【2025年5月 海外編】EC業界のAI活用ニュース10選

投稿日: カテゴリー AI, AIツール活用, AI導入事例, ネットショップ, ネットショップ, 一覧

2025年5月現在、海外のEC(電子商取引)業界ではAI(人工知能)の活用がかつてないほど加速しています。
特にGenerative AI(生成AI)やエージェントAIといった先進技術が、ECプラットフォームや小売企業各社のサービス強化に続々と導入されています。
世界の大手企業はAIで顧客体験の向上や業務効率化を図っており、その潮流は日本のEC事業者にも大きな示唆を与えるでしょう。

本記事では、海外EC業界メディアの最新動向から日本にも影響を与えそうな重要ニュースを10件厳選し、「2025年 AI EC 海外 ニュース」といったキーワードにも着目しつつ解説調で紹介します。
それぞれ何が発表されたのか/どの企業がどういう取り組みをしているのか/どのような技術を活用しているのか/それがEC運営にどんなインパクトをもたらすのかを中心にまとめています。

1.Shopify、キーワード入力だけでストア構築するAI機能を導入

Shopify(ショッピファイ)は2025年5月、生成AIを活用してオンラインストアを自動構築できる新機能「AI Store Builder」を発表しました 。
これは出店希望の事業者がキーワードを入力するだけで、AIが最適と思われるオンラインショップのレイアウト・画像・商品説明文を3パターン自動生成してくれるというものです。

これまでShopifyは商品説明文の自動生成や在庫管理支援など様々なAIツールを提供してきましたが、キーワードからのサイト丸ごと自動構築は初の試みとなります。
同社は半年ごとの大型アップデート「Shopify Editions」でこの機能を含むAI関連の拡張を発表し、テーマ構築基盤「Horizon」へのAI組み込みや、店舗運営アシスタント「Sidekick」の音声チャット対応なども併せて公開しました 。

この取り組みにより、ECサイト開設の手間とコストが大幅に削減されることが期待されます。
Shopify幹部は「これまではデザインや設定に多大な労力を要しましたが、AI活用でそうしたコストの壁を取り払い、誰もが簡単にストア運営を始められるようにすることが狙いです」と述べています。

実務的には、デザイン知識の乏しい小規模事業者でも短時間で品質の高いネットショップを構築できるため、新規参入のハードルが下がるでしょう。
また、ストア構築後も各所にAIを浸透させる方針が示されており、コンテンツ作成から顧客対応まで一貫してAIが支援することで、運営効率と売上向上の両立を目指す動きです。

2Googleショッピング、生成AIで検索から試着・決済まで強化

検索大手のGoogleもEC分野でAI機能を強化しています。2025年5月の開発者会議「Google I/O」にて、ショッピング検索における3つの新AIツールが発表されました 。

1つ目は対話型の検索支援機能「AI Mode」で、ユーザーが商品検索時にAIと会話しながらニーズに合う商品を絞り込めるものです。
例えば「リビング用のラグが欲しい」と検索後に「子供が4人いる」と付け加えると、AIが耐久性や汚れに強い素材の商品に絞り込むなど、文脈を理解した高度な提案が可能になります。

2つ目はバーチャル試着機能「Try it on」の強化で、ユーザー自身の写真1枚をアップロードすると、その場で服を着たイメージをAI生成して表示してくれるものです。
ドレスやパンツなど主要な衣料品カテゴリで利用でき、オンライン上でも試着感覚で商品のサイズ感や雰囲気を確かめることができます。

3つ目はエージェントAIを活用した「Agentic Checkout」という新しい購入機能です。これは、あらかじめ希望価格やカラー・サイズ、決済情報を登録しておくと、対象商品の価格が下がったタイミングでAIが自動的に代理購入してくれるサービスで、商品リスト上の「価格追跡」ボタンから設定できます。

こうしたGoogleの新機能により、消費者の購買体験が検索から購入完了まで滑らかに統合される効果が見込まれます。
会話型AIによる検索最適化でユーザーは求める商品に素早く辿り着け、バーチャル試着により返品リスクの低減や購買意欲の向上が期待できます。
またAgentic Checkoutはユーザーが常にサイトをチェックしなくても、お得なタイミングを逃さず購入できる利便性を提供します。
EC事業者にとっては、Google経由の集客や販売がより高度化するため、自社商品情報(画像や属性)の充実や価格戦略のタイミング調整など、AI時代の新たな消費行動に対応したマーケティングが求められるでしょう。

