「部分的にAIを使う」から「業務を丸ごとAIに任せる」へ。2026年2月5日にAnthropicがリリースしたClaude Opus 4.6は、その転換点を明確に示すモデルです。
EC事業者にとってこのモデルが重要な理由は、単にAIが賢くなったということではありません。コーディング、財務分析、リサーチ、ドキュメント作成、Excel・PowerPointとの連携など、EC運営に不可欠な「知的業務全般」をAIが自律的にこなせるレベルに到達したという点にあります。しかも、API料金は前モデルから据え置きの入力5ドル・出力25ドル(100万トークンあたり)。性能が上がってもコストは変わらないという、EC事業者にとって理想的なアップデートです。
楽天が実証した「AIが組織を動かす」衝撃の事例
今回の発表で最も注目すべきは、楽天AI部門ゼネラルマネージャー・梶裕介氏のコメントです。Opus 4.6は1日のうちに、約50人規模の組織で6つのリポジトリにまたがる13件のイシューを自律的にクローズし、12件を適切なチームメンバーにアサインしたと報告されています。プロダクトに関する判断だけでなく組織的な意思決定も行い、複数ドメインのコンテキストを統合しながら、人間にエスカレーションすべきタイミングも適切に判断したというのです。
これは「AIがコードを書く」レベルの話ではありません。AIがプロジェクトマネジメントに近い役割を担い始めているということです。楽天はすでにClaude Codeの導入により新機能リリースの平均期間を24営業日から5営業日へと79%短縮していますが、Opus 4.6はさらにその先、AIによる業務の自律運営を示唆するモデルとなっています。
日本のEC事業者にとって、これが意味するのは何でしょうか。楽天市場、Amazon Japan、Yahoo!ショッピングなど複数モールを運営する事業者は、商品登録、在庫管理、価格調整、広告運用、カスタマー対応と、日々膨大な管理業務を抱えています。Opus 4.6クラスのAIが「どのタスクを誰に振るべきか」まで判断できるようになったということは、EC運営そのものの仕組みが根本から変わりうることを意味します。
100万トークン×エージェントチーム──EC業務を変える2つの新機能
Opus 4.6には、EC事業者にとって特に重要な2つの新機能が搭載されています。
まず、Opusクラスとして初めて実現した100万トークンのコンテキストウィンドウ(ベータ版)です。日本語に換算すると約50〜75万文字、ビジネス書5〜7冊分に相当します。EC実務で考えれば、全商品データベース、過去1年分の売上レポート、競合の公開資料、社内マニュアルをまとめてAIに読み込ませ、横断的に分析させることが可能になります。
さらに注目すべきは、長文コンテキストからの情報検索精度が76%に達している点です。従来のモデルでは、大量のデータを読み込ませても「コンテキスト腐敗」と呼ばれる現象で精度が急落する課題がありました。Opus 4.6はこの問題を大幅に改善しており、たとえばSonnet 4.5が同種のテストで18.5%だったスコアに対し、76%という実用的なレベルに引き上げています。
もうひとつの新機能が「Agent Teams(エージェントチーム)」です。これはClaude Code環境で複数のAIエージェントをチームとして並列稼働させる仕組みで、リーダー役のAIがタスクを分割し、メンバー役のAIがそれぞれ独立して作業を進めます。たとえば、あるエージェントが市場リサーチを行い、別のエージェントが商品説明文を作成し、さらに別のエージェントがSEOチェックを行うといった並行作業が現実のものになりつつあります。
ベンチマークが証明する「実務で使えるAI」の到達点
Opus 4.6の性能は、複数のベンチマークで業界トップクラスの結果を示しています。ビジネス実務に直結する評価指標「GDPval-AA」では、金融・法務・リサーチなどの知的業務においてOpenAIのGPT-5.2を約144 Eloポイント上回り、前モデルのOpus 4.5からも190ポイント向上しました。これは対戦型の評価において約70%の確率でGPT-5.2を上回る成績に相当します。
EC事業者にとって実感しやすい指標としては、エージェント型コーディング評価「Terminal-Bench 2.0」でトップスコアの65.4%を記録している点があります。自律的にコードを書き、デバッグし、テストまで行う能力が業界最高水準にあるということは、自社ECサイトのカスタマイズや機能追加を、外注に頼らず社内で迅速に進められる可能性が広がっていることを意味します。
また、Excel・PowerPointとの統合も大きな進化です。Claude in Excelでは非構造化データの読み込みと構造推定が向上し、複数ステップの変更を一度に処理できるようになりました。Claude in PowerPointではスライドのレイアウトやフォント、ブランドガイドラインを読み取った上でプレゼンテーションを生成できます。売上データをExcelで分析し、そのままPowerPointで報告資料を作成するという一連の流れをAIに任せられる環境が整いつつあります。
今後の展望──EC×AIの実装フェーズへ
Opus 4.6の登場は、AIの活用が「実験段階」から「実装段階」へ移行したことを示しています。
EC事業者が今後注目すべき方向性は3つあります。第一に、AIエージェントによるマルチモール運営の効率化です。Agent Teams機能が正式公開されれば、楽天・Amazon・Yahoo!ショッピングそれぞれの管理業務を担当するAIエージェントが並行して稼働するワークフローが構築できるようになります。
第二に、越境ECにおける活用です。100万トークンのコンテキストウィンドウと高精度な長文理解を組み合わせれば、Shopeeなど東南アジア向けプラットフォームでの商品展開や市場分析を、言語の壁を越えて一括処理できます。
第三に、経営判断の高度化です。GDPval-AAでの圧倒的なスコアが示すように、Opus 4.6は財務分析や市場調査といった経営レベルの知的業務でも高い精度を発揮します。中小EC事業者が、大企業のアナリストチームに相当する分析能力をAIで補完できる時代が始まっています。
まとめ──まずは長めの資料を1つ読み込ませてみよう
Claude Opus 4.6は、claude.aiのProプラン(月額20ドル)から利用可能です。性能の違いを最も実感しやすいのは、短い質問を繰り返すことではなく、長文処理を前提としたタスクです。
まずは自社の事業計画書や売上レポート、競合の公開資料などをまとめてアップロードし、「この資料群から読み取れる課題を3つ挙げて」と指示してみてください。前モデルとの分析精度の違いを体感できるはずです。
「AIが賢くなった」で終わらせるのではなく、自社のEC業務のどこが変わるのかを具体的に考え始めること。Opus 4.6は、その思考を始めるのに十分な実力を備えています。
引用:https://www.anthropic.com/news/claude-opus-4-6
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。 https://uruchikara.jp/contact/

齋藤 竹紘(さいとう・たけひろ)
株式会社オルセル 代表取締役 / 「うるチカラ」編集長
Experience|実務経験
2007年の株式会社オルセル創業から 17 年間で、EC・Web 領域の課題解決を
4,500 社以上 に提供。立ち上げから日本トップクラスのEC事業の売上向上に携わり、
“売る力” を磨いてきた現場型コンサルタント。
Expertise|専門性
技術評論社刊『今すぐ使えるかんたん Shopify ネットショップ作成入門』(共著、2022 年)ほか、
AI × EC の実践知を解説する書籍・講演多数。gihyo.jp
Authoritativeness|権威性
自社運営メディア
「うるチカラ」で AI 活用や EC 成長戦略を発信し、業界の最前線をリード。
運営会社は EC 総合ソリューション企業株式会社オルセル。
Trustworthiness|信頼性
東京都千代田区飯田橋本社。公式サイト alsel.co.jp および uruchikara.jp にて
実績・事例を公開。お問い合わせは
info@alsel.co.jp まで。