AIショッピングエージェントとは、買い物の調査や購入を代行するAIのことです。
2025年10月、コンサルティング会社のKearneyは「消費者の10人に6人が、今後1年以内にAIエージェントを使うと見込んでいる」とするレポートを発表しました。それからちょうど1年が経った2026年11月、AIで商品を調べる人は3〜4割まで広がった一方、購入の完了までAIに任せた人は1割に届いていません。意向と実態のあいだには、はっきりした段差があります。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)の現場知見にもとづき、1年分の調査データからAIショッピングエージェントの現在地を読み解き、日本のEC事業者が今やるべき3つの準備と、すぐ使えるプロンプト3本を解説します。
「1年以内に6割」という予測は、どこまで当たったのか
結論として、AIは「調べる道具」としては予測どおり広がり、「買う代理人」としてはまだ入口に立ったところです。この違いを読み分けることが、投資の優先順位を決めるうえで最も大切です。
出発点となったKearneyのレポート「Agentic Commerce: From Brand Loyalty to Bot Logic」について、米業界誌の Mass Market Retailers は2025年10月10日、執筆者の発言として「10人に6人が今後1年以内にAIエージェントを使うと見込んでおり、その多くは仕事ではなく個人の用途だ」と伝えました。レポートは、小売企業に対して、自社のデータを「最安」「最速の配送」「限定商品」といった条件に反応するアルゴリズム向けに整えるよう提言しています。
1年後の数字を並べると、景色が見えてきます。MarTech が2026年7月28日にまとめた統計によると、L.E.K. Consultingの調査では米国消費者の30%が購入判断にAIを使っており、世代別ではZ世代40%、ミレニアル世代42%、X世代28%、ベビーブーマー世代13%でした。Product.aiの調査では、米国のオンライン購入者の43%が直近90日に商品調査でAIアシスタントを使っています。
一方、購入の代行はまだ少数派です。NielsenIQ の消費者調査では、AIで商品を調べる人が約34%、レビュー要約に使う人が約23%だったのに対し、AIに購入を完了させた人は約8%でした。MarTechのまとめでも、Gartnerの調査として、過半数がクーポンや割引を探すAIには前向きだが、取引の代行には消極的だと紹介されています。うるチカラでも AI購入8%の数字の読み方 や、UberでAIエージェント経由の注文が週4件にとどまった話 を取り上げてきました。
つまり「6割がAIエージェントを使う」という予測は、調査や比較の段階に限れば、若い世代を中心にほぼ現実になりつつあります。ただし、財布を預ける段階には届いていません。日本の店舗が今すぐ手を打つべきなのは、AIに「調べられる」段階への対応だということになります。
AIが調べる段階で、買い物の何が変わったのか
AIが商品調査の入口になったことで、顧客が店舗のページにたどり着く前に、候補がかなり絞り込まれるようになりました。L.E.K.の調査では、AI利用者のうち調査をAI単体のサービスから始める人は46%と、2024年の25%から大きく伸び、従来型の検索から始める人は43%から24%に下がったとされています。
候補の絞り込みが先に済む分、店舗に来たときの購入意欲は高くなっています。同じくL.E.K.によると、ブランドや小売のサイトに着く前に購入判断が固まっていたAI利用者は31%で、2年前の26%から増えました。2025年の小売サイトへのAI経由の訪問は月11億回を超え、前年比357%増とも報告されています。AI経由の訪問者のコンバージョン率については、MarTechはAdobeのデータとして既存の流入より31%高いと紹介する一方、NielsenIQはAdobeの別時期のデータから既存の流入より低いと伝えており、時期と定義で結果が分かれています。自店のデータで確かめる姿勢が欠かせません。
信頼の面では、慎重さがはっきり出ています。Product.aiの調査では、AIで商品を調べた米国の買い物客の86%が、購入前に別の情報源で推奨内容を確認していました。50ドル未満の買い物ならAIの推奨を確認なしで信じるという人が42%いる一方、500ドルを超えると5%まで下がります。信頼できる情報源としてのAIの順位は6位で、家族や友人、レビュー、専門家、ブランドのサイトなどより下でした。
