オンライン買い物客のほぼ半数が、直近の購買行動のどこかでAIを使っていました。PYMNTS が2026年6月に公開した調査レポート「Global Digital Shopping Index: The AI-Powered Shopper Has Arrived」の結論です。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者向けに読み解きます。買い手の行動がここまで動いている一方で、売り手側のデジタル投資は鈍化しているという指摘が、今回いちばん重い部分でした。
調査が示した数字:買い物日数は月55日、ChatGPTのリサーチ利用は2年で15倍
今回の調査で最も分かりやすい変化は、消費者が「デジタルで買い物に触れる日数」が月55日まで伸びたことです。2024年時点では月51日でした。1か月は最大31日ですから、55日というのは「1日に複数回、複数チャネルで買い物行動が発生している」という意味になります。週1回を超えるペースでデジタルウィンドウショッピングをする層は、リモート購入・店頭受取・店内でのデジタル利用を合わせると、そうでない層の約3倍の頻度で購入していました。
AIの浸透ぶりも数字ではっきり出ています。商品リサーチにChatGPTを使う消費者は、2年間で2%から30%まで増えました。倍率でいえば15倍です。さらに64%が「2年以内にAIショッピングエージェントを使うようになる」と回答し、用途として商品比較、ポイントやロイヤルティの管理、返品対応を挙げています。
この調査は PYMNTS Intelligence と Visa Acceptance Solutions の共同で、2026年3月に米国・ブラジル・アラブ首長国連邦の消費者5,841人と事業者1,185社を対象に実施されたものです。日本は調査対象国に含まれていない点は、読むときに割り引く必要があります。ただし、ChatGPTの商品リサーチ利用や、Googleが進める Universal Commerce Protocol のようなエージェント経由の購買基盤は、日本市場にも同じ順番で降りてきています。
日本のEC事業者にとっての論点:AIは「購入直前」ではなく「比較の場」を奪う
日本の店舗運営に引き寄せると、効いてくるのは購入ボタンの手前です。調査では、消費者はAIに商品比較や定型作業を任せることには抵抗が薄い一方で、支払い権限をAIに渡す段階になると信頼が下がると報告されています。つまり当面のあいだ、AIが握るのは決済ではなく比較と絞り込みのフェーズです。
ここが楽天市場やAmazonの店舗にとっての勝負どころになります。楽天RMSの商品名フィールドは半角255文字、Amazonのバレットポイントは5項目でそれぞれ200〜500バイト前後という制約のなかに、これまでは人間が読んで惹かれる訴求語を詰めてきました。生成AIが比較役として入ってくると、読み手は「素材」「容量」「対応機種」「保証年数」といった構造化された属性を先に抜き出します。装飾語ばかりで属性が薄い商品ページは、AIの比較テーブルにそもそも載らないという現象が起きます。直近の支援案件で観測したのは、同じ価格帯の競合と比べて仕様の記載粒度が粗い商品が、生成AI経由の流入だけ極端に落ちるケースでした。
支払い手段の話も日本向けに読み替えられます。今回の調査では、消費者の3分の2が「自分の希望する支払い方法が使えるかどうかが、どの店で買うかに影響する」と答えています。日本ではPayPay、楽天ペイ、コンビニ後払い、NP後払いあたりがこれに当たります。自社ECを回している事業者は、決済手段の追加を「手数料コスト」としてだけ見るのではなく、比較段階での離脱要因として見直す価値があります。
売り手側の投資が鈍っているというギャップ
レポートで指摘されているもう1つの論点は、消費者の期待が上がっているタイミングで、事業者側がデジタル機能への投資を減速させているというズレです。消費者が求めている機能として挙がったのは、価格マッチング、店内での商品位置検索、デジタルクーポン、希望の決済手段といった、どれも派手さのない実務機能でした。特にミレニアル世代、子育て世帯、高所得層でこのギャップが大きいと報告されています。
日本の中小EC事業者が明日から動かせる順番としては、まず商品ページの属性記載を洗い直すこと。素材、容量、サイズ、対応機種、保証年数、原産地といった項目を、本文の飾り文の中ではなく独立した行として書き切ります。次に、レビューとQ&Aに出てくる質問語をそのまま商品説明に取り込むこと。生成AIは実際の購入者が使う言葉で照合しにくいと、比較候補から外します。3つ目が決済手段の棚卸しで、月次で決済別のCVRを見ている事業者は、日本ではまだ少数派です。最後に、自社サイトを持っている場合はGoogle Merchant Centerのフィードの鮮度確認です。在庫と価格の不一致は、エージェント経由の購買では致命傷になります。
まとめ
買い手はすでにAIを比較役として使い始めており、月55日という買い物接触日数と、ChatGPTリサーチ利用2%から30%への伸びがそれを裏づけています。日本のEC事業者がまず投資すべきなのは、新しいAIツールの導入ではなく、商品ページの属性記載と決済手段という地味な土台です。AIに読ませる前提で情報を整えた店舗から、比較の土俵に残ります。
参考文献
- PYMNTS|Study Finds AI Reshaping Commerce Faster Than Retailers Can Adapt
- PYMNTS Intelligence|Global Digital Shopping Index: The AI-Powered Shopper Has Arrived
- Google Developers Blog|Under the Hood: Universal Commerce Protocol (UCP)
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引用元: PYMNTS
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。