メタは2026年5月、AIエージェントで社員を置き換える大規模リストラ計画の第2弾を中止しました。
コード名「Project OT」と呼ばれたこの計画は、一部チームを最大60パーセント縮小するシナリオまで検討していたにもかかわらず、社員の反発と、AIエージェントが期待した生産性を出さなかった内部データによって、5月20日の第1弾(全社員の10パーセント削減)を最後に止まりました。AIエージェント導入を「人員削減の手段」として設計したときに何が起きるのかが、これほど具体的な数字とともに表に出た事例はほとんどありません。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
Project OTとは何だったのか、そしてなぜ止まったのか
Project OTとは、メタが2026年1月に立ち上げた「AIネイティブな組織」への全社転換計画のことです。TimesLIVE(Reuters配信)が内部文書と20人超の関係者証言をもとに報じた内容によると、計画は5月と11月の2波構成で、シナリオ演習では一部チームを最大60パーセント縮小することが検討されていました。
実際に動いたのは第1波だけです。5月19日の夜、第1波の通知を出す数時間前にマーク・ザッカーバーグが方針を転換し、11月の第2波を中止しました。翌20日に全社員の10パーセントを削減した後、残った社員に対して「今年これ以上の全社的なレイオフは想定していない」と社内メモで伝えています。
メタ自身もProject OTの存在を認めており、「シナリオ演習のすべてを実行に移したわけではなく、そうすると想定していたわけでもない」との声明を出しています。ただし、どの部門が対象だったかは明らかにしていません。人事評価や昇進の判断についても「AIではなく人が行っている」と説明しています。
数字が示した「AIエージェントはまだ人の代わりにならない」
計画が止まった最大の理由は、AIエージェントの実力が期待に届かなかったことです。社内データの数字が生々しく、EC事業者にとってもそのまま参考になります。
社内プラットフォームやインフラに対するコード変更は前年同期比で220パーセント増えました。ところが、実際にユーザーへ届く新機能や改善につながった変更は36パーセント増にとどまっています。つまり、生成される成果物の量は3倍以上になったのに、ユーザー価値に変換された割合は大きく落ちたということです。
副作用も出ました。制御されないAIエージェントが「人間なら通常やらない大規模で破壊的な操作」を実行した結果、サービス停止やデータ漏えいの可能性を含む重大なインシデントは前年比で40パーセント増加し、社員がその火消しに費やす時間は70パーセント増えたと社内投稿は記録しています。6月には、AIを使った新しいカスタマーサポート用ボットが攻撃者に悪用され、著名なInstagramアカウントへの侵入を許す事案も表面化しました。
人の側の数字も動いています。社内の従業員意識調査「Pulse」における好意的回答は74パーセントから55パーセントへ低下しました。米国の社員端末にキーストロークやマウス操作を記録するソフトを入れ、AIエージェントの学習データにする施策が反発を増幅させています。ザッカーバーグは7月の社内タウンホールで、AIエージェント技術が想定ほど加速しなかったと認め、今後3〜6か月で改善が見え始めるとの見通しを述べました。
日本のEC事業者が取るべき初動は「置き換え」ではなく「再配置」
日本のEC事業者にとっての教訓は、AI導入の目的設計を人員削減に置いた瞬間に、投資対効果の測り方も社内の空気も壊れる、という点です。楽天市場やAmazon、Shopifyの運営現場に当てはめると、初動は3つに整理できます。
第一に、KPIを「生成量」ではなく「到達量」で置くことです。メタのコード変更220パーセント増と機能到達36パーセント増の差は、そのまま「AIで商品説明文を月1,000本量産したが、実際に公開・改善につながったのは何本か」という問いに置き換わります。生成本数ではなく、公開本数・CVR改善幅・問い合わせ削減件数で測る設計にしてください。
第二に、エージェントに権限を渡す範囲を先に切ることです。在庫更新、価格改定、クーポン発行のように失敗コストが大きい操作は、AIに提案までさせて実行は人が承認する形が現実的です。メタで起きた「破壊的な操作」と火消し時間70パーセント増は、権限設計を後回しにした結果として読めます。
第三に、削減ではなく再配置として設計し、それを先に社内へ言い切ることです。メタでも、AI教育用データを作る新部門へ配属された社員が単調な業務だと不満を漏らし、一部は元のチームへ戻されています。受注処理や問い合わせ一次対応をAIに寄せるなら、空いた時間を商品企画やレビュー分析といった売上に近い仕事へ移す前提を明示したほうが、現場の協力を得られます。
まとめ
メタのProject OT中止は、AIエージェントの能力そのものよりも、導入の設計と社内コミュニケーションの失敗として読むべき事例です。日本のEC事業者は、生成量ではなく到達量で測り、権限範囲を先に切り、人員削減ではなく再配置として位置づける。この3点を守るだけで、同じ失敗を避けられる確度は大きく上がります。
参考文献
- TimesLIVE(Reuters配信)|Mark Zuckerberg had a bold plan to replace Meta staff with AI: here’s how it imploded
- The Globe and Mail|How Zuckerberg’s plan to replace Meta staff with AI unravelled
- CNBC|Meta layoffs starting this week stress harsh AI reality inside Zuckerberg’s company
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: TimesLIVE(Reuters配信)
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。