ジャンルによる差も見逃せません。L.E.K.の調査では、AIを調査に使う割合は旅行で71%、家電で65%、金融商品で62%と高く、追跡したすべてのカテゴリで47%を下回らなかったとされています。Product.aiの調査では、AIで調べた後に購入した50ドル超の商品のうち、アパレルが30%と最も多く、電子機器が20%でした。比較の軸が多い商品、単価が高めで失敗したくない商品ほど、AIで下調べしてから買う動きが強いと読めます。
日本の売り場に置き換えると、ChatGPTやGeminiで「3,000円台のお歳暮でセンスがいいもの」と調べ、候補を3つに絞ってから楽天市場やAmazonで最終確認する、という動きが典型です。AIが商品を見つけても、最後に背中を押すのはレビューと店舗ページです。だからこそ、AIに拾われる情報と、店舗に来た人が確かめる情報の両方を整える必要があります。
日本のEC事業者が今やる3つの準備
今やるべき準備は、AIに調べられる情報の整備、低単価・リピート商品での代理購入への備え、AI経由の影響を測る仕組みづくりの3つです。どれも大規模なシステム投資は要らず、既存の商品データと運用の見直しで始められます。
準備1:AIに「調べられる」情報を整える
1つ目は、AIが商品を比較するときに必要な情報を、商品ページとデータの両方で明示することです。素材、サイズ、容量、対象年齢、使用シーン、配送日数、返品条件など、比較の軸になる情報が文章の中に埋もれていると、AIは他店の商品を選びます。Kearneyのレポートが挙げた「最安」「最速の配送」「限定商品」という3つの条件も、価格、配送日数、限定性を機械が読める形で持っているかどうかの問題です。楽天RMSの商品登録画面やAmazon Seller Centralの商品属性で、空欄になっている項目を埋めるところから始めます。
あわせて見直したいのが、レビューとよくある質問です。AIで調べた人の86%が別の情報源で確認していたように、最終判断の材料としてレビューの中身は重く見られています。ある食品ジャンルの中規模店舗の事例では、商品ページに「贈り物に向く人・向かない人」「賞味期限の目安」「のし対応の範囲」をQ&A形式で追記しただけで、問い合わせの件数が目に見えて減りました。人間の顧客にとって分かりやすい情報は、AIにとっても拾いやすい情報です。
準備2:低単価・リピート商品から代理購入に備える
2つ目は、AIが最初に代理購入を任される商品群を見極めることです。Product.aiの調査で、50ドル未満ならAIを確認なしで信じる人が42%いたことは示唆的です。洗剤やペットフード、コーヒー豆、サプリメントのような、単価が低く、銘柄を決めて繰り返し買う商品ほど、「切れたら同じものを買っておいて」という依頼でAIに任されやすいと見ています。Kearneyのレポートでも、洗剤の残量を検知して自動で再注文する例が挙げられていました。こうした商品を扱う店舗は、在庫の正確さ、定期購入の条件、配送日数の安定性を優先して整えます。
準備3:AI経由の影響を測る仕組みを作る
3つ目は、AIがどれだけ売上に関わっているかを測る仕組みです。AI経由の流入は、ChatGPTやPerplexityなどの参照元としてアクセス解析に現れるものもあれば、AIで調べた後に店名で検索し直して来る「指名検索」として現れるものもあります。参照元別の流入とコンバージョン率、指名検索数の推移、購入者アンケートでの「AIで調べた」の回答率の3つを月次で追うだけでも、自店にとっての重みが見えてきます。
自社ECであれば、Googleアナリティクス4の参照元レポートで、chatgpt.comやperplexity.aiなどからの流入を1つのグループにまとめておくと、毎月の推移を追いやすくなります。モールの店舗では参照元まで追えないことが多いため、購入後のサンクスメールに「この商品をどこで知りましたか」という1問だけのアンケートを添え、選択肢に「AIアシスタントで調べた」を入れておく方法が現実的です。回答率が低くても、3か月分たまれば傾向はつかめます。
3つの準備を進めるプロンプト3本
ここでは、ChatGPT・Claude・Geminiのどれでも使えるプロンプトを3本紹介します。2026年11月時点の各社の有料プラン(ChatGPT Plus、Claude Pro、Google AI Pro)の範囲で十分に回せる分量です。
プロンプト1は、準備1のための商品ページ診断です。AIが比較に使う情報が欠けていないかを洗い出します。
プロンプト1:AIに調べられる情報の診断
あなたはEC商品ページの改善に詳しいコンサルタントです。
以下の商品ページの内容を読み、AIショッピングアシスタントが他社商品と比較するときに必要な情報が揃っているかを診断してください。
診断する観点:
1. 価格と送料(送料無料の条件を含む)
2. 配送日数と出荷の締め時間
3. 素材・サイズ・容量・対象など比較の軸になる仕様
