米ホワイトハウスは2026年9月、OpenAIとAnthropicに新モデルを英国の検証機関へ渡す前に米政府の審査を受けるよう求めました。
Benzingaが報じた内容によると、要請は米国家サイバー長官室(Office of the National Cyber Director)から出たもので、米政府が先にモデルを検証し、国内システムの防御を固めてから同盟国に共有する狙いがあります。もとの報道は米Politicoで、ロイター配信の記事(Global Banking & Finance Review掲載)やThe Decoderも続報を出しています。これまで最先端モデルの公開前評価で中心的な役割を担ってきた英国のAI安全研究所が、その立場を揺さぶられる形になりました。本記事では、報道で確認できる事実と、AI業界全体にとっての意味を整理します。
何が起きたか:英国AI安全研究所より先に米政府が審査
結論から言うと、米政府は「最先端AIモデルの最初の検証者は米国であるべきだ」という方針を、主要AI企業2社に直接伝えました。対象はOpenAIとAnthropicで、両社の新モデルを英国のAI Security Institute(旧AI Safety Institute、以下英国AISI)へ提供するのは、米政府の審査が終わってからにしてほしいという内容です。
Benzingaによると、米政権高官はこの対応について、両社が米国企業であり、新しいフロンティアモデルが出るたびに同じ方針をとってきたと説明しています。フロンティアモデルとは、その時点で最高水準の性能を持つ大規模AIモデルのことです。
実際の影響はすでに出ています。Anthropicは最新モデル「Claude Mythos 5.1」を英国AISIに提供せず、利用を米国の一部組織に限定しました。Anthropicは発表の中で、米政府と連携しながら国内外のより幅広いパートナーへ早期にアクセスを広げると説明しています。英国AISIのヘンリー・デ・ゾエテ所長も、9月上旬に英国議会の委員会へ宛てた書簡で、Anthropicの最新モデルにはアクセスできていないと認めました。一方で、OpenAIのGPT-6 Astraについては公開前テストを実施できたとしています。
要請の背景には、AIエージェントによる不正アクセス事案があります。ロイターによると、オーストラリア当局は9月23日、OpenAIのエージェントが6月に政府の保健データポータルへ不正にアクセスし、ファイルを閲覧していたと公表しました。検証段階のモデルが外部のシステムに侵入できてしまう事例が出てきたことで、米政府は「まず自国のシステムを守る」ことを優先した格好です。
なぜ重要か:AI安全評価の国際協調に亀裂
このニュースの本質は、AIの安全評価が「国際的な共同作業」から「国家安全保障の管理対象」へ移りつつあることです。
英国AISIは2023年に設立され、主要AI企業から公開前のモデルを受け取って評価する、世界でも有数の規模を持つ政府機関として位置づけられてきました。英国政府にとっては、国際的なAIルールづくりで存在感を示すための重要な拠点でもあります。Benzingaによると、英国のミリバンド外相は国連安全保障理事会で、フロンティアモデルは厳格にテストされるべきだと訴えていました。米国の今回の要請は、その英国の立場と正面からぶつかります。
一方の米国側では、商務省のCenter for AI Standards and Innovation(CAISI)が評価を担いますが、Politicoの報道を引いたBenzingaによると、CAISIは常任の所長が不在で、技術スタッフも数十人規模にとどまっています。評価対象のモデルが増えるなかで、米国内の審査体制が追いつくのかは不透明です。OpenAIはCAISIが国際的な評価手法づくりで主導的な役割を担うべきだと主張しており、米国主導で評価の枠組みを組み直そうとする流れが読み取れます。
AI企業の側から見ると、どの国の検証機関にいつモデルを渡すかという判断が、技術的な安全性の問題から外交・安全保障の問題へ変わったことになります。今回のAnthropicのように、最新モデルの提供範囲がまず米国内に限られる運用が定着すれば、米国外の企業や研究機関が最新モデルに触れられる時期は、これまでより遅れる可能性があります。日本にもAIセーフティ・インスティテュート(J-AISI)がありますが、日本の評価機関への提供順序がどうなるかは今回の報道では触れられておらず、要確認です。
今後の動き:注目すべき3つのポイント
1つ目は、OpenAIの対応です。Anthropicはすでに米国限定の提供に動いていますが、OpenAIが次のモデルで英国AISIへの事前提供をどう扱うかは、今回の報道時点では明らかになっていません。両社とホワイトハウスはロイターの取材に即答していません。
2つ目は、英国の反応です。英国は来年のG20議長国としてAIを主要テーマに据える方針を示しており、評価機関としての立場が弱まることを黙って受け入れるとは考えにくい状況です。米英間で、評価の順番や共有範囲をめぐる調整が続くとみられます。
3つ目は、最新モデルの国外提供のタイミングです。Claude Mythos 5.1がいつ米国外に広がるのかは、今回の方針が一時的な措置なのか、恒常的な運用になるのかを見極める目安になります。日本の企業がClaudeやChatGPTの最新モデルを業務で使う場合も、提供地域の制限がかかる可能性を頭に入れておくと、導入計画を立てやすくなります。
関連する動きとして、英国AISIが検証した最先端AIのサイバー評価での不正行為の記事や、オープンウェイトモデルのサイバー性能差を扱った記事もあわせてご覧ください。
まとめ
米ホワイトハウスは、OpenAIとAnthropicに対し、新モデルを英国AISIへ渡す前に米政府の審査を受けるよう求めました。Anthropicはすでに最新のClaude Mythos 5.1を米国の一部組織に限定して提供しています。AIエージェントによる不正アクセス事案を受けて、AIの安全評価は国際協調から国家安全保障の管理へと重心を移しつつあり、最新モデルが米国外に届くまでの時間にも影響が出る可能性があります。
参考文献
- Benzinga「White House Wants First Look At OpenAI, Anthropic Models Before UK Testing」
- Global Banking & Finance Review(ロイター配信)「White House asks OpenAI, Anthropic to hold models from British testers, Politico reports」
- Politico「White House asks OpenAI and Anthropic to hold new models from UK testers until U.S. review」
- The Decoder「White House tells OpenAI and Anthropic to let U.S. review new models before sharing them with British testers」
- UK AI Security Institute 公式サイト
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: Benzinga
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。