3.Amazon、商品ページにAI要約の音声ガイド機能をテスト

EC最大手のAmazonもプラットフォームへのAI導入を加速させています。
2025年5月、Amazonは商品詳細ページにおいてAIによる音声の商品要約機能を試験導入していると明らかにしました 。
これはAIが商品説明やカスタマーレビューなどを分析し、要点を短い音声クリップにまとめて再生してくれる機能です。
現在はアメリカの一部ユーザー向けに提供されており、Amazonショッピングアプリで商品ページ内の「ハイライトを聞く(Hear the highlights)」ボタンを押すとAI生成の音声ガイドが流れる仕組みになっています。
ユーザーは画面を見なくても商品の特徴や評価傾向を把握できるため、“ながら聞き”で商品リサーチが可能になります。

Amazonは近年AI統合に注力しており、本機能もその一環と位置付けられています。
例えば同社は音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」を生成AIで強化して会話能力を向上させたり、ショッピングQ&Aに答える生成AIボット「Rufus」を導入するなど、購買体験のアップデートを進めています。
今回の音声要約もその延長線上にあり、ユーザー体験の向上と差別化が狙いです。

EC運営の視点では、情報過多な商品ページから重要ポイントだけを抽出・提供することで顧客の意思決定を支援し、コンバージョン向上につなげる効果が期待できます。
また視覚障がい者を含む幅広い層へのアクセシビリティ改善にも寄与するでしょう。
日本のEC事業者にとっても、音声ガイドや要約AIの活用は今後検討すべきトピックになりそうです。

4.Amazon、他社サイトの商品も代理購入するエージェントAIを試験運用

Amazonは自社で扱っていない他社ブランドの商品でも、Amazonアプリ上で購入手続きまで完結できる画期的な新機能「Buy for Me」のパイロットテストを開始しました 。
2025年4月に発表されたこの機能では、Amazonショッピングアプリの検索結果に提携先の外部ブランド商品が表示され、ユーザーがその商品を選ぶとAmazonのAIエージェントが代行して相手先サイトでの購入手続きを行います。
通常であればAmazonに無い商品は外部サイトへ遷移しますが、「Buy for Me」では顧客がアプリから離れることなく、事前に登録した住所・支払い情報を用いてAIが代理購入を完了させます。
まさにエージェント型AI(ユーザーの最小限の指示で目標達成まで動くAI)の活用であり、Amazonはこの体験を現在一部ユーザーに限定してテストしている段階です。
なお現時点の試験では、Amazonはこの代理購入による手数料は徴収しておらず、配送・返品・カスタマーサービスは購入先のブランド側が担うとのことです。

「Buy for Me」の登場は、消費者が一つのプラットフォーム上で他社ECの商品もまとめて購入できる時代の到来を予感させます。
ユーザーにとってはサイト間の移動や個別会員登録の手間が省け利便性が向上する一方、Amazonにとっては自社で扱わない商品分野でもユーザーを引き留めエコシステム内で購買完結させる狙いがあります。
EC事業者側から見ると、自社サイトの商品が巨大プラットフォーム経由で売買される機会が増える可能性を示唆しており、新たなチャネル戦略として注目すべきでしょう。
将来的にAmazonがこの仕組みで手数料を徴収したりデータを活用するようになれば、小売業界の競争環境にも影響を及ぼす可能性があります。
日本でも類似のサービス展開や提携が進めば、ユーザーの購買導線が大きく変わることになるため、業界として動向を注視する必要がありそうです。

5.Walmart、生成AIを社内全領域に浸透 – 独自プラットフォームで安全活用

米小売大手ウォルマート(Walmart)は社内業務への生成AI導入を全面的に推進しています。
2025年4月、同社幹部は「Walmartは社内のあらゆる業務においてAI活用の扉を大きく開いており、従業員が毎日AIを使うことを奨励している」と述べ、日常業務にAIが組み込まれた姿を強調しました 。
実際、過去2年間で同社は社内ワークフローの至る所に生成AIを組み込み、従業員や開発者向けのツールキットを拡充してきました 。
例えばAIを活用したコーディング支援ツールを北米やインドの開発チームに提供し、プログラミングの自動補完やバグ検出を日常化しています。
さらに「Element」と呼ばれる独自の機械学習プラットフォームを構築し、コストやガバナンス、責任あるAI利用の管理を一元化するとともに、社内で利用できるAIモデルをガイドライン適合済みのものに限定する運用を行っています。
このプラットフォーム上で、コードの精度検証やセキュリティチェック、自動コメント付与などもAIが実施し、本番環境にリリースされる前に多段階の検証がなされる仕組みです。

