Anthropicが100万行のコード移行をAIで行う公式手順を公開しました。
Anthropicは2026年7月16日、公式ブログで「How Anthropic runs large-scale code migrations with Claude Code」と題した大規模コード移行の公式ガイドを公開しました。JavaScriptランタイム「Bun」の100万行規模のZigからRustへの移植を2週間未満で完了した実例を含め、6ステップの手順とプロンプト一式が無償で公開されています。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

何が起きたか|100万行を2週間・10パッケージを1か月で移植
結論から言うと、これまで数年がかりだった「プログラミング言語の載せ替え」が、AIエージェントの並列運用によって数週間単位の作業に変わったという実測報告です。Anthropicの発表によると、直近1か月で同社の開発者たちはClaude Fable 5とClaude Opus 4.8を使い、数万〜数十万行規模のコードパッケージ10件を移行したとしています。
象徴的な事例が2つ紹介されています。1つ目はBunの共同創業者でAnthropic技術スタッフのJarred Sumnerによる移植です。Bunの100万行のコードをZigからRustへ2週間未満で移植し、マージ前に既存テストスイート全件をCIで通過させました。マージ後に19件のリグレッションが発生しましたが、すべて修正済みで、Rust版は6月からClaude Code内で本番稼働しています。移植後のコードは計測可能な改善を示しており、2,000回の繰り返しビルドでのメモリ使用量は6,745MBから609MBへ激減、バイナリサイズはLinuxとWindowsで19パーセント縮小、実ワークロードで2〜5パーセント高速化したとされています。
2つ目はAnthropic Labs共同リードのMike Kriegerによる移植で、Pythonのコードベースを週末の間に16万5,000行のTypeScriptへ書き換えました。数百のエージェント、8つのフェーズゲート、3巡の敵対的レビュー、全コマンドの出力をPython原本と突き合わせるパリティチェックまで含んだ構成です。移植前は1リリースあたり合計30分かかっていたビルドが約2秒になり、バイナリの起動は6倍速くなったとしています。
費用も具体的に開示されました。ガイドによると、100万行規模の移行はかつてエンジニアリングリソースで300万〜400万ドル・4年がかりの案件でしたが、Bunの移植で消費したのは非キャッシュ入力トークン59億・出力トークン6.9億で、API料金換算で約16万5,000ドルでした。桁が2つ変わった計算です。
なぜ重要か|「コードではなくプロセスを直す」6ステップの中身
このガイドの核心は、「コードを直すのではなく、コードを生み出すプロセス(ループ)を直す」という設計思想にあります。手順は6ステップで、前提として新旧両方のコードを同じ基準で判定できる「審判」(テストハーネス)を先に用意します。ステップ1で翻訳ルールブック・依存関係マップ・ギャップ一覧を作成し、ステップ2で数ファイルだけのミニ移行でルールをストレステストします。Jarredはこの段階で、1,448ファイルへ展開する前に2件の重大な問題を検出したとしています。ステップ3で全ファイルを並列翻訳し、ステップ4〜6でコンパイル・実行・挙動一致の確認をループで回します。
運用面で参考になるのは、モデルの使い分けです。実装のような大量処理は小さめのモデルに任せ、レビューやルール策定にだけ最上位モデルを使う構成が推奨されており、Mikeは主要な移行で12のサブエージェントにClaude Sonnetを使ったとしています。また、レビューは敵対的に、検証は機械的に行うのが原則で、レビュアー2体の判断が割れたら第3のエージェントが裁定します。同じ指摘が繰り返されたらファイルを個別修正するのではなくルールブックに1文追加して該当バッチを再生成する、という運用も徹底されています。
テストスイートがない場合の解決策も示されました。Mikeは7つの実利用シナリオを新旧両方に流して差分を取るハーネスをClaudeに作らせ、さらにClaude自身がエンドツーエンドのテストスイートを設計して4晩連続で自律実行し、想定外の不具合まで検出したとしています。
今後の動き|スターターキット公開と「塩漬け案件」の再計算
Anthropicは今回の手順を一般化した移行スターターキットをGitHubで公開しており、ルールブックのテンプレートや各ステップのプロンプトをそのまま利用できます。ガイド自身が「このガイドを盲信せず、自分の移行計画をClaudeと立ててから着手すべき」と釘を刺している点も重要で、移行案件ごとに条件が異なることを前提とした位置づけです。詳細な一次情報としては、Jarred本人による技術ブログとClaude Codeのドキュメントも公開されています。
日本のEC事業者にとっても、これは他人事ではありません。古いPHPで動き続ける自社ECの受注管理、担当者が退職して触れなくなった在庫連携バッチ、リプレイス見積もりが数千万円で塩漬けになった基幹システムなど、「移行したいが割に合わない」案件の損益分岐点が動いた可能性があります。まずは既存システムの挙動を検証できるテスト(審判)を用意できるかを確認し、小さなバッチ処理1本からAI移行を試算してみる価値はあります。
まとめ
Anthropicが公開した公式ガイドは、100万行の移植を2週間・約16.5万ドルで完了した実測値と、再現可能な6ステップの手順を伴う点で説得力があります。レガシーシステムを抱える企業は、「移行は数年がかり」という前提を一度捨てて、コストを再計算するタイミングです。関連情報はClaude Fable 5のCowork公式ガイド、Claude Codeの内蔵ブラウザ機能、Opus 4.8とSonnet 5の使い分けの各記事もあわせてご覧ください。
参考文献
- Anthropic・How Anthropic runs large-scale code migrations with Claude Code
- Bun・Bun is rewritten in Rust(Jarred Sumnerによる技術解説)
- GitHub・code-migration-kit-with-claude-code(移行スターターキット)
- Claude Code・公式ドキュメント
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引用元: Anthropic
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。