Anthropicの和解金分配で、著者と出版社の取り分争いが起きています。
2026年9月、AI学習をめぐる15億ドルの集団訴訟和解で、支払い直前になって権利者どうしが衝突する事態が表面化しました。原因は法解釈ではなく、誰がその作品の権利を持っているかという記録の食い違いです。コンテンツを外注で作り続けるEC事業者にとって、これは他人事ではありません。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

15億ドル和解の分配通知で何が起きたか
結論から言えば、和解金の受取先を確定する通知が届いた途端、同じ作品に複数の当事者が名乗りを上げました。TechCrunchによると、和解管理者が今週送った通知には、自分の請求内容に加えて、同じ作品に誰が何パーセントを請求しているかが記載されていたといいます。
この訴訟はBartz v. Anthropicと呼ばれるもので、2025年6月にカリフォルニア州北部地区連邦地裁のWilliam Alsup判事が、適法に入手した書籍でのAI学習はフェアユースにあたるが、海賊版サイトからの複製はフェアユースにあたらないと判断しました。クラスとして認定されたのは海賊版の複製部分だけで、和解は15億ドル、対象はおよそ50万タイトル、1タイトルあたり最低3,000ドルが支払われます。Authors Guildの解説によれば、商業出版・大学出版の書籍は著者と出版社で50対50が既定の配分で、権利が著者に戻っている作品や自費出版の作品は著者が全額を受け取ります。
問題はここからです。作家支援ブログのWriter Bewareには、すでに権利が著者に戻っている作品を出版社が請求している例と、本来50パーセントしか権利がないのに100パーセントを請求している例の二種類の苦情が集まっているといいます。書き手のApril Henryは、17年以上前に権利が戻った作品を大手出版社に請求されたとSNSで訴えました。さらに、権利者ではないはずの著作権エージェントまで配分を請求している例も報告されています。運営元のVictoria Straussは、記録管理の不備で説明がつくものを悪意のせいにはしたくないと書いており、Authors GuildのMary Rasenbergerも出版社による意図的な横取りではないという見方を示しています。原因は悪意ではなく、台帳の不整合だという整理です。
日本のEC事業者に効いてくる3つの論点
この事件がEC事業者に効いてくるのは、権利の帰属を証明できるかどうかで金額が決まる、という一点においてです。EC事業者は商品写真、モデル撮影、商品説明文、レビュー動画、翻訳原稿を外注し続けており、10年分の素材が誰の権利で、どこまで使えるのかを即答できる店舗は多くありません。
第一に、権利の判定には基準日が使われます。今回の和解では2022年8月10日というダウンロード日が設定され、それ以前に権利が著者に戻っていなければ全額請求はできません。EC事業者の素材も同じで、撮影日ではなく契約上いつからいつまで使えるのかが争点になります。第二に、外注先が代理店や制作会社を挟んでいる場合、権利者は誰かが曖昧になります。今回エージェントが請求してしまったのと同じ構図です。第三に、AI学習や二次利用の可否です。この点はAmazonがゲーム配信サービスの投稿をデフォルトでAI学習に使う方針を出した件でも触れたとおり、既定値が「使う」側に倒れる流れが強まっています。
なお日本では、著作権法第30条の4により情報解析目的の利用が一定の範囲で認められており、米国のフェアユース判断がそのまま適用されるわけではありません。海賊版データの取得が別に問題視される点は共通しますが、日本法での具体的な線引きは事案ごとに異なるため要確認です。
今日から着手できる初動
まず、直近3年ぶんの外注コンテンツについて、発注書と納品物の対応表を作るところから始めてください。素材ファイル名、発注先、発注日、権利の帰属、利用範囲、期限の6項目で十分です。次に、権利が自社に完全移転しているものと、利用許諾にとどまるものを色分けします。ここが今回の和解で混乱している境目そのものです。
そのうえで、新規の発注書にはAI学習および生成AIによる二次利用の可否条項を明記します。自社が発注側として素材をAIに学習させたい場合も、逆に自社の商品ページが外部AIに学習されることを制限したい場合も、根拠になるのは契約書の一文です。過去のAI学習と著作権をめぐる論点整理や音楽生成AIに対するドイツ裁判所の判断も、判断材料として併せて確認いただければと思います。
支払いのスケジュールも押さえておく価値があります。和解金は4回に分けて拠出される設計で、3回目の4億5,000万ドルは2026年9月25日が期限です。金額が動く直前に権利の主張が集中するという構図は、今後の同種訴訟でも繰り返されると考えられます。
まとめ
15億ドルという金額が動いた瞬間に露呈したのは、法律論ではなく記録管理の弱さでした。EC事業者にとっての教訓は明確で、コンテンツの権利帰属を台帳化していない状態は、将来価値が発生したときに主張できないリスクを抱えているということです。今週できる作業として、外注素材の権利台帳づくりから着手することをおすすめします。
参考文献
- TechCrunch: Authors push back as publishers and agents seek share of Anthropic settlement
- Authors Guild: Bartz v. Anthropic Settlement: What Authors Need to Know
- Writer Beware: Anthropic Copyright Settlement: Publishers Are Making Incorrect Claims on Authors’ Payouts
- Anthropic Copyright Settlement 公式サイト
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引用元: TechCrunch
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。