ウォルマートは2026年8月20日、一次データ基盤Scintillaを2027年にSam’s Clubへ拡大すると発表しました。
小売事業者が自ら集めた購買データを、取引先メーカーやブランドに販売・開放する動きが一段進みました。今回の発表で注目すべきは、拡大の理由が「サプライヤーからの要望のトップだった」と明言された点です。データ開放はもはや小売側の善意ではなく、取引条件そのものになりつつあります。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者の視点で解説します。
一次データ基盤Scintillaとは何か、何が発表されたか
Modern Retailによると、ウォルマートは米国のSam’s Clubに対し、翌年(2027年)に一次データ基盤Scintillaを展開する計画です。CFOのジョン・デビッド・レイニーが8月20日朝の投資家向け電話会議で明かしたもので、サプライヤーからの要望として最も多かった項目だと説明されています。
Scintillaとは、ウォルマートが自社の購買データをサプライヤーやブランドへ開放する分析プラットフォームのことです。旧名称はWalmart Luminateで、2021年に設立されたWalmart Data Venturesという専門部門が運営しています。提供されるのは売上実数、在庫水準、買い物行動のパターン、そして顧客に対する意識調査の結果までを含みます。2024年にはメキシコとカナダへグローバル展開しており、今回のSam’s Club拡大はその延長線上にあります。
Sam’s Clubのチーフマーチャントであるマイロン・フレイジャーは声明で「Scintillaは私たちのマーチャントとサプライヤーが、よりよく聴き、より速く動くことを助けます」と述べています。加えて2025年後半には、データを対話形式で読み解くツールや顧客調査結果を要約するツールなど、AI機能が追加されました。分析画面を読み込む専門人材を持たない中小サプライヤーでも扱えるようにする、という設計思想が見て取れます。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
論点は3つあります。第一に、モール側が持つ一次データの開放範囲が、出店・出品の判断材料として重みを増すことです。日本でも楽天市場のRMSには商品分析やアクセス人数の機能があり、Amazonはブランド登録を済ませた事業者向けにブランド分析を提供しています。ウォルマートの動きは、こうした「モールが握るデータをどこまで取引先に返すか」という競争軸が世界的に強まっていることを示しています。自社が主力とするモールのデータ提供メニューを、来期の出店判断に組み込む時期に来ています。
第二に、データが広告代理店や技術パートナーにも流れ始めている点です。2026年4月には、Walmart Data Venturesが広告主とその代理店がウォルマートの一次データを安全に共有できるAPIを展開しているとDigidayが報じました。オムニコム傘下Flywheelの幹部は、広告に紐づいた成果データだけを見るよりも、購買行動の全体像を追えることのほうが強力だと語っています。日本のEC事業者にとっては、モール広告の効果測定を「広告管理画面の数字」だけで完結させる運用が、いずれ物足りなくなるという示唆です。
第三に、AIに読ませる前提でデータが整えられているという点です。Scintillaに追加された対話型ツールは、サプライヤー側の分析工数を下げる方向に働きます。裏を返せば、モールから受け取ったCSVを手作業で集計しているだけの事業者と、生成AIに投げて仮説を出させる事業者の差が、来年以降さらに開くということです。この構図は、自社データをAIモデルに読ませる比較検証や、Targetが在庫のデジタルツインを構築した事例とも地続きです。
明日からの初動アクション
まず、いま自社が取得できているデータの棚卸しをおすすめします。楽天RMSの商品分析、Amazonのブランド分析、Yahoo!ショッピングのストアクリエイターProなど、契約上すでに見られるはずのレポートで手つかずのものがないかを確認します。開放されているのに使っていないデータが最も安い改善余地です。
次に、月次で見る指標を売上・アクセス・転換率の3点から、在庫切れ率と再購入率へ広げます。ウォルマートがSam’s Clubに持ち込もうとしているのは、まさに品揃えと在庫可用性の改善でした。日本のモール運営でも、欠品による機会損失は広告費より大きな穴になっていることが少なくありません。
最後に、生成AIへのデータ投入を小さく試すことです。過去12か月の商品別売上CSVをそのまま読ませ、伸びているカテゴリと落ちているカテゴリを言語化させるだけでも、担当者の仮説出しは加速します。リテールメディアの拡大局面については、リテールメディア市場の動向もあわせてご確認ください。
まとめ
ウォルマートの一次データ基盤Scintillaが2027年にSam’s Clubへ広がることは、モールが持つ購買データの開放が取引条件化していく流れを象徴しています。日本のEC事業者に求められるのは、開放済みのデータを取りこぼさず、AIに読ませて意思決定を速める体制づくりです。データが増えること自体は競争優位になりません。読み解く速度が優位を生みます。
参考文献
- Modern Retail|Walmart extends Scintilla data platform to Sam’s Club
- Modern Retail|Walmart develops AI tools to help suppliers better understand customer data
- Walmart Corporate|Walmart announces global launch of Walmart Luminate
- Digiday|Walmart’s expanded data offering to agencies and advertisers gets closer to self-serve
- Chain Store Age|Walmart extending Scintilla to Sam’s Club
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。