ハーシーは2026年、季節催事の販促設計にAIを導入し、リテールメディアのROASを前年比で約20%改善しました。画像認識で売場の陳列位置を評価する自社ツールと、リアルタイムのマーケティングミックスモデルを組み合わせた取り組みで、これまで5か月かかっていた分析作業が一晩で終わるようになったといいます。日本のEC事業者にとっても、母の日・お中元・ハロウィンといった季節催事の設計思想を問い直す材料になります。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
ハーシーのAI販促で何が起きたか
結論から言えば、ハーシーがAIで置き換えたのは「クリエイティブ制作」ではなく「どこに置くか・いつ出すかの意思決定速度」です。Modern Retailが2026年8月24日に報じたところによると、同社は今年から、コンピュータービジョンとAR(拡張現実)を使う自社開発ツールを数千店舗規模で運用し、スモア(マシュマロとチョコレートをグラハムクラッカーで挟む定番の夏のおやつ)関連の陳列をどこに置けば売れるかを判定しています。営業担当が店頭の陳列を撮影し、POSデータと突き合わせることで、店内のどの位置が効いたのかをツールが割り出す仕組みです。
同社の小売担当バイスプレジデントであるStephanie Bermanは、AI活用の要点を「リアルタイムのデータ、より速い意思決定、そして店頭とオンライン双方の最適化」と説明しています。数字も具体的です。スモア関連売上は前年比で二桁成長、ピークシーズン(イースターからレイバーデーまで)の関連市場規模は2億〜2億5,000万ドル規模と同社は見積もっています。陳列形態の比較では、パレットを積んだ独立型什器がエンドキャップ(棚端)を101%上回りました。
もう一つの柱が、ハーシー公式ブログでも紹介されているAI版マーケティングミックスモデルです。SNS・検索・ストリーミングのデータを取り込んで標準化し、広告費の配分を「数か月前の分析」ではなく「いま市場で起きていること」に基づいて決められるようにしました。従来5か月分の手作業スプレッドシート集計だったものが一晩の処理になり、スモア関連ではリテールメディアのROASが前年比で約20%改善したとされています。SNS上では「トースト強め派かとろとろ派か」を問う投票を実施し、70%がトースト強め派だったという小さな検証も、施策の温度感を測る材料に使われています。
日本のEC事業者にとっての論点
日本のEC事業者が読み替えるべき論点は三つあります。
第一に、「陳列位置」はECでは検索結果面と特集ページの位置に置き換わります。ハーシーの発見のうち最も示唆的なのは、キャンプ用品の近くに置いたスモア陳列で消費者の反応が高かったという点です。カンターのMichael Hillは、低集客エリアや文脈の合わない売場に大きな什器を置いても効果は打ち消されると指摘しています。楽天市場でいえば、商品ページ単体ではなく「バーベキュー特集」「キャンプ特集」のような用途文脈の中に商品を置けているか。Amazonであれば、関連商品や「よく一緒に購入されている商品」の並びに自社商品が食い込めているか。売場面積を増やす発想より、購買動機の文脈に沿わせる発想が効くという話です。
第二に、季節催事の売上構造を数字で押さえる必要があります。米調査会社サーカナのデータでは、マシュマロやグラハムクラッカーの売上はメモリアルデーや独立記念日といった大型連休の前後に最大300%まで跳ね上がるとされています。日本でも、お中元・お歳暮・ハロウィン・クリスマス・母の日といった山は明確です。問題は、その山を「毎年なんとなく」で回している店舗が少なくないことです。前年の日別データを引き当て、どの週にどれだけの広告費を寄せるかを事前に決めておくだけでも、判断のブレは大きく減ります。この設計は季節催事カレンダーの記事でも整理しています。
第三に、リテールメディアの費用対効果を月次より短いサイクルで見る体制です。楽天のRPP広告やAmazonのスポンサープロダクト広告は、入札とキーワードの調整サイクルを縮めるほど効きます。ハーシーが5か月を一晩に短縮したのは、意思決定の頻度そのものを変えたということです。日本の中小EC事業者が同じ規模のツールを自社開発する必要はありませんが、広告レポートの集計と示唆出しを生成AIに任せて週次に引き上げるだけでも、実務上の効果は近いものが得られます。関連する考え方は楽天RPP広告のAI活用記事やリテールメディア市場の記事でも触れています。
なお、ハーシーの数値はいずれも同社およびサーカナ、カンターの発表に基づくもので、第三者による検証は公開されていません。自社の試算に流用する際は参考値として扱うのが妥当です(2026年8月時点、要確認)。
今日から着手できる初動
まず着手すべきは、直近の季節催事の日別売上と広告費を1枚のシートに揃えることです。山の立ち上がりが何日前から始まり、いつ落ちるのかが見えれば、広告費の寄せどころは自ずと決まります。
次に、自社の主力商品が「どの用途文脈の並び」に置かれているかを確認します。楽天であれば特集ページや検索結果面での見え方、Amazonであれば関連商品欄です。単品の商品ページ改善よりも、文脈への差し込みのほうが効くケースは珍しくありません。
三つ目に、広告レポートの読み解きを生成AIに任せる運用を試すことです。週次でCSVを読み込ませ、前週比の変化と要因候補を出させるだけでも、担当者の判断は速くなります。ハーシーの事例が示しているのは、AIが人の代わりに決めるのではなく、人が決める頻度を上げるために使われているという点です。
まとめ
ハーシーのAI活用は、派手な自動化ではなく、意思決定の周期を月単位から日単位へ縮める投資でした。ROAS約20%改善、パレット什器がエンドキャップを101%上回るといった数字は、置き場所と出し時を細かく見直した結果です。日本のEC事業者も、季節催事の日別データを揃え、用途文脈への差し込みを点検し、レポート読解を生成AIに任せる。この三つから始めるのが現実的です。
参考文献
- Modern Retail: Hershey is using AI to strategize for s’mores season
- The Hershey Company: Inside Hershey’s shift to real-time, AI-driven marketing
- The Hershey Company: Consumer Insights
- Modern Retail: CPG Playbook
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。