米寝具DTCのBoll & Branchが、AI生成広告を使う範囲と使わない範囲を分ける社内プレイブックを公開しました。
Modern Retailが2026年9月12日に配信したポッドキャスト回で、プレミアム寝具・バス用品のDTCブランドであるBoll & Branchが、AI生成広告のクリエイティブをどこまで使い、どこから使わないのかという判断基準を明かしました。同社の最高クリエイティブ責任者であるKristen Deycoが、キャンペーン画像とコピーに生成AIを組み込むためのプレイブックの柱を語っています。AI生成広告を「使うか使わないか」の二択で考えている日本のEC事業者にとって、線引きを言語化した事例は実務的な参考になります。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
AI生成広告の線引きは「シュールならOK、リアルすぎたらNG」
Boll & Branchの線引きは、意図的に非現実的でAIとわかる表現なら使い、現実と見紛う表現は使わない、という一点に集約されます。同ブランドの最高商務責任者であるKatia Unluは、Digiday Media主催のAIマーケティング関連イベントで、生成AIの使い方について「摩擦を取り除ける場所すべてで使うが、人間性を置き換えるためには使わない」と説明しています(Modern Retail、2026年2月)。
具体例がわかりやすいところです。同社が春に投入する「バターカップ」という黄色の展開では、巨大な花や特大のショッピングバッグといった、誰が見ても作り物とわかる画像を生成AIで作りました。一方で家族が登場するビジュアルには、自社で撮影したクリエイティブかインフルエンサーが制作したコンテンツを使っています。Unluは「AIで現実を偽ることはしません。リアルすぎるように見えるなら使いません」と述べています。
背景には、消費者からの「AIスロップ」批判があります。Modern Retailの記事は、反発を受けてもAI生成広告に賭けるCoca-Colaと、AI生成のFacebook広告を消費者の反発を受けて取り下げたREIを、対照的な事例として並べています。REIは、AIの使用が自社のサステナビリティの理念と合致しないという理由を挙げました。同じ生成AI活用でも、ブランドが背負う約束と噛み合わなければ資産が毀損するということです。
日本のEC事業者にとっての論点は景表法と媒体規約
日本のEC事業者がこの線引きを持ち込む場合、最初に効いてくるのは景品表示法です。生成AIで作った画像が実物の質感や色、サイズと乖離していれば、優良誤認表示に問われる可能性があります。寝具や食品のように「見た目が購入理由そのもの」になる商材では、AI生成のイメージカットを商品画像枠に置いた瞬間にリスクが立ち上がります。イメージ訴求のバナー広告と、商品ページの商品画像とでは、求められる正確性がまったく違うという整理が要ります。
モール側の規約も確認が必要です。楽天市場には商品画像登録ガイドライン、Amazonにはメイン画像に関する規定があり、いずれも「実際の商品を正確に表す」ことを求めています。ただし2026年9月時点で、生成AIで作った画像そのものを名指しで禁止する条項があるかどうかは各モールの最新規約で要確認です。安全側に倒すなら、商品そのものを写す画像は実写、世界観を伝えるサブ画像やSNS広告のクリエイティブは生成AI可、という二層の運用が現実的でしょう。うるチカラでも以前、AI生成のメニュー画像が消費者に拒否された事例を取り上げましたが、規約以前に顧客の目が厳しくなっている点は共通しています。
市場全体で見れば、AI活用そのものは止まりません。Modern Retailが2022年から毎年実施している調査では、AI技術に投資していると答えたブランドおよび代理店の担当者は2022年の44%から、2023年57%、2024年71%、2025年には86%まで上昇しました。使うか否かの議論はすでに終わっており、どこで線を引くかの議論に移っています。
明日から着手できる3つの初動
第一に、自社のAI生成クリエイティブ使用ルールを1枚にまとめることです。Boll & Branchの基準を借りるなら、判断軸は「顧客がAI生成だと一目で判別できるか」の1点です。商品そのものの写真は実写のみ、世界観カットとキャンペーンのビジュアル演出は生成AI可、人物の顔と生活シーンは実写またはインフルエンサー制作、といった粒度で決めておけば、制作現場で毎回迷わずに済みます。
第二に、コピーの領域を分けることです。Unluは「AIは効率化の一手であり、ブランドストーリーを書くためのものではない」と述べています。商品説明の下書きやFAQの整備は生成AIに任せ、ブランドの約束を語る文章は人が書く、という分担です。生成AIが吐き出しがちな空疎な語彙については、OpenAIが避けるべき9語を明示した件も参考になります。
第三に、AI検索の側から自社の言葉を見直すことです。Boll & Branchは、顧客がスレッドカウントやサテン地といった具体的な用語で探していることを社内のカスタマーサービスが把握し、それまであえて避けていたその用語をFAQや接客の文言に取り込みました。同社はChatGPTでメディアプランニングや類似インフルエンサーの洗い出しを行い、Gemini検索で広告出稿先のポッドキャストを探しているとも語っています。ただし最終的な選定と商談は人が行う前提です。この発想は、DTC各社のAI検索対策とも地続きです。
まとめ
AI生成広告の線引きは、コスト削減の話ではなくブランドの信頼を守る設計の話です。Boll & Branchの基準は「顧客が作り物だと分かる表現なら使い、現実と見紛う表現には使わない」という明快なものでした。日本のEC事業者は、景表法とモール規約を踏まえたうえで、商品画像と世界観カットを分け、ブランドの言葉だけは人が書く体制を先に決めておくのが安全です。
参考文献
- Modern Retail「Where Boll & Branch draws the line on AI-generated advertising」
- Modern Retail「How Boll & Branch leverages AI for operational and creative tasks」
- Modern Retail+ Research「Marketers’ AI use rises, but tech skills stall」
- Fast Company「REI faces backlash over AI-generated ad suspicions」
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。