4. 使用シーン・おすすめの人・向かない人
5. 返品・交換の条件
6. 限定性(数量限定、店舗限定など)の有無と根拠
出力形式:
- 観点ごとに「記載あり/不足/記載なし」と判定
- 不足・記載なしの項目は、追記すべき文例を1〜2文で提案
- 誇大表現や根拠のない最上級表現が含まれていれば指摘
商品ページの内容:
{商品名・商品説明・仕様・配送情報をそのまま貼り付け}
プロンプト2は、準備2のための商品群の仕分けです。どの商品がAIの代理購入に向いているかを、販売データから見立てます。
プロンプト2:代理購入に向く商品の仕分け
あなたはEC事業者の商品戦略を支援するアナリストです。
以下の商品一覧から、AIエージェントによる代理購入(「切れたら同じものを買っておいて」型の依頼)に向く商品を仕分けしてください。
判断基準:
1. 販売単価(目安として5,000円未満を優先)
2. リピート購入率
3. 銘柄の固定されやすさ(同じ商品を繰り返し買う傾向)
4. 在庫切れの頻度
5. 配送日数の安定性
出力:
- 「優先して整える商品」「様子を見る商品」「対象外の商品」の3区分
- 優先して整える商品ごとに、在庫・定期購入・配送の観点で整えるべき点を1行ずつ
商品一覧:
{商品名、単価、直近90日の販売数、リピート率、在庫切れ回数}
プロンプト3は、準備3のための計測設計です。手元の分析ツールで追える指標に落とし込みます。
プロンプト3:AI経由の影響を測る月次レポートの設計
あなたはECのデータ分析担当者です。
AIアシスタント経由の集客と購買への影響を、月1回の社内レポートで追えるように設計してください。
前提:
- 利用している分析ツール:{例 Googleアナリティクス4、楽天RMSのアクセス分析}
- 販売チャネル:{例 自社EC、楽天市場、Amazon}
- 購入後アンケートの有無:{有/無}
出力してほしいこと:
1. 追うべき指標を5つ以内で、定義と取得場所をセットで
2. AI経由と判別しにくい流入(指名検索など)の扱い方
3. レポートの構成案(1ページに収まる形)
4. 3か月分たまったときに見るべき変化のポイント
3本とも、{ } の部分を自店の情報に置き換えて使います。プロンプト1は商品数が多い店舗なら、売上上位20商品から順に回すと効率的です。出力された文例はそのまま貼らず、事実と合っているか、自店の言葉づかいに合うかを担当者が確認してから反映してください。
失敗例と回避策
1つ目の失敗は、「6割が使う」という数字を「6割が買う」と読み替えて、代理購入向けの大がかりな仕組みづくりに先に投資してしまうことです。この1年の数字を見る限り、AIはまず調べる道具として使われています。回避策は、準備1の情報整備を先に終わらせ、代理購入への対応は低単価・リピート商品に絞って段階的に進めることです。
2つ目は、AI向けの情報整備を「AIに好かれる文章」づくりと勘違いすることです。現場で繰り返し見るのは、キーワードを詰め込んだ説明文や、根拠のない「人気No.1」のような表現を増やしてしまうケースです。AIは比較のために事実を拾うため、仕様や条件が正確に書かれているかのほうが効きます。楽天市場の出店規約や景品表示法に触れる最上級表現は、AI対策の名目でも使ってはいけません。
3つ目は、効果を測らずに施策を続けることです。直近の支援案件で観測したのは、AI経由の流入が月に数十件しかないのに、毎週の会議でAI対策に多くの時間を使っていた店舗でした。準備3の計測を先に用意し、自店にとってAI経由がどの程度の重みなのかを把握してから、配分を決めるのが合理的です。
KPI設計と費用・工数目安
KPIは、AI経由の流入数とコンバージョン率、指名検索数、購入者アンケートの「AIで調べた」回答率、商品データの属性充足率の4つを中心にします。属性充足率とは、商品登録画面で入力できる属性のうち、実際に埋まっている項目の割合のことです。まずは売上上位の商品で90%以上を目指すのが目安です。
工数の目安は、プロンプト1による商品ページ診断が1商品あたり10〜15分、上位20商品で半日程度です。プロンプト2の商品仕分けは、販売データの書き出しを含めて2〜3時間、プロンプト3の計測設計は初回に半日、以後の月次レポート作成は1時間前後を見込みます。5,000社支援の中で何度も再現したパターンとして、属性の入力漏れは商品数が多い店舗ほど多く、修正作業そのものより、どの項目が空いているかを洗い出す作業に時間がかかります。
費用は、ChatGPT Plusが月20ドル、Claude Proが月20ドル、Google AI Proが月2,900円で、いずれか1つで3本のプロンプトは十分に回せます(2026年11月時点の公開価格の目安、要確認)。分析ツールは既存のGoogleアナリティクス4やモールのアクセス分析で足り、追加の費用はかからないケースがほとんどです。
