なぜ今、越境ECが注目されているのか
2025年現在、日本企業にとって越境EC(クロスボーダーEC)は、もはや無視できない巨大なビジネスチャンスとなっています。国内市場の成熟化が進む中、海外市場への展開は企業成長の重要な鍵を握っています。
特に注目すべきは、日本から中国・アメリカへの越境EC輸出額が合計で約3.9兆円に達しているという事実です。この数字は、日本の越境ECがいかに大きなポテンシャルを秘めているかを如実に物語っています。
本記事では、経済産業省の最新データとStripeの分析レポートを基に、日本の越境EC市場の現状と将来性について詳しく解説します。これから越境ECに参入を検討している企業や、すでに展開している企業の戦略見直しにお役立てください。
世界のEC市場における各国のシェア(2023年データ)
グローバルEC市場の勢力図
2024年に経済産業省が発表したレポートによると、2023年の世界EC市場シェアは以下のような構成になっています:
順位 | 国名 | 市場シェア | 特徴 |
---|---|---|---|
1位 | 中国 | 51.3% | 世界の半分以上を占める圧倒的な規模 |
2位 | アメリカ | 19.5% | 世界第2位の巨大市場 |
3位 | イギリス | 3.6% | ヨーロッパ最大のEC市場 |
4位 | 日本 | 3.4% | アジア第2位の先進的EC市場 |
5位 | 韓国 | 2.1% | K-POP・K-Beautyで急成長 |
6位 | インド | 1.7% | 人口増加による成長ポテンシャル大 |
7位 | ドイツ | 1.6% | ヨーロッパ第2位の市場 |
8位 | カナダ・フランス | 各1.4% | 北米・欧州の主要市場 |
10位 | ロシア | 1.3% | 東欧最大の市場 |
中国・アメリカの圧倒的な存在感
驚くべきことに、中国とアメリカの2カ国だけで世界のEC市場の70%以上を占めています。特に中国は単独で世界の半分以上のシェアを持ち、その市場規模は他国を圧倒しています。
日本企業が越境ECを検討する際、この2大市場の理解は不可欠です。なぜなら、これらの市場への参入成功が、越境ECビジネスの成否を大きく左右するからです。
日本・中国・アメリカの越境EC市場規模
驚きの市場規模データ
日本、中国、アメリカの3カ国間の越境EC取引額を見ると、非常に興味深い事実が浮かび上がります:
日本の越境EC輸出入額
【輸出(日本→海外)】
- 日本→中国:約2.4兆円
- 日本→アメリカ:約1.5兆円
- 輸出合計:約3.9兆円
【輸入(海外→日本)】
- 中国→日本:約440億円
- アメリカ→日本:約3,768億円
- 輸入合計:約4,208億円
日本の越境ECの特徴的な構造
これらのデータから、日本の越境ECには以下のような顕著な特徴があることがわかります:
- 輸出超過の構造
- 輸出額(3.9兆円)が輸入額(4,208億円)の約9倍
- 日本は「売る側」として圧倒的に強い立場
- 中国市場の重要性
- 中国向け輸出だけで2.4兆円(全輸出の約62%)
- 中国は日本の越境ECにとって最重要市場
- 輸入の少なさ
- 日本の消費者は海外ECサイトをあまり利用していない
- 国内ECサービスの充実が背景に
日本人が越境ECを利用しない理由
日本の消費者が海外のECサイトをあまり利用しない主な理由として、以下が挙げられます:
- 言語の壁:英語や中国語でのサイト利用に抵抗感
- セキュリティへの不安:海外サイトでのカード決済への懸念
- 国内ECの充実:Amazon.co.jp、楽天市場など国内サービスで十分満足
- 配送の不安:到着までの時間、関税、返品対応への心配
- カスタマーサポート:日本語でのサポートが受けられない不安
越境EC市場が急成長している理由
1. SNSとインターネットによる情報拡散
近年の通信技術の進歩とデバイスの普及により、世界中の人々がインターネットにアクセスできるようになりました。特にスマートフォンの普及は画期的で、以下のような変化をもたらしています:
- SNSマーケティングの効果
- Instagram、TikTok、YouTubeで商品情報が瞬時に拡散
- インフルエンサーによる商品紹介が購買行動に直結
- 口コミやレビューが国境を越えて共有される
- オンライン広告の進化
- ターゲティング広告により海外顧客にピンポイントでリーチ
- リターゲティングで購買意欲の高い層を逃さない
- 多言語対応の広告配信が容易に
2. コロナ禍による行動変容
COVID-19パンデミックは、世界中の消費者行動を大きく変えました:
- 巣ごもり需要の拡大
- 外出制限により自宅でのショッピングが急増
