DeepSeekが内モンゴルの新拠点にファーウェイ製AIチップを16万枚以上導入する計画です。
2026年9月4日、Bloombergが関係者の話として報じた内容を、tech-ishなどが相次いで伝えました。DeepSeekは内モンゴル自治区ウランチャブに建設中のギガワット級データセンターで、ファーウェイの次世代AIアクセラレータ「Ascend 950DT」を最低16万枚稼働させる計画とされています。両社はコメントしていません。AI推論コストの構造が今後どう動くかを占う話であり、生成AIをすでに日々の業務に組み込んでいるEC事業者にとっても他人事ではありません。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

何が起きたか|16万枚・1ギガワット・2027年末稼働
今回の計画の骨子は、学習と推論の分業です。DeepSeekは新しいモデルを訓練する学習用途には引き続き入手可能なNvidia製ハードウェアを使い、ユーザーが日常的にモデルを叩く推論用途をファーウェイ製チップに移す構えだと報じられています。Ascend 950DT自体は学習向けに設計された製品ですが、DeepSeekは学習には使わない方針とされます。
拠点となるウランチャブは北京の北西約350キロメートルに位置し、風力と太陽光が安く、年平均気温は4.3度で自然冷却が効きます。フル稼働時の消費電力は1ギガワット規模で、これは一般家庭およそ75万世帯分に相当します。稼働は2027年後半から2028年初頭にかけて一部から開始する見込みです。The News Internationalも、16万枚という規模がこのサイトの総容量の一部にすぎないと伝えています。
ただし供給側にはボトルネックがあります。Ascend 950DTは自社製の広帯域メモリを搭載して2026年第4四半期に投入される予定ですが、高性能メモリの不足により年内の生産量は数十万枚規模にとどまるとされ、DeepSeekの発注を満たすには12か月以上かかる可能性があります。なお米政権関係者は、DeepSeekがNvidiaの最上位「Blackwell」を入手して内モンゴルに設置したとも主張していますが、この点はBloombergも独自に裏付けていないと明記しており、現時点では要確認の情報です。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
結論から言えば、この話は「AI利用料がまた下がる」という単純な朗報ではなく、調達先の地図が二つに割れつつあるという構造の話です。EC運営の現場に引き寄せると、論点は3つに整理できます。
第一に、推論単価の下落は自動的には起きないという点です。tech-ishが引用したThe Registerの記事では、DeepSeek V4 Proの入力トークン単価は100万トークンあたり1.74ドルで、GPT-5.5の5ドルを大きく下回るとされています。ただ今回のように専用インフラの整備が1年以上ずれ込む可能性がある以上、「来年にはもっと安くなる前提」で商品説明文の全面自動生成やレビュー要約の常時実行を設計するのは危険です。現行単価で採算が合う範囲に業務を切り分けるほうが安全です。この考え方はDeepSeek V4とGPT-5.5のコスト比較でも整理しています。
第二に、推論が物理的にどこで実行されるかという問題です。中国国内の巨大拠点で推論が回るモデルを、日本のEC事業者が顧客氏名や住所、問い合わせ全文を入れて使うのかどうかは、個人情報保護法の越境移転の考え方と、楽天市場やAmazonなど各モールの外部サービス利用ルールの両方に関わります。各社の規約解釈と最新の運用は事業者ごとに確認が必要な領域なので、ここは要確認としたうえで、少なくとも「個人情報を含むプロンプト」と「含まないプロンプト」を分ける運用は今から始められます。
第三に、オープンウェイトモデルの存在感が業務設計を変えつつある点です。tech-ishは、中国系オープンウェイトモデルがこの春のHugging Faceのダウンロードで41パーセント、5月のOpenRouterのトークンで61パーセントを占めたという集計を引いています。無料で重みが配られ、単価も安いモデルが量的に主流になれば、EC事業者側も「精度が要る作業は高いモデル、量が要る作業は安いモデル」という二層運用が現実的な選択肢になります。モデル比較の視点はオープンソースLLMの比較記事も参考になります。
今週からの初動アクション
まず取り組むべきは、AI利用料の棚卸しです。どのタスクに月何回、どのモデルを、いくらで使っているかを一覧にすると、単価差が効くのは商品説明文とレビュー要約のような量の出る処理に限られることが見えてきます。逆に、価格改定の判断やクレーム一次対応の下書きは回数が少なく、単価より精度が効きます。
次に、モデルを差し替えられる状態を作ることです。プロンプトをアプリに直書きせず外部ファイルに切り出し、出力の良し悪しを判定する評価用サンプルを30件ほど用意しておけば、どのモデルに乗り換えても品質を横並びで比べられます。ここで資産になるのはモデルそのものではなく、自社の評価基準です。
三つ目に、データの線引きです。顧客の氏名・住所・電話番号・注文番号をプロンプトに含めない前処理を先に入れておけば、将来どのベンダーを使うことになっても手戻りが出ません。ファーウェイ製チップとDeepSeekの組み合わせがコスト面で何を意味するかは、DeepSeek V4とAscendの検証記事でも触れています。
最後に、契約と社内ルールの見直しです。安いモデルへ寄せた結果として品質が落ちたときに誰が気づくのか、監視の担当と基準を決めておかないと、値下げのメリットは返品や問い合わせ増で相殺されます。
まとめ
DeepSeekの16万枚計画は、AI推論の供給網が米中で二分されていく流れを象徴する動きです。日本のEC事業者にとって重要なのは、どちらの陣営が勝つかではなく、単価が変動しても業務が壊れない設計を先に用意しておくことです。利用実態の棚卸し、モデル差し替え可能な構造、個人情報の線引きという3点を、今の単価のうちに整えておくことをおすすめします。
参考文献
- Bloomberg|DeepSeek Plans Big Huawei AI Chip Order to Power New Data Center
- tech-ish|DeepSeek turns to Huawei for 160,000 AI chips as Nvidia stays locked out of China
- The News International|DeepSeek plans massive Huawei chip order for Mongolia data center
- TrendForce|Huawei Unveils Ascend 950 with In-House HBM in 2026
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: tech-ish
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。