ウォルマートの徹底したAI内部活用は、EC基盤の強靭化とイノベーションの加速につながっています。
AIがプログラミングからテスト、デプロイまで開発プロセスを支援することで、サービス開発のスピード向上と品質担保が両立し、新機能の市場投入サイクル短縮が期待できます。
また、生成AIエージェントに日常業務(例えば在庫分析やレポート作成)を任せることで、従業員はより付加価値の高い業務に注力できるようになります。
もっとも、同社は同時にデータプライバシーやセキュリティへの配慮も強調しており 、「革新」と「リスク管理」のバランスを重視した導入姿勢です。
日本企業にとっても、社内開発・業務効率化へのAI統合は競争力強化の鍵となり得ますが、ウォルマートの例は統制と教育を伴う包括戦略の重要性を示唆しています。

6.Target、SNSトレンド察知に生成AIを活用し商品提案を迅速化

米大手小売チェーンのTarget(ターゲット)は、ソーシャルメディア上の流行をAIで捉え商品提案に反映する取り組みを進めています。
2025年3月の決算説明会で経営陣は、ターゲットがデジタル上での発見を強化すべくSNSトレンドと生成AIを活用して商品ラインナップをキュレーションしていることを明かしました 。
具体的には、TikTokやInstagramといったプラットフォームで急浮上するファッション・ライフスタイルのトレンドをAIがリアルタイム解析し、関連する商品カテゴリーやアイテムを特定します。
例えば、米国で『ザ・ソプラノズ』放映25周年に絡んだ「マフィア妻風のレオパード柄」ブームがTikTokで盛り上がった際、ターゲットのAIツールがこの兆候を捉えました。
同社は即座に仕入れ先ベンダーと協議し、数日以内にレオパード柄の商品特集ページをオンライン公開、数週間以内に実店舗にも関連商品を追加展開したといいます。
従来は流行を捉えてから商品展開まで7か月程度を要していたのが、わずか8週間程度に短縮されたとも報告されました 。

このようにTargetは店舗とデジタルの垣根を越えた商品発見体験の融合を図っています。
実店舗で買い物中に同社アプリを併用する顧客も全体の3分の1を超えており 、店内購買とオンライン情報がシームレスにつながることで、顧客への的確な提案機会が増えているとのことです。
生成AIによるトレンド分析でヒット商品の先取りと迅速な品揃え最適化が可能になれば、売り逃しを防ぎつつ顧客満足度も高められます。
日本のEC事業者にとっても、SNS発の消費ニーズを機敏に捉え商品企画や在庫投入に活かすことは大きな課題であり、Targetの事例はAI×トレンドマーケティングの成功例として参考になるでしょう。

7.eBay、写真とタイトルだけで出品可能なAI出品支援ツールを提供

オンラインマーケットプレイス大手のeBay(イーベイ)は、出品作業の簡略化を目的にAI活用を進めています。
2025年4月、eBayはモバイルアプリ向けに新たな出品支援機能を公開しました 。
ユーザーが商品写真とタイトルを入力するだけで、AIが自動的に商品の詳細情報やカテゴリを推奨してくれる仕組みで、まるで「魔法の出品ツール(Magical Listing Tool)」のようだと評されています。
従来、出品者は商品説明やスペック入力、カテゴリ選択など多くの手順を踏む必要がありましたが、このAIツールにより入力項目が半分以下に削減され、出品に要する時間も大幅短縮されたことが英国での試験導入で確認されています。
現在この機能はアメリカ、イギリス、ドイツのeBay個人出品者向けに提供されており、将来的にはビジネス出品者にも拡大予定です。

eBayは以前から画像背景の自動削除や複数商品の一括AI出品ドラフト作成など、出品支援AIを強化してきました 。
今回の新機能はその集大成とも言えるもので、特にリユース品やハンドメイド品を扱う個人売り手にとってハードルを下げる効果が大きいです。
「使わないものを捨てるより簡単に売れる世界」を目指すeBayにとって、AIは中古品流通の活性化と在庫拡大の鍵となっています。
実際、同社によれば直近1年間で1,000万人以上の出品者がAI機能を活用し、1億件以上の出品に利用されたとの報告もあります。
これはAIによる効率化が多くのユーザーに受け入れられている証拠であり、結果として商品の選択肢増加やプラットフォーム全体の活性化につながっています。
日本でもフリマアプリやマーケットプレイス運営企業は、同様のAI活用によるユーザー体験向上を検討する余地があるでしょう。