- 今までオンラインショッピングをしなかった層も参入
- 海外商品への興味・関心が高まる
- 健康意識の高まり
- アメリカ製サプリメントへの需要増加
- 日本より安価で高品質な健康食品を求める動き
- 免疫力向上への関心から越境ECでの購入が活発化
3. 海外展開コストの大幅削減
従来の海外進出と比較して、越境ECは圧倒的にコストパフォーマンスが優れています:
【従来の海外進出】
- 現地法人の設立費用
- 実店舗の賃料
- 現地スタッフの雇用
- 在庫管理コスト
【越境EC】
- オンラインのみで完結
- 初期投資を最小限に抑制
- 日本からの直接発送も可能
- リスクを抑えた市場テストが可能
越境EC市場の将来予測
2030年には約900兆円市場へ
Facts & Factorsの市場調査によると、世界の越境EC市場は今後も急成長を続ける見込みです:
- 2021年:約8,850億ドル(約88.5兆円)
- 2030年予測:約7兆9,380億ドル(約900兆円)
- 年平均成長率(CAGR):約26.2%
この予測は、わずか9年で市場規模が10倍に拡大することを示しています。この驚異的な成長率は、以下の要因によって支えられると考えられています:
- 技術革新の加速
- AI翻訳による言語障壁の解消
- VR/ARによる商品体験の向上
- ブロックチェーンによる取引の透明化
- 物流インフラの発展
- 国際配送の高速化・低コスト化
- ラストワンマイル配送の効率化
- 関税手続きの簡素化
- 決済システムの進化
- 多様な決済手段の普及
- 為替リスクの軽減
- セキュリティの向上
日本企業にとっての越境ECの可能性
日本製品の世界的な人気
近年、日本の様々な製品が世界中で注目を集めています:
【人気カテゴリー】
- 化粧品・美容製品
- 高品質で肌に優しい処方
- 繊細な日本人の肌向けに開発された技術
- パッケージデザインの美しさ
- 食品・菓子
- 独特の味わいと食感
- 健康志向の高まりによる和食ブーム
- 抹茶、和菓子などの伝統的な味
- アニメ・ゲーム関連商品
- 世界的なアニメ人気
- 限定グッズへの高い需要
- コレクター市場の拡大
- 伝統工芸品
- 職人技への評価
- 唯一無二の価値
- ストーリー性のある商品
円安による追い風
2024-2025年の円安傾向は、日本の越境ECにとって大きなチャンスとなっています:
- 価格競争力の向上:海外から見て日本製品が割安に
- 利益率の改善:外貨建て売上の円換算額が増加
- 観光客のリピート購入:訪日時に気に入った商品の継続購入
成功のための重要ポイント
日本企業が越境ECで成功するためには、以下の要素が不可欠です:
- 徹底した市場調査
- ターゲット国の消費者ニーズ把握
- 競合商品の分析
- 価格感度の理解
- ローカライゼーション
- 現地語での商品説明
- 文化的な配慮
- 現地の商習慣への対応
- 信頼性の確保
- セキュアな決済システム
- 明確な返品・交換ポリシー
- 迅速なカスタマーサポート
- 物流の最適化
- 配送時間の短縮
- 追跡可能な配送方法
- 関税・税金の透明化
決済システムの重要性
Stripeを活用した越境EC支援
越境ECの成功において、決済システムは極めて重要な要素です。Stripeは以下のような機能で越境ECをサポートしています:
【Stripe Checkoutの特徴】
- 30以上の言語に対応:顧客の母国語で決済可能
- 135以上の通貨に対応:現地通貨での表示・決済
- 最適化された決済画面:コンバージョン率の向上
- セキュアな取引:最新のセキュリティ基準に準拠
これらの機能により、海外顧客にストレスのない購買体験を提供し、カート放棄率の削減と売上向上を実現できます。
まとめ:今こそ越境ECに挑戦すべき理由
日本の越境EC市場は、以下の理由から今後も大きな成長が期待されます:
- 巨大な市場規模:中国・アメリカ向けだけで3.9兆円の実績
- 急成長する市場:2030年には世界市場が900兆円規模へ
- 日本製品への高い需要:品質・デザイン・文化的価値が評価
- 参入障壁の低下:技術進歩により中小企業でも参入可能
- 円安による追い風:価格競争力と収益性の向上
越境ECは、日本企業にとって国内市場の限界を突破し、新たな成長機会を掴むための重要な戦略です。適切な準備と戦略により、世界市場での成功は十分に可能です。今こそ、越境ECへの第一歩を踏み出す絶好のタイミングといえるでしょう。
参考資料:経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査」、Stripe「日本の越境EC市場規模レポート」