EUのAI規制(AI Act)が、AIで作ったり加工したりした画像のうち「人物が実在の写真と見分けがつかないほどリアルなもの」に表示義務を課そうとしています。バーチャルモデルやAI生成のライフスタイル写真を商品ページに使うEC事業者にとって、これは越境EC(海外向け販売)のリスクに直結する論点です。法務テック企業のLawwwingは「EUのディープフェイクの定義そのものが曖昧で、ECがどの画像を表示対象とすべきか判断しづらくなっている」と指摘しています。日本のEC事業者がEU向けに販売する際、今のうちに押さえておきたいポイントを整理します。
何が問題になっているのか
EUのAI Act(規則 EU 2024/1689)は、世界で初めての包括的なAI規制です。2024年8月に発効し、段階的に適用が進んでいます。問題になっているのは、その第50条が定める「透明性義務」のうち、ディープフェイクに当たる画像・動画・音声へのラベリング(表示)義務です。
AI Actはディープフェイクを「実在の人物・物・場所・出来事に似せてAIが生成・加工し、本物の写真や録音だと誤認させうるコンテンツ」と定義しています。ところがこの定義は解釈の幅が広く、ECの現場で「どの画像が対象なのか」が分かりにくいという指摘が出ています。Lawwwingによると、商品写真がAIで作られた人物を含むかどうかを大量の在庫画像から手作業で見分けるのは事実上難しく、見分けられないまま表示義務に違反している店舗が多いとのことです。
罰則も軽くありません。第50条の透明性義務に違反した場合、最大で750万ユーロまたは世界売上高の1パーセントの制裁金が科されうるとされています。禁止された用途(リスク許容不可)の場合は最大3,500万ユーロまたは7パーセントに達します。なお、第50条の透明性義務がいつから本格適用されるかについては、2026年8月2日からとする見方と、2025年2月の透明性義務の一部として既に適用されているとする見方があり、ここは要確認です。いずれにせよ猶予は長くありません。
日本のEC事業者・越境ECにとっての論点
日本の事業者でも、Shopifyや楽天市場の海外向け店舗、自社サイトの多言語展開などでEUの消費者に商品を販売していれば、このAI Actの適用対象になりえます。AI Actは、EU域内のユーザーに向けてAIシステムを使ったりAIコンテンツを公開したりする企業に対し、企業規模を問わず適用されるとLawwwingは説明しています。中小規模の店舗でも例外ではありません。
具体的に注意したいのは、AIで生成したバーチャルモデルに自社商品を着せた画像です。アパレルや美容、ライフスタイル系では、撮影コストを抑えるためにAIモデルを使う動きが広がっていますが、実在の人物のように見えるモデルは、AI Act上のディープフェイクに該当しうると整理されています。一方で、人物が写っていない単体の商品写真や、AIで背景だけを差し替えた画像、解像度を上げただけの画像は対象外とされます。線引きは「実在の人物だと誤認させる人物表現があるかどうか」にあります。
さらに、表示は画面上に「AI生成」と添えるだけでは不十分になる可能性があります。AI Actは、C2PA(コンテンツの来歴を示す国際規格)のような、画像ファイル自体のメタデータに識別情報を埋め込む技術的な手法を想定しています。日本の事業者が制作会社や素材提供元から受け取った画像をそのまま掲載している場合、出所が分からないと表示すべきか判断できず、責任は掲載側にあるという点も見落とせません。
今後の展望と初動アクション
まず取り組むべきは、自社の商品ページや広告バナーで使っている画像の棚卸しです。どの画像にAI生成・加工の人物が含まれるかを把握しなければ、表示すべき対象すら決められません。提供元に制作方法を確認し、AI生成かどうかを管理台帳に残しておくと、後の対応が楽になります。
次に、EU向け販売の有無を改めて確認します。EUの消費者に販売していない、または今後も予定がないのであれば、現時点での優先度は下げて構いません。ただし越境ECを検討している場合は、商品ページのAIモデル画像にラベリング運用を組み込む前提で設計しておくと安全です。チャットボットを使っているなら「AIが応対している」旨の明示も第50条の対象である点も合わせて確認しておきましょう。
最後に、表示の方法を整えます。当面は画像の近くや商品説明に明確な注記を置くことが第一歩ですが、将来的にはメタデータへの埋め込みが求められる可能性が高いため、利用している画像編集ツールやプラットフォームがC2PAに対応していくかを継続的にチェックする価値があります。
まとめ
EUのAI Actによるディープフェイク表示義務は、バーチャルモデルやAI生成画像を使う越境EC事業者にとって現実的なリスクです。対象は「実在の人物と誤認させる画像」であり、商品単体写真や背景差し替えは原則対象外という線引きをまず理解することが重要です。EU向け販売の有無を確認し、画像の棚卸しと表示運用の準備を、罰則が本格化する前に進めておくスタンスが望まれます。
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引用元: Lawwwing
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。