リテールメディア11社の差別化競争|EC広告費の配分3つの論点と初動

リテールメディア11社が広告主に示した差別化軸と共通テーマを整理し、楽天やAmazonのモール広告に依存する日本のEC事業者が、広告費の配分をどう見直すか3つの論点と初動で解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

リテールメディア11社が広告主向けの商談会で差別化策を競いました。

米国ニューヨークで2026年9月上旬に開かれた小売・コマースメディアのアップフロント(広告枠の事前商談会)で、小売や金融、EC各社の広告部門が15本のプレゼンテーションを行いました。リテールメディアとは、小売事業者が自社の購買データと接客面を使って広告枠を販売する事業のことです。日本でも楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピングのモール内広告が同じ構造にあり、EC広告費をどこにいくら配分するかの判断は年々難しくなっています。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

11社が示した差別化軸と、共通していた4つのテーマ

結論として、各社が語った差別化の中身はバラバラでしたが、広告主が突きつけている要求は1点に収束していました。投資が本当に効いたのかを証明せよ、という要求です。Modern Retailが伝えたところによると、イベントを主催したのは広告イベント会社のアセンダント・ネットワークで、ホームセンター大手からスーパーマーケット、決済事業者まで15社が登壇しました。

差別化の語り口は業種で分かれました。老舗の小売と銀行は数十年分の自社データを、ECと金融テック各社は複数の店舗をまたぐ横断的な視野を強みとして挙げています。ホームセンター大手の広告事業オレンジエプロンメディアは、ブランドが自社の面に並ぶとブランド信頼が30パーセント、想起が70パーセント、購入意向が40パーセント高まるという自社データを示しました。食品スーパーのアルバートソンズは、商品と価格の広告から、コンテンツ配信の場へ広告事業を作り替えていると説明し、ショートドラマ動画の横に置いた広告枠がベンチマークを200パーセント上回った点、企画参加ブランドの販売個数が24パーセント伸びた点を挙げています。

金融の側からは、決済データの厚みが持ち出されました。銀行系の広告事業は2025年のデビットとクレジットの決済額が1.9兆ドルを超えたと述べ、何を買ったかだけでなく、行動がどう変わり何を優先するかまで読めると主張しています。ペット用品ECは売上の84パーセントが自動継続の定期購入であることを、フードデリバリー大手は火曜には金曜より健康食品の注文が30パーセント多く、歯ブラシの注文は週末に約30パーセント跳ねるといった曜日別の偏りを、それぞれ広告主に売れる資産として提示しました。

登壇者が口をそろえた共通テーマは4つです。計測、成果への直結、チャネルと広告プラットフォームをまたぐ相互運用性、そしてインクリメンタリティ(その広告がなければ発生しなかった増分売上)の証明でした。もう1つ通底していたのが、消費者のシグナルを集めて次の行動を先読みするという発想です。これは実質的にAIによる需要予測の話であり、リテールメディアの競争軸が枠の在庫量から予測精度へ移りつつあることを示しています。

日本のEC事業者にとっての論点はどこか

日本のEC事業者にとっての最大の論点は、モール広告が構造的に「需要の刈り取り」に寄っていることです。楽天市場のRPP広告もAmazonのスポンサープロダクト広告も、基本は検索したユーザーの前に出る仕組みで、すでに買う気がある人の取り合いになります。米国の百貨店系ネットワークが「ほとんどのリテールメディア戦略は需要の刈り取りに偏っている。需要を作り、選択を形づくり、そのうえで刈り取るところまでが機会だ」と述べたのは、日本のモール運営にもそのまま刺さる指摘です。刈り取り枠のCPCが上がり続ける局面では、上位ファネルの面を持たないまま入札単価だけを上げても、利益率が削れるだけで終わります。

2つ目の論点は、インクリメンタリティの検証です。ラストクリックのROASだけを見ていると、放っておいても買ったはずの指名検索ユーザーに広告費を払い続ける状態に気づけません。楽天のRPP広告なら特定商品の出稿を数週間止めて自然流入と売上の変化を見る、Amazonなら広告経由と非広告経由の売上比率の推移を追うといった、地味な停止テストが有効です。米国の広告主が「投資が本当に効くことを証明せよ」と迫っている以上、日本のモール側も遠からず同種の指標開示を求められる可能性があります。

3つ目は、店頭とオフラインの面をどう見るかです。米国では店内スクリーンへの投資が本格化しており、ドラッグストア大手は2026年に全米で約11,000面のデジタルスクリーン、約7,000店舗のレジ画面広告を見込むと説明しています。今回のイベントでも、ドラッグストアチェーンが1,200店舗規模のスクリーン網を10月から展開すると発表しました。日本のリテールメディアがどこまで店頭面を持つかは事業者ごとに差が大きく、公表資料が乏しいため個別の規模は要確認です。

店内サイネージに映る商品広告のイメージ

明日から動かせる初動

まず、直近3か月の広告費を「刈り取り」と「需要創出」に仕分けてください。楽天のRPP広告やAmazonのスポンサープロダクト広告のように検索意図を刈り取る枠と、ディスプレイ広告やSNS広告、外部メディア出稿のように認知を作る枠の比率を出すだけで、配分の偏りが数字で見えます。

次に、主力商品を1つ選び、2週間だけモール内の刈り取り広告を停止して、自然流入の受注件数と全体の売上を比較します。停止しても売上がほぼ落ちない商品は、広告費が指名買いの上に重ねて乗っている可能性が高く、その分を別の面へ回す判断材料になります。

3つ目に、自社が持つシグナルを棚卸しします。定期購入の継続率、曜日別と時間帯別の受注、リピート間隔、同時購入されやすい組み合わせ。米国各社が広告主に売っていたのはまさにこの種のデータで、自社ECのデータであれば広告のセグメント設計にも、生成AIを使った商品説明やメール文面の出し分けにも転用できます。

最後に、AI検索経由の流入を計測の対象に加えることです。刈り取り面の単価が上がるほど、検索エンジンや生成AIの回答経由で入ってくる非広告流入の価値が相対的に上がります。参照元にAIサービスのドメインが含まれるかを解析ツールで確認しておくと、次の配分判断の精度が上がります。関連する論点は、リテールメディアが天候連動広告へ進んだ動き商業施設大手が年10億回の来店データで広告網を始めた事例リテールメディア市場規模の見通しでも扱っています。

まとめ

リテールメディアの競争は、枠の量から予測精度と効果証明へ移っています。日本のEC事業者がとるべきスタンスは、モール内の刈り取り広告を「効いている前提」で回さず、停止テストで増分を確かめ、需要を作る面と自社データの活用へ配分を組み替えることです。年末商戦前の今が、配分を一度組み直す最後のタイミングになります。

参考文献

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https://uruchikara.jp/contact/

引用元: Modern Retail


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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