8.eBay、独自の大規模言語モデルを開発しAIエージェントと連携

上記の出品支援にとどまらず、eBayはプラットフォーム全体でAI技術の内製・導入を進めていることを2025年初頭に明らかにしました。
2024年は同社にとって「AI活用が飛躍した変革の年」だったとされ、数十年に及ぶECデータを活かして独自の大規模言語モデル(LLM)を一から構築し、社内外の様々なユースケースに特化させたといいます。
その結果、2024年末までに検索、商品リスティング生成、画像強調表示、マーケティング、決済など買い手・売り手向けのあらゆるエクスペリエンスにまたがって数十種類のAI機能を公開するに至りました 。
これらのAIツールは、エンジニアの生産性向上やカスタマーサービス効率化、検索精度の改善に寄与し、また売り手には商品説明文の自動生成や画像加工、ソーシャルメディア投稿の自動化といった支援を提供しています。

さらに注目すべきは、2025年1月にOpenAI社の「Operator」と呼ばれるAIエージェントとの連携を開始したことです。
「Operator」はウェブ上でユーザーのためにタスクを遂行できるブラウジングAIであり、eBayはこのエージェントに自社の商品リスティングを探索・案内させる実験的コラボレーションを行っています。
eBayのJamie Iannone CEOは「このエージェント型AIによるコマース手法は、オンラインショッピングの全く新しい経路を生み出し得る」と述べ、将来的にAIエージェント経由でeBayのユニークな商品在庫がより多くの買い手に届く可能性に言及しました 。
言い換えれば、チャットボットやAIアシスタントがユーザーに代わって買い物をする時代において、eBayは自社の商品情報をそうしたAIに積極的に提供し、新たな集客チャネルとして育てようとしているのです。

eBayの戦略は、プラットフォーム内の検索・利便性向上と、プラットフォーム外の新規経路開拓という二方向からAIで競争力を高める施策といえます。
独自LLMで差別化された体験を提供しつつ、汎用AIエージェントとも協調することで、急速に変化するEC環境で存在感を維持・拡大しようとしています。
日本企業にとっても、自社データを活用したAIモデル構築や、外部AIエージェントとの連携による新規顧客層開拓は、今後検討すべき重要テーマになるでしょう。

9.Adobe調査:生成AIがECサイト流入を急増させ新たな購買アシスタントに

米Adobe社が2025年3月に公開したレポートによれば、生成AIを活用したチャットボットやアシスタント経由で小売サイトを訪れる消費者が急増していることがデータで示されました。
Adobe Analyticsは米国小売サイトの実購買データ(1兆回以上の訪問分析)から、2024年11月~12月の年末商戦期に生成AI由来のサイト訪問が前年同期比で1300%増加したと報告しています。
特にサイバーマンデー(感謝祭翌週の月曜)では+1950%という突出した伸びを記録しました。
その後もトレンドは継続し、2025年2月時点でも2024年7月比で約12倍(+1200%)の水準に達しており、生成AI経由のトラフィックは約2か月ごとに倍増する勢いだといいます。
もっとも現時点では検索エンジンやメールといった従来チャネルに比べれば流入全体に占める割合はまだ小さいものの、この成長率は無視できません。

またAdobeが5,000人超の米国消費者を対象に行ったアンケートでは、39%が既にオンラインショッピングに生成AIを利用したことがあり、今年中に利用したいと答えた人は53%にのぼったとされています。
活用用途として多いのは「商品の調査」(55%)、「レコメンデーション取得」(47%)、「割引情報の検索」(43%)、「プレゼントのアイデア探し」(35%)などで、ショッピングリスト作成やニッチ商品の発掘に使う人もいました 。
さらに興味深いのは、生成AI経由で小売サイトに訪れたユーザーは、従来チャネルから来たユーザーに比べサイト滞在時間が8%長く、閲覧ページ数が12%多く、直帰率が23%低いというデータです。
これは対話型インターフェースによって事前に情報収集や絞り込みが行われているため、サイト上でより深く商品を見たり購入に繋がりやすい可能性を示唆しています。
実際、AI経由で買い物した人の92%が「AIのおかげでより良い体験ができた」と回答し、87%が「高額または複雑な買い物ほどAIを使いたい」と答えているとのことです。

このレポートは、生成AIが「新しいショッピングアシスタント」として台頭しつつある現状を裏付けています。
ChatGPTやBing Chatのような対話AIが商品提案や比較検討を手伝い、そのまま購入リンクを提示するといった流れが一般化すれば、EC事業者側も従来とは異なる施策が必要になるでしょう。
例えば、AIに正確かつ魅力的に商品情報を読み取ってもらうための商品データ整備や、AIプラットフォーム向けの最適化(いわば「AI向けSEO」)などが考えられます。
日本のEC市場でも、消費者が商品選択にAIを介在させるケースは今後増える可能性が高く、マーケティングや顧客接点の再設計が求められるかもしれません。

