに答えたうえでプランを勧めます。大規模または複雑な案件は、会話の全内容を添えて営業担当に引き継ぎます。
結果として、エージェントは1日に1,000件を超える会話を始め、商談化率は従来の2倍以上になり、クローズまでの期間は約5日短くなりました。営業担当のメール往復は10通から6通に減り、ある担当者は成約件数が2.5倍になったと紹介されています。原文には次の一文があります。
The buying agent now holds thousands of conversations a day, answers customers’ most pressing questions, and gets them through checkout.
なお、1日の会話件数は記事内で表現が揺れているため、正確な数字は原文での要確認とします。
日本のEC事業者にとっての論点
この事例が示すのは、問い合わせの大半は定型質問で、そこをAIに任せると人は難しい案件に集中できるという構図です。楽天市場やAmazon、Shopifyで店舗を運営していれば、サイズ、納期、返品条件、ギフト対応といった同じ質問に毎日答えているはずです。ここをエージェントに任せられれば、店長は商品企画や広告運用に時間を回せます。
ただし、そのまま日本のモールに持ち込めるとは限りません。楽天市場やAmazonの購入前の問い合わせは各モールの仕組みの上で行われるため、外部のエージェントを差し込める範囲は限られます。現実的なのは、自社ECサイトやShopifyストア、LINE公式アカウント、メール対応のように、自分で設計できる接点から始める形です。モールの問い合わせは、まずAIで回答案を作って人が確認する運用から入るのが安全です。
もう一点、Anthropicの事例が優れているのは、売り込みよりも顧客にとって正しい選択を優先した点です。小規模なチームには無理にアップセルせず、合うプランを勧める方針だったと記されています。EC現場でも、買わせる接客より、迷いを解く接客のほうが返品や低評価を減らします。
設計で参考になる3つの学び
Anthropicが挙げた教訓のうち、EC運営にそのまま使えるものは3つあります。
1つ目は、ルールの羅列ではなく目標を渡すことです。顧客の要件を理解し、見込み客を見極め、最適なプランを勧めるという短い目標のほうが、細かい指示リストより機能したとされています。2つ目は、プロンプトを長くしすぎないことです。判断をモデルに委ね、簡潔に保つ設計が効いたとあります。3つ目は、引き継ぎの理由を改善材料にすることです。人に回った案件の理由を毎回見直すことで、エスカレーションの理由は半分に減りました。
構成も簡素で、プロンプトと少数のツール、Claudeモデルだけでした。営業とコンテンツ担当がConsoleでシステムプロンプトを直接編集でき、エンジニアに依頼しなくても現場で改善が回る点は、専任のエンジニアがいない中小EC事業者にとって大きな示唆です。
土台のClaude Managed Agentsは、2026年4月8日に公開ベータとして始まった、クラウドで動くエージェント向けのAPI群です。安全なサンドボックス、認証管理、長時間セッション、実行トレースなどを備え、料金は標準のトークン料金にセッション時間あたり0.08ドルが加わると案内されています。日本円での費用感や日本語対応の細部は要確認です。
今後の展望と初動アクション
今後は、問い合わせ対応だけでなく、購入前の相談から決済までをエージェントが担う流れが広がると考えられます。日本のEC事業者が今日から始められることは次のとおりです。
まず、直近3か月の問い合わせを集めて、定型質問が何割あるかを数えてください。次に、上位10問の回答をFAQとして整え、AIが参照できる形にします。そのうえで、人に引き継ぐ条件を決め、引き継いだ理由を毎週ふり返る仕組みを作ります。最後に、自社サイトやLINEなど、自分で制御できる接点から小さく試してください。
まとめ
Anthropicの事例は、定型質問をAIに任せ、複雑な案件だけを人が担当する分業が、商談化率を2倍以上に高めたことを示しています。日本のEC事業者は、まず問い合わせの棚卸しと引き継ぎ条件の設計から着手し、自社で制御できる接点で小さく検証するのが現実的です。
参考文献
- Anthropic: How Anthropic’s sales team rebuilt inbound with Claude Managed Agents
- Anthropic: Claude Managed Agents
- Anthropic: Claude 料金ページ(Team・Enterprise)
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引用元: Anthropic
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。