商品の品揃え調整や価格設定、仕入れ先との交渉といった「マーチャント(商品担当)の仕事」を、AIが実際に肩代わりし始めています。これまで人が手作業で回していた在庫の入れ替えや値付け、需要予測を自律的に動くAIエージェントが担い、担当者は戦略づくりに時間を振り向ける、という構図です。コンサルティング大手のMcKinseyは、エージェント型AIによってマーチャントが業務時間の最大40パーセントを取り戻せると指摘しています。日本のEC事業者にとっても、店舗運営の人の役割そのものが変わる論点なので整理します。
何が起きているのか
いま注目されているのは「エージェント型AI(agentic AI)」と呼ばれる、目標を与えると自分で計画して動き、結果から学ぶAIです。従来のAIが「分析して提案する」までだったのに対し、エージェント型は品揃えの調整、価格の変更、販促の見直しといった作業を、人の最終確認を挟みながら連続的に実行していきます。
McKinseyは、カテゴリー担当者の仕事のうち、仕入れ先との交渉準備、商品情報の資料作成、競合の価格監視、値付けの推奨、需要予測といった時間のかかる部分が、AIによって大きく支援されるようになると説明しています。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)も、デジタルワーカーが「常時稼働するマーチャンダイジング担当」として、品揃え・価格・販促・商品コンテンツを継続的に最適化し続ける姿を描いています。週次でまとめて見直していた作業が、リアルタイムで回り続けるイメージです。
実際にツールも出そろってきています。Microsoftは2026年1月、小売の各業務を自動化するエージェント型AI機能を発表し、商品管理やサプライヤー対応を含む幅広い領域での活用を打ち出しました。AIが「分析の道具」から「業務を回す担い手」へと位置づけを変えつつあるのが、いま起きている変化です。
日本のEC事業者にとっての論点
この流れは、楽天市場やAmazon、Shopifyで店舗を運営する日本の事業者にも直結します。日々の業務を思い浮かべると、商品ページの作成、価格やクーポンの調整、在庫の発注判断、売れ筋の入れ替え、仕入れ先とのやり取りといった作業が大半を占めているはずです。これらはまさに、エージェント型AIが支援対象として挙げている領域と重なります。
特に人手が限られる中小規模の店舗ほど、効果は大きくなりえます。担当者が値付けと在庫管理に追われて、肝心の「どんな商品を仕入れ、どう売場を作るか」という戦略に時間を割けない、という悩みは多くの現場で共通します。McKinseyのいう「40パーセントの時間を取り戻す」という数字は、人を減らすためではなく、担当者を作業から解放して付加価値の高い仕事に振り向けるための余白として読むのが妥当です。
一方で、AIに任せきりにはできない点も明確です。価格や仕入れ条件の最終判断、ブランドの世界観づくり、顧客との関係構築は人が握る必要があります。McKinseyは、これからのマーチャントは作業者ではなく、AIエージェントに方向性を指示し、複数チャネルの品揃えを統括し、顧客やパートナーと直接対話する「ミニCEO」のような存在になると表現しています。AIを部下に持つ管理職へと役割が移る、という見立てです。
今後の展望と初動アクション
まず取り組みたいのは、自店の業務の棚卸しです。商品登録、価格変更、在庫発注、競合の価格チェック、販促設定のうち、どれが定型的な繰り返し作業で、どれが人の判断を要するかを分けて書き出します。AIに渡せる作業の範囲を見極めることが、導入を検討する出発点になります。
次に、すでに手元にあるツールから試すことです。楽天RMSやAmazonセラーセントラル、Shopifyには、価格やレビュー、在庫を扱う機能や拡張アプリが用意されています。いきなり全面自動化を狙うのではなく、値付けの推奨や在庫アラートなど、影響範囲が限定的で検証しやすい業務から小さく始めると、失敗しても軌道修正しやすくなります。
最後に、人の役割を再定義することです。AIが作業を担うほど、担当者には商品の目利きや顧客理解、売場の設計といった、数字に表れにくい力が求められます。AIに任せて空いた時間を何に使うかをあらかじめ決めておかないと、効率化しただけで終わってしまいます。役割の再設計までを含めて計画することが、AI活用の成否を分けます。
まとめ
エージェント型AIは、商品管理や仕入れ交渉といったマーチャントの仕事を実際に肩代わりし始めており、これは海外の大手小売だけの話ではありません。日本のEC事業者にとっても、担当者を定型作業から解放し、戦略や目利きに時間を振り向けるための現実的な手段になりつつあります。まずは自店の業務を棚卸しし、任せられる作業と人が握るべき判断を分けるところから始めるスタンスが望まれます。
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引用元: McKinsey
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。