投稿者 TAKEHIRO SAITO投稿日: カテゴリー EC×AI活用
インドで起きた衝撃的な逆転劇が、日本のEC業界に新たな戦略の道筋を示しています。2025年7月18日、AI検索エンジン「Perplexity」が、わずか1日でChatGPTを抜いてApple App Storeのダウンロード数1位に躍り出ました。その秘密は、通信大手Bharti Airtelとの戦略的提携により、3億6000万人の顧客に年額17,000ルピー（約3万円）相当のPerplexity Proを無料提供したことにあります。この事例は、EC事業者がAIツールを活用する際の新たなビジネスモデルと顧客獲得戦略を示唆しています。
通信キャリアとAI企業の提携が生む革新的なビジネスモデル
Perplexityの成功は、単なるアプリのダウンロード数増加にとどまりません。Sensor Towerのデータによると、2025年第2四半期のインドでのPerplexityのダウンロード数は前年比600％増の280万件に達し、月間アクティブユーザー数も640％増の370万人を記録しました。この急成長の背景には、通信キャリアを通じた大規模な顧客基盤へのアクセスという新しいビジネスモデルがあります。
日本のEC事業者にとって、この事例は重要な示唆を含んでいます。例えば、大手ECプラットフォームが通信キャリアやインターネットプロバイダーと提携し、AIツールをバンドル提供することで、顧客獲得コストを大幅に削減できる可能性があります。現在、多くのEC事業者が有料のAIツールの導入に二の足を踏んでいますが、通信費や他のサービスとバンドルされることで、実質的な負担感を軽減できるのです。
Perplexity Proの特徴は、GPT-4.1、Claude、Grok 4などの最先端AIモデルへのアクセス、画像生成機能、ファイル分析機能、そして新しいCometブラウザへの早期アクセスなど、EC事業者が必要とする機能を網羅している点です。これらの機能は、商品説明の自動生成、在庫データの分析、顧客問い合わせへの対応など、EC運営の様々な場面で活用できます。
リアルタイムAI検索がもたらすEC運営の効率化
従来のChatGPTやGeminiとは異なり、Perplexityは「リアルタイムAI検索エンジン」として位置づけられています。これは、EC事業者にとって特に重要な差別化要因です。例えば、競合他社の価格動向、最新の市場トレンド、季節商品の需要予測など、常に最新の情報を必要とする業務において、リアルタイムでウェブから情報を取得し、分析できる機能は極めて有用です。
実際の活用例を見てみましょう。あるインドのEC事業者は、Perplexity Proを使用して「現在のデリーでの電子機器の売れ筋商品と価格帯を分析し、在庫調整の提案をして」というプロンプトを入力することで、リアルタイムの市場データに基づいた在庫戦略を立案できるようになりました。これにより、従来は市場調査会社に月額数十万円を支払っていたコストを削減し、より迅速な意思決定が可能になったと報告されています。
日本のEC市場においても、このようなリアルタイムAI検索の活用は大きな可能性を秘めています。特に、越境ECを展開する事業者にとって、各国の市場動向や規制の変更、為替レートの変動などをリアルタイムで把握し、価格設定や在庫配分を最適化することは競争力の源泉となります。
日本のEC事業者が学ぶべき3つの戦略的教訓
第一に、AIツールの導入障壁を下げる創造的なパートナーシップの重要性です。Airtelの事例は、通信キャリアだけでなく、決済サービス、物流企業、さらには金融機関など、EC事業者が日常的に利用するサービスプロバイダーとの提携により、AIツールを手軽に導入できる可能性を示しています。例えば、ECプラットフォームの月額利用料にAIツールを含めることで、追加コストの心理的障壁を取り除くことができます。
第二に、競争環境の急速な変化への対応です。わずか1日でアプリストアのランキングが逆転したこの事例は、AI市場の競争がいかに激しく、変化が速いかを物語っています。EC事業者は、特定のAIツールに依存するのではなく、複数のツールを使い分け、常に最新のテクノロジーを評価し続ける必要があります。
第三に、顧客価値の明確な提示です。Airtelは単に「AIツールを無料で提供する」のではなく、「17,000ルピー相当の価値を無料で提供する」という具体的な価値提案を行いました。日本のEC事業者も、AIツールの導入により「商品登録時間を80％削減」「顧客対応の精度を95％に向上」など、具体的な価値を数値化して提示することが重要です。
興味深いことに、この成功にもかかわらず、PerplexityはまだGoogle Play Storeには登場していません。これは、市場セグメントごとに異なるアプローチが必要であることを示唆しています。日本のEC事業者も、PCユーザーとモバイルユーザー、若年層と高齢層など、セグメントごとに最適なAIツールと導入方法を検討する必要があるでしょう。
この事例から明らかなのは、AI技術の進化だけでなく、その普及方法と価値提案の工夫が、EC業界における競争優位性を左右するということです。日本のEC事業者は、技術の導入だけでなく、顧客にとっての価値を最大化する創造的なビジネスモデルの構築に注力すべき時期に来ています。
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