10.Etsy、人の目利き×AIで膨大な手工芸アイテムをパーソナライズ提案

ハンドメイド作品やヴィンテージ品のマーケットプレイスとして知られるEtsy(エッツィ)は、独自性の高い商品群にAIを活用してパーソナライズを図る取り組みを強化しています。
EtsyではプロのMD(マーチャンダイザー)によるトレンドセレクションと、AIの推薦アルゴリズムを組み合わせた「Algotorial Curation(アルゴテリアル・キュレーション)」という手法を用いており、人間の審美眼と機械学習のスケーラビリティを両立させています。
まずEtsyの商品担当チームが流行や季節に合ったアイテム約50点のコレクションを人力でキュレーションし、その後AIが類似する商品を約1000点まで自動拡張して一覧を充実させます。
さらに大規模言語モデル(LLM)を使って、選定された商品群に統一感や多様性が保たれているかチェックし、品質基準を満たすよう調整するといいます。
このプロセスにはGoogleの最新マルチモーダルモデル「Gemini」も活用されており、テキストと画像双方の分析によってコレクション強化が行われています。

またEtsyは、膨大な一点物商品の集合体という独特の在庫構成をAIで補完する取り組みも進めています。
各商品が個別の出品者によって自由に登録されるため、サイズ・色などの情報形式が統一されていない点が従来課題でしたが、LLMを用いて商品説明から重要な属性(サイズ・素材・カラー等)を抽出し、検索マッチング精度を高める試みを行っています。
さらに商品画像に自動でAltテキスト(代替テキスト)を生成・付与することでSEOを強化し、実際にAltテキストを追加した商品のオーガニック検索経由アクセスが約5%増加、販売転換率も約3%向上するといった成果が現れています。
これはAIが検索エンジン向けにも有用なメタデータを大量生産できる利点を示す好例です。
Etsyは「AIによって人間の専門知識を増幅させるのであり、人の温かみを排除するものではない」と強調しており 、あくまで人間中心のEC体験をスケールさせるツールとしてAIを位置付けています。

Etsyの事例は、商品点数が多く内容も多種多様なECにおいて、人的キュレーションとAI自動化を組み合わせることで個々の嗜好に合った商品提案が可能になることを示唆しています。
日本のECでも、専門バイヤーのセンスとAIのデータ処理力を融合させることで、ユーザー一人ひとりに最適化された商品リコメンデーションやコンテンツ提供が実現できるかもしれません。
また、AIによる商品データ補完は、自社内のデータ整備コストを下げつつ集客力を高める効果が期待できるため、中小のオンラインショップでも応用が利くでしょう。

おわりに:AIが拓くECの未来と日本への示唆

以上、2025年5月時点の海外EC業界におけるAI活用の最新ニュースを10件紹介しました。

ShopifyやAmazon、Googleといったプラットフォーム企業から、小売チェーンのWalmartやTarget、そしてマーケットプレイスのeBayやEtsyに至るまで、各社が創意工夫を凝らしてAI技術をサービスや業務に取り入れていることが分かります。
その背景には、生成AIやエージェントAIの進化が顧客体験の飛躍的向上やオペレーション効率化をもたらすという確信があります。
実際、パーソナライズされた検索・推薦、バーチャル試着、音声要約、自動代理購入、トレンド検知と迅速な商品化、出品プロセス簡略化、社内開発力強化など、幅広い領域でAIが力を発揮しつつあります。

日本のEC事業者にとって、これら海外動向は実務に活かせる多くの示唆を提供してくれます。
例えば、コンテンツ制作やショップ構築へのAI活用は人手不足の解消や出店支援につながるでしょう。
顧客対応AIや音声UIは新たなユーザー層の獲得や満足度向上をもたらすかもしれません。
さらに、生成AIによるデータ分析で市場ニーズを素早く捉え商品展開に反映したり、AIエージェント経由の販路開拓に備えて商品データを整備するなど、競争力強化に直結する応用も考えられます。
重要なのは、AIを部分的な効率化ツールに留めず、自社のビジネスモデルや顧客体験を再定義する戦略的な視点で取り入れることです。

2025年は「AIとECが本格的に融合し始めた年」として振り返られるかもしれません。
海外の最新事例を教訓に、日本発のECビジネスにおいてもAIを上手に活用し、より豊かな購買体験と持続的な成長を実現していきたいところです。

本記事では海外メディア記事や公式発表を参照し、EC業界におけるAI活用の最新トレンドを解説しました。
ぜひ2025年以降のECとAIの動向を掴むヒントにしてください。


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