米Kroger・DoorDashらがAI買い物支援の設計方針を語りました。
米国の食品小売大手Kroger、地域スーパーのGiant Eagle、宅配プラットフォームのDoorDashが、2026年9月に開かれた小売カンファレンス「Groceryshop」で、AI買い物アシスタントの作り方について語りました。Modern Retailの報道によると、3社に共通していたのは「高機能なチャットより、買い物の手間を1つずつ消す実用機能を優先する」という考え方です。AI買い物アシスタントとは、利用者の目的や条件を聞き取り、商品選びやカート作成を代行するAI機能のことです。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者の視点で解説します。

Groceryshopで3社が語ったAI買い物アシスタントの現在地
結論から言うと、3社はAI買い物アシスタントを「チャットの箱」ではなく「店とネットの隙間を埋める道具」と位置づけています。背景にあるのは、店舗とネットの両方で買う客ほど価値が高いという数字です。
Giant Eagleでデジタル・EC・データ分析などを統括するShweta Prabhuは、店舗とネットの両方で買う客の顧客生涯価値(LTV)が、どちらか一方だけで買う客より30%高いと説明しました。LTVとは、1人の顧客が取引期間全体でもたらす売上や利益のことです。同社はアプリにAIのレシピ生成機能を載せ、献立のアイデアから材料をそのままカートに入れられるようにしています。さらに2025年には、EC運営チームをマーケティング・マーチャンダイジング(品ぞろえ計画)のチームと統合しました。デジタル・EC・顧客分析担当のHeather Featherは、どの店舗よりもウェブサイトとアプリのほうが週あたりの来訪が多いと話しています。
Krogerの最高デジタル責任者Yael Cossetは、料理を思いついた瞬間から注文までの摩擦を消すことが最大の焦点だと述べました。同社が最近投入したAIショッピングアシスタントは、手書きの買い物メモの写真や家族のレシピを読み込み、食事制限などの条件を満たすカートを一度に作ります。なお、KrogerはGiant Eagleの買収を発表しており、完了は2027年の見込みと報じられています。
もっとも示唆的だったのはDoorDash共同創業者Andy Fangの発言です。AIで注文と聞くとチャット窓を思い浮かべがちですが、実際には何を話しかければよいか分からず、利用者に無視されてしまうといいます。好まれたのは、閲覧中に「いつもの商品を再注文」と自動で提案する機能や、欠品時に似たSKU(在庫管理の最小単位)や代替品を探す機能のような、地味でも確実に手間が減る機能でした。同社は6月に会話型の「Ask DoorDash」も公開していますが、Grocery Diveによれば、その回答は加盟店の在庫データに依存する設計です。
日本のEC事業者にとっての論点:楽天のRakuten AI時代に何を整えるか
日本でも状況は同じ方向に動いています。楽天は2026年1月、楽天市場アプリにエージェント型AIツール「Rakuten AI」を搭載しました。予算や目的、利用シーンをテキスト・音声・画像で伝えると、約5億点の商品から候補を提案する仕組みです。

モールのAIの画面は出店者が作り込めません。一方で、AIが提案の根拠にする商品情報は出店者側で整えられます。米3社の話を日本の店舗運営に置き換えると、論点は3つです。
1つ目は、AIに読まれる商品情報の整備です。DoorDashが在庫データを重視しているように、AIは「誰の、どんな場面の、いくらまでの悩みを解決する商品か」が書かれていない商品を提案しにくくなります。楽天市場の商品名・商品説明文に、用途・利用シーン・サイズ・対象者を具体的に書くことが、そのままAI経由の露出対策になります。
2つ目は、再購入の手間を減らす導線です。「いつもの再注文」が好まれたという話は、消耗品や食品を扱う店舗ほど重要です。楽天市場なら定期購入や頒布会の設定、Shopifyなら複数商品を1回でカートに入れられるカートパーマリンクなど、既存の機能だけでも「いつもの」を短くする工夫は可能です。
3つ目は、組織の分断です。Giant EagleがEC運営と販促・品ぞろえのチームを統合したように、モール担当、自社EC担当、実店舗や卸の担当がそれぞれ別の数字を見ている状態では、併用客の価値は見えません。LTV30%差という数字は、中小規模の店舗でも同じ顧客をチャネル横断で数える価値があることを示しています。
今後の展望と初動アクション
AI買い物アシスタントは、今後「会話できるか」より「どれだけ正確に在庫と条件を満たすカートを作れるか」で比べられるようになると考えます。モールや検索サービス側のAIが入口になるほど、出店者の商品データの質が売上の差になりやすくなります。
初動としては、まず売上上位20商品の商品説明文を見直し、用途・シーン・対象者・容量の4点が文章で書かれているかを確認することをおすすめします。次に、リピート率が高い商品について、定期購入や再購入の導線が2クリック程度で済むかを点検します。最後に、欠品時の代替商品を事前に決めておき、商品ページや問い合わせ対応で案内できるようにしておくと、AI時代の取りこぼしを減らせます。
AIアシスタントの広告枠の動きはKrogerが公開初日から広告を載せた事例、会話型注文の先行事例はDoorDashのAIチャットボット注文の解説、小売向けAIアシスタントの外販はInstacartのカートアシスタントの記事もあわせてご覧ください。
まとめ
KrogerやDoorDashが示したのは、AI買い物アシスタントの価値は派手な会話ではなく、再注文や欠品代替のような小さな手間の解消にあるということです。日本では楽天市場のRakuten AIが入口になりつつあります。出店者が今できるのは、AIに正しく読まれる商品情報と、再購入しやすい導線を整えることです。Cossetが語ったように、速さだけでなく精度と方向性をともなった導入が求められます。
参考文献
- Modern Retail「How Kroger, Giant Eagle and DoorDash are building their agentic AI assistants」
- Grocery Dive「DoorDash launches conversational shopping assistant」
- DoorDash「Ask DoorDash」公式発表
- Kroger IR「AIショッピングアシスタントの提供を含む新学期シーズン向けニュースリリース」
- 楽天グループ「楽天、エージェント型AIツール『Rakuten AI』を『楽天市場』のスマートフォンアプリに搭載」
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。