AI学習と著作権の現在地|EC事業者が商品画像・説明文で守る3論点

AI学習と著作権の司法判断は「学習は適法・海賊版からの入手は違法」に割れています。15億ドル和解と文化庁の著作権法30条の4を整理し、EC事業者が商品画像・説明文で今日から取れる3つの防衛策を解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

AI学習そのものは適法、海賊版からの入手は違法。これが米国の直近の司法判断です。

生成AIの学習データをめぐる裁判が米国で相次いでいますが、判断は「学習は許される」「入手経路は許されない」という形で割れ始めています。この線引きは、自社の商品画像や説明文をAIに学習されうる立場にあり、同時にAI生成物を商品ページで使う立場でもある日本のEC事業者に、そのまま跳ね返ってきます。本記事は、EC支援19年・5,000社超の支援実績を持ち、AI導入支援を2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、AI学習と著作権の現在地を整理して解説します。

15億ドルの和解が示した「学習」と「入手」の分離

米国の裁判所が示しつつある結論は、AI学習と著作権は別々に評価される、というものです。TechCrunchによると、ウィリアム・アルサップ判事は昨年、Anthropicに対し著作者らへの15億ドルの著作権和解を命じましたが、判事が違法としたのは学習行為そのものではなく、海賊版を扱う「シャドーライブラリ」から書籍を入手した点でした。学習については「読者が作家を志して作品を読むのと同じように、Anthropicの大規模言語モデルは、作品を再現したり置き換えたりするためではなく、別のものを生み出すために学んだ」と述べています。この和解の承認については、Anthropicの15億ドル著作権和解が承認された件でも取り上げました。

背景には、米国の著作権法が1976年以来ほとんど改正されていないという事情があります。知的財産に詳しい弁護士のCathy Gellisは、著作権法は「複製」を軸に組み立てられており、作品を読む・使う・体験するという行為そのものは軸になっていないとTechCrunchに語っています。

一方で、常に学習側が勝つわけではありません。Thomson ReutersがRoss Intelligenceを訴えた事件では、ステファノス・ビバス判事が「Rossの利用は、Thomson Reutersと異なる目的や性格を持たないため変容的ではない」と判断しました。IP・メディア分野の弁護士Jason Hendersonは、直接競合する目的で学習した場合は裁判所が否定的になり、競合しない場合は容認する傾向がある、と整理しています。さらにThaler v. Perlmutterでは、100パーセントAIが生成した作品には著作権が認められないと判断されました。なお、TechCrunchは2028年に年間約2,000億ドルの売上を見込む企業にとって15億ドルは軽いとも指摘していますが、この売上見通しの前提は報道により表現が異なるため要確認です。

日本のEC事業者にとって効いてくる論点

日本では、AI学習は著作権法第30条の4を軸に整理されています。文化庁は令和6年3月15日に文化審議会著作権分科会法制度小委員会のAIと著作権に関する考え方についてを取りまとめ、開発・学習段階は「享受を目的としない利用」に当たるかどうか、生成・利用段階は既存著作物との類似性と依拠性で判断する、という二段構えを示しました。素案に対しては約2万5,000件の意見が寄せられたとされ、社会的関心の高さがうかがえます。令和6年7月31日には、立場ごとの実務対応をまとめたチェックリストとガイダンスも公表されています。

文化庁 令和6年度著作権セミナー「AIと著作権II」の講義資料

EC事業者にとっての一つ目の論点は、自社の商品説明文・商品画像・レビューが学習対象になりうる、という点です。自社ECであればrobots.txtやクローラ単位の設定で方針を決められますが、楽天市場やAmazonのようなモール上の商品ページは、出店者側で個別にAIクローラを制御する手段が基本的に用意されていません(2026年8月時点、要確認)。二つ目は、AIが全面的に生成した商品画像やバナーは、日本でも「思想又は感情を創作的に表現したもの」に当たりにくく、権利主張の足場が弱くなりうる点です。競合に模倣されたときに止めにくくなります。海外でも判断は一様ではなく、ドイツの裁判所がAI音楽生成のSunoについてフェアユースの主張を退けた件のように、地域ごとに結論が分かれています。

今日から取れる3つの防衛策

まず取るべきは、素材の出所を台帳にすることです。アルサップ判事が罰したのは学習ではなく入手経路でした。同じ論理は、無断転載サイトから拾った画像を商品ページに使う行為にもそのまま当てはまります。仕入先・撮影日・利用許諾の3項目だけでも記録しておけば、指摘を受けたときの説明コストが大きく変わります。

次に、AI生成物への人の手入れを記録に残すことです。プロンプト、生成日時、そのあとに行った合成・レタッチ・文言修正の履歴を残しておけば、完全なAI生成ではないと説明できる材料になります。Geminiの可視透かし除去が可能になった件でも触れたとおり、生成物の来歴を自社側で管理しておく重要性は増しています。

三つ目は、主力商品の一枚目画像をAI生成だけで賄わないことです。権利面の足場が弱いという理由に加えて、実物と異なる表現は景品表示法上のリスクにもつながります。実写撮影を軸に置き、AIは背景差し替えや二枚目以降のイメージカット、説明文のたたき台といった補助に回すのが、当面もっとも損の少ない配分です。

まとめ

AI学習と著作権をめぐる判断は、学習の可否ではなく入手経路と競合関係で分かれつつあります。EC事業者が今できるのは、素材の出所を記録すること、AI生成物に人の手入れを加えて履歴を残すこと、主力商品の一枚目を実写で押さえることの3点です。法整備は追いついていませんが、この3つを回しておけば、どちらに転んでも大きく崩れません。

参考文献

※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/

引用元: TechCrunch


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

お問い合わせ