NielsenIQは、AIに購入まで任せる消費者は約8%と発表しました。
AIが商品を調べ、比べ、決済まで代行する。この「エージェント型コマース」は、地域によってはすでに現実として動いています。NielsenIQが2026年7月30日に公表したプレスリリースによると、Ant Groupの集計でAlipay AI Payは2026年2月5日から11日までの1週間に1億2,000万件を超える取引を処理しました。一方で同じ調査では、AIに購入まで任せた経験がある消費者は約8%にとどまります。すでに動いている数字と、まだ任されていない数字。この落差の読み方が、日本のEC事業者の打ち手を決めます。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

週1.2億件の決済と8%という壁|エージェント型コマースの現在地
エージェント型コマースとは、AIが買い物を代行する仕組みのことです。今回の発表で確定したのは、その仕組みが一部の市場ではすでに商用規模で回っている一方、購入の最終判断を委ねる消費者はまだ一握りだという事実です。
数字を並べます。Alipay AI Payの週1億2,000万件超という取引は、Ant Groupの集計をNielsenIQのレポート「The Commerce Revolution: Where East Meets West」が引用したものです。同レポートはAlibabaのAIアシスタントQwenが公開から2か月で月間アクティブユーザー1億人に達したことにも触れています。市場規模の見通しでは、McKinseyが2030年までに3兆から5兆ドル、Morgan Stanleyが2030年の米国EC全体の10%から20%にあたる1,900億から3,850億ドルをエージェント経由と見積もっています。
流入側の変化も明確です。Adobe Analyticsの計測では、生成AI経由で米国の小売サイトに流入したトラフィックが2024年7月から2025年2月にかけて1,200%増加しました。しかもその訪問者は1訪問あたりの閲覧ページ数が多く、直帰率も低い。ただし転換率は既存流入チャネルに届いていない、という但し書きが付きます。
そして最も重要な数字が、NielsenIQ自社の消費者データです。商品調査にAIを使う人は約34%、レビュー要約に使う人は約23%。ところが購入まで任せた人は約8%。同社のEmilie Darollesは「消費者はAIに調べさせ、勧めさせることには前向きだが、買わせることにはまだほとんど踏み込んでいない」という趣旨のコメントを残しています。影響力が自動化を大きく先行している、というのが今回の結論です。
日本でも「調べる35.1%」と「買わせる」は別の話です
日本の数字は、NielsenIQの世界水準とほぼ重なります。ZETAが2026年6月30日に公表した調査では、商品購入を検討する際にChatGPTやGeminiで情報収集することが「よくある」が9.7%、「たまにある」が25.4%で、合計35.1%でした。直近3か月にECサイトを利用した男女981名を対象に2026年4月16日から28日にかけて実施したインターネット調査です。NielsenIQの約34%とほぼ同じ水準で、日本の消費者もすでに購買検討の入口でAIに触れていることになります。
一方、同じ調査で情報収集手段としての「AIエージェント(ChatGPT・Geminiなど)」の利用は10.0%、「ECサイト内のチャットボット」は5.4%にとどまりました。最多は「ECサイト内検索」の63.8%、次いで検索エンジンの59.4%です。つまり日本のEC事業者にとって、当面の主戦場は依然として検索であり、その後の比較・整理の段階でAIが割り込んでくる、という構図です。ZETAの調査でも「比較が面倒」と感じている層の65.4%がAIを商品の比較検討に使っていました。

ここから導かれる日本のEC事業者向けの論点は3つです。第一に、いま投資すべきはAI決済への対応ではなく、AIに正しく読まれる商品情報の整備です。購入を任せる人が8%である以上、決済導線の作り込みより、比較段階で候補に残ることのほうが先に効きます。第二に、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングに出店している場合、商品情報の整備先はモール側のフォーマットです。自社サイトの構造化データを整えても、モールの商品ページの属性値やレビューが薄ければAIは比較しようがありません。第三に、Shopifyなど自社ECの場合はメタフィールドや商品説明の粒度が直接効きます。NielsenIQは、商品データが不完全あるいは機械に読めない状態のブランドは、何が買われるかを決めるシステムから見えなくなるリスクがあると指摘しています。
日本のEC事業者がいま打つべき3つの備え
最初にやるべきは、自社商品がAIにどう説明されるかの実測です。ChatGPTやGeminiに「(自社カテゴリ)でおすすめの商品を3つ」と尋ね、自社が出るか、出た場合に価格・サイズ・素材が正しく語られているかを確認します。ここで事実誤認が出るなら、商品ページの記述が曖昧だというシグナルです。判断の物差しについては、AIコマース対応度の診断にまとめた観点が使えます。
次に、比較に使われる属性を商品ページ側で明示します。サイズ、容量、素材、対応機種、保証期間、配送日数のように、比較の軸になる項目を本文の散文ではなく独立した項目として書き切ることが有効です。AIは画像の中の文字やバナーの装飾より、テキストで並んだ属性値を優先して読みます。レビューやQ&Aの中身も、AIが商品を理解する材料になります。
3つ目が計測です。AI経由の流入は既存の解析ツールでは検索やダイレクトに混ざりがちで、増えていることに気づけないまま終わります。参照元にAIサービスのドメインを含むセッションを分けて追う設計が要ります。この点はMerchant Centerでの計測やエージェント検索経由の流入指標の考え方が参考になります。なお決済プロトコルの標準化動向についてはUCPへの対応で整理していますが、日本国内で購入代行が一般化する時期は公開情報からは読めないため、要確認としておきます。
まとめ
エージェント型コマースは、決済の自動化としてはまだ8%の世界ですが、比較と推薦の領域ではすでに3人に1人が使う現実になりました。日本のEC事業者が急ぐべきなのは、AIに買わせる準備ではなく、AIに正しく読まれ、比較の候補に残る準備です。商品データの粒度を上げ、AI経由の流入を分けて計測する。この2つを今月中に着手できるかどうかが、次の数字を左右します。
参考文献
- NielsenIQ「120 Million AI Pay Transactions in a Single Week」(2026年7月30日)
- NielsenIQ「The Commerce Revolution: Where East Meets West」レポート紹介ページ
- ZETA「AI時代の購買体験最前線2026」プレスリリース(2026年6月30日)
- ZETA「購買行動におけるAI活用状況に関するアンケート調査」完全版レポート案内
- NielsenIQ オムニチャネル・EC関連インサイト一覧
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: NielsenIQ
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。