アップルの店舗網を築いたロン・ジョンソンが、AIエージェントによる高額商品の購買代行に懐疑を示しました。
TechCrunchが2026年9月21日に報じたインタビューで、アップルの直営店網を立ち上げたロン・ジョンソンは、AIエージェントが1,000ドルや2,000ドルのノートパソコンを人間に代わって選び、購入する未来に否定的な見方を示しました。一方で日本では、Yahoo!ショッピングのAIエージェント経由の注文金額が2026年7月時点で全体の約20%に達しています。この温度差こそ、いまEC事業者が読み違えてはいけない論点です。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

アップル店舗の生みの親が語った「誰もやらない」の中身
ジョンソンの主張は、AI否定ではなく「購買のどこをAIに渡せるか」の線引きです。66歳のジョンソンは2000年にアップルへ入社し、オンラインショッピングが立ち上がり始めた時期に直営店ビジネスを構築した人物です。
エージェントに2,000ドルのノートパソコンを任せられるかと問われたジョンソンは「正直なところ、誰もそんなことはしません」と答えたと、TechCrunchは伝えています。理由は明快で、購入者は重さを感じ、ディスプレイを見て、自分に合うサイズを決めたいからだというものです。AIは選択肢を絞り込む役には立つが、製品を身体で体験させることはできない、という整理です。
ジョンソン自身はAI悲観論者ではありません。記事中では自らを「AI楽観主義者」と表現しています。アップル退社後はJ.C.ペニーの再建に失敗し、その後に創業したEnjoy Technologyも2022年に破産申請しており、小売の難しさを最も痛感してきた当事者でもあります。近著「Shop Different」では、アップルの店舗づくりを支えたのは設計ではなく人であったと振り返っています。
この発言の背景には、GoogleのUniversal Commerce Protocolのように、発見から決済までをAIエージェントにつなぐ標準づくりが加速している状況があります。
日本ではAI経由の注文が20%に到達、それでも決済は人が握る
日本の現場データは、ジョンソンの懐疑と矛盾しません。むしろ「AIが買う」よりも先に「AIが選ぶ」が起きていることを示しています。
LINEヤフーが2026年2月に提供を開始したYahoo!ショッピング AIエージェントについて、ネットショップ担当者フォーラムは、AIエージェント経由の注文金額が2026年7月時点で全体の約20%に達したと報じています。5月20日時点の15%から5ポイント上昇した計算です。AI利用ユーザーと非利用ユーザーではCVRに1.5倍の差があるとも説明されています。

注目すべきは、同社が決済の自動化を急いでいない点です。同記事では、購入や決済は技術的に実現可能な段階にありながら、まずはユーザーとの信頼関係の構築を優先する方針が示されています。つまり米国の店舗巨匠も日本のモール運営者も、「最後のクリックは人が押す」という前提では一致しています。変わっているのは決済ではなく、その手前の比較・検討です。
出店者側の数字も出ています。2026年3月に始まった出店者向けの「Yahoo! EC Pilot」は約半数のストアが利用し、利用ストアは未利用ストアより前年取扱高の成長率が15ポイント高いと報じられています。インナーウェアの白鳩では、AIの競合分析を受けて送料無料化に踏み切った結果、CVRが40%増、月間販売数が20%増となった事例も紹介されました。
日本のEC事業者が今すぐ整えるべき3つの論点
やるべきことは、決済代行への対応ではなく、比較・検討でAIに拾われる準備です。順序を間違えると投資が空振りします。
第一に、商品情報を「スペック」から「購入の文脈」へ広げることです。前掲記事でLINEヤフーは、いつ買ったのか、誰向けか、どんな用途か、どのタイミングで必要になったのかといったコンテキスト情報の重要性を示しています。用途・シーン・対象者を商品名と説明文に言語化しておくと、曖昧な相談からの提案に拾われやすくなります。
第二に、高額商品ほど「体験の代替物」を積むことです。ジョンソンが指摘した重さ・サイズ感・質感は、実寸表記、着用や設置のイメージ画像、開梱動画、レビュー要約で部分的に埋められます。AIが候補を絞った後に読者が確信を持てるかどうかは、結局ページの情報密度で決まります。
第三に、AIの提案を実行できる運営体制を持つことです。送料無料への切り替え、広告出稿、レビュー収集など、AIが同じ改善案を出しても実行できる店舗とできない店舗で差が残ります。当社がご支援する現場でも、分析よりも意思決定と実行の速度がボトルネックになるケースが目立ちます。関連して、ChatGPTのショッピング機能とShopifyの準備や、AmazonがMeta製AIエージェントを遮断した一件も、あわせて押さえておくと全体像がつかみやすくなります。
まとめ
アップルの店舗網を築いた人物の懐疑と、日本でAI経由の注文が約20%に達した事実は、対立していません。どちらも「AIが選び、人が決める」という同じ構図を示しています。日本のEC事業者が優先すべきは、決済をAIに明け渡す準備ではなく、比較・検討の場面でAIに選ばれる商品情報と、提案を実行しきる運営体制の整備です。
参考文献
- TechCrunch・The man who built Apple’s stores doesn’t buy Silicon Valley’s bet on AI shopping
- LINEヤフー・Yahoo!ショッピング、生成AIが検討から購入後まで買い物全体をサポートする新機能を提供開始
- ネットショップ担当者フォーラム・進化するLINEヤフー「Yahoo!ショッピング」のAIエージェント、AI経由の注文は20%に
- TechCrunch・Google announces a new protocol to facilitate commerce using AI agents
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: TechCrunch
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。