今後の展望と独自考察
この1年のデータから見えるのは、AIの普及が「調べる」「比べる」「買う」の順に段階を踏んで進んでいるということです。NielsenIQの資料が紹介するMorgan Stanleyの予測では、2030年に米国EC売上の約10〜20%がエージェント経由になる可能性があるとされます。調べる段階での普及率が3〜4割に達した今、次の数年で「買う」段階の比率が段階的に上がっていくと見るのが自然です。
日本では、楽天グループがRakuten AIを各サービスに広げるなど、モールの側でもAIアシスタントの組み込みが進んでいます。外部のAIとモール内のAIの両方から調べられる時代には、商品データの正確さが、どの入口から来た顧客にも効く共通の土台になります。代理購入が広がった後の配送や受注処理の備えは、AIエージェント経由の注文で崩れる配送体制の記事 にまとめました。
意向調査の数字は、それだけでは判断材料になりません。1年前の「6割」が何を指していたのかを実態と照らし合わせたように、新しい調査が出るたびに「調べる」「買う」のどの段階の話なのかを確認する習慣を持つと、過大な投資も出遅れも避けられます。あわせて、調査の対象国、対象者の年齢層、調査時期の3点も確認しておくと、自店の顧客像との距離を見誤りません。米国の若年層中心の数字を、そのまま日本の40〜60代が中心の店舗に当てはめるのは危険です。消費者の信頼をどう得るかについては、AI購入代行と消費者の信頼の記事 も参考にしてください。
よくある質問
AIショッピングエージェントとは何ですか?
AIショッピングエージェントとは、消費者の代わりに商品を探し、比較し、場合によっては購入まで行うAIのことです。ChatGPTやGemini、Perplexityなどの対話型AIや、モール内のAIアシスタントがこの役割を担いつつあります。現時点では、購入の代行より、調査や比較での利用が中心です。
「6割が1年以内に使う」という予測は当たりましたか?
調べる用途に限れば、おおむね当たりつつあります。米国ではAIで商品を調べる人が3〜4割、若い世代では4割を超えています。ただし、購入の完了までAIに任せた人は約8%にとどまっており、代理購入の段階には届いていません。
日本でも同じような動きは起きていますか?
はい、ChatGPTやGeminiで商品を調べてからモールで買うという動きは日本でも広がっています。ただし、本記事で紹介した数字の多くは米国中心の調査で、日本の利用率をそのまま示すものではありません。自店のアクセス解析や購入者アンケートで確かめることをおすすめします。
代理購入に備えて今すぐシステム投資をすべきですか?
いいえ、まずは商品データの整備と計測を優先すべきです。代理購入の比率はまだ1割未満で、どの方式が主流になるかも流動的です。低単価・リピート商品を扱う店舗は、在庫の正確さと定期購入の条件を整えておくと、将来の変化に対応しやすくなります。
AIに選ばれるために商品説明文を書き換える必要がありますか?
はい、ただしキーワードを詰め込むのではなく、比較に必要な事実を明確に書く方向で見直します。価格、送料、配送日数、仕様、返品条件など、AIが比較の軸にする情報が文章に埋もれていないかを確認してください。誇大な表現はAI対策としても逆効果です。
どの商品からAI対策を始めるべきですか?
売上上位の商品と、低単価で繰り返し買われる商品から始めるのが効率的です。売上上位の商品は改善の効果が大きく、低単価・リピート商品はAIに代理購入を任されやすい商品群だからです。まずは上位20商品をプロンプト1で診断するところから始めてください。
参考文献
- Mass Market Retailers:Kearney: Agentic AI on the rise
- MarTech:AI shopping stats 2026: What you need to know
- NielsenIQ:120 million AI pay transactions in a single week
- L.E.K. Consulting:Thanks to AI, consumers are arriving at brand and retailer sites ready to buy
- Product.ai:Trust in AI Commerce Report
著者:齋藤竹紘(株式会社オルセル 編集長/5,000社以上のEC支援実績/書籍3冊)
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。