売上4割減から55%成長へ|Bookshop.orgに学ぶEC立て直し5手

コロナ特需の反動で売上が4割減ったBookshop.orgが、サイト再構築とメール設計の作り直しで年55%成長に回復。日本のEC事業者が自社で再現できる立て直しの手順を5つの論点で解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

Bookshop.org はコロナ特需の反動で売上が約4割減った後、サイト全面再構築で年55%成長に戻しました。

米国の書籍EC Bookshop.org が、パンデミック特需の反動で2022年に売上を約4割落としながら、2024年と2025年にはコロナ期の売上を上回るまで回復しました。Modern Retail が2026年7月22日に報じた創業者インタビューによると、2025年の売上は前年比およそ55%増、2026年もさらに25%増を見込んでいます。特需の反動に苦しんだ日本のEC事業者にとって、この会社が何を作り直して立て直したかは実務的な示唆があります。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

特需で60億円、反動で4割減という振れ幅

Bookshop.org は2020年1月に立ち上がった書籍ECです。Amazonから書籍販売のシェアを取り戻し、利益を地域の独立系書店へ還元することを目的にした B Corp で、書店が自分の在庫を売るマーケットプレイスではなく、卸から仕入れた書籍を販売して利益を書店へ配分する仕組みを採っています。買い手は還元先の書店を指定でき、指定しない場合は約1,700店の分配プールへ回ります。

創業直後にパンデミックが直撃し、実店舗が営業できない状況が追い風になりました。創業者のアンディ・ハンターによると、2か月で1,200店をオンボーディングし、最初の8か月でゼロから6,000万ドル規模の売上に到達しています。ところが2021年まで好調が続いた後、客足が店舗に戻った2022年には事業が約4割縮小しました。日本でも2020年から2021年にかけてEC比率が跳ね上がり、2022年以降にその反動を受けた事業者は珍しくありません。振れ幅の大きさは違っても、構造はよく似ています。

なお、Amazonは書籍カテゴリの売上を公表していません。Business Insider が2024年に内部資料をもとに報じた2022年1月から10月の書籍カテゴリ流通総額は169億ドルとされますが、リーク資料に基づく数値のため精度は要確認です。

立て直しの中身はサイト再構築とメール設計だった

売上が落ちた2022年から2024年にかけて Bookshop.org が実行したのは、新しい集客チャネルの開拓ではなくサイトそのものの作り直しでした。要点は5つあります。

1つ目は基盤の刷新です。2020年に Solidus というECプラットフォーム上で素早く作ったサイトが目的に合わなくなったため、バックエンドを Go、フロントエンドを Next.js で再構築しています。2つ目は検索です。検索エンジンを Meilisearch に載せ替え、検索性能を改善しました。3つ目は表示速度とオーガニック検索の指標改善で、サイトスピードやレスポンスが大きく向上したとしています。4つ目はチェックアウトで、既存の決済フローを捨てて1ページ完結の独自チェックアウトを作り直し、CVRを有意に押し上げました。5つ目がメールマーケティングで、新規顧客・再購入顧客・休眠顧客にセグメントを分け、それぞれにフローを設計しています。加えてサイトの各要素でA/Bテストを定常運用に組み込みました。

日本のEC事業者に置き換えると、ここが一番効きます。楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピングに出店している場合、カート周りやサイト基盤は自社で触れません。触れるのは商品ページの構成、検索されるキーワード設計、メールの配信設計です。逆にShopifyやBASEなど自社ECを持っているなら、チェックアウトの段数削減と表示速度は自分の裁量で改善できる領域であり、Bookshop.org が最も投資した部分と重なります。特需が終わった局面で新規チャネルに走る前に、既存の導線を作り直すという順番は、多くの店舗でそのまま採用できる判断です。

送客の起点を持つ側に利益を寄せる設計

Bookshop.org の還元設計も参考になります。書店がメール、SNS、店頭のQRコードなど自分の導線で送客した場合、その書店は定価の30%にあたる利益の全額を受け取ります。第三者のアフィリエイト経由の場合は、アフィリエイターが利益の3分の1、Bookshop.org が3分の1、残りが参加書店の分配プールに入ります。送客の起点を作った側に配分を厚くするという単純な原則です。同社は経費率を売上の12.5%に抑える方針を掲げ、実績としては14%を下回る水準で運営していると説明しています。

自社の販売チャネルが複数ある事業者ほど、この考え方は使えます。モール、自社EC、実店舗、SNSのどこで買われても売上は立ちますが、顧客リストと再購入の起点をどこに残すかで翌年の利益率は変わります。楽天R-Mailのようにモール内で完結する導線と、自社ECのメール配信では、次の一手の自由度がまったく違います。どのチャネルにいくら投じるかを決める前に、送客の起点を自社側に残せているかを確認しておく価値があります。

品揃えの穴を埋めたのが電子書籍だった

Bookshop.org は2025年に電子書籍を開始しました。ブラウザ、専用アプリ、iPhone、Androidで読める形にし、書店は自社サイトに電子書籍販売を組み込んで売上の利益をそのまま受け取れます。2026年2月には自費出版流通の Draft2Digital と提携し、独立系書店が自費出版の電子書籍からも利益を得られるようにしました。ハンターは、卸経由では扱えなかった100万点から200万点規模の書籍を追加できたこと、そして「紙はうちで買えるが電子は他所で」と顧客に言わずに済むようになったことを成長要因として挙げています。電子書籍は米国内の売上構成比で5%程度とされますが、当初計画より1年前倒しで進んでいます。

品揃えの穴が離脱を生むという指摘は、日本のEC運営でもそのまま当てはまります。主力商品は揃っているのに関連消耗品やサイズ違いだけAmazonに流れている、というケースは頻繁に起きます。売れ筋の周辺で「うちでは買えないもの」を棚卸しすることは、広告費を増やすより先に着手できる施策です。

独立系書店の増加という追い風もあった

追い風もありました。全米書店協会(ABA)の2025年年次レポートによると、2025年に開業した書店は605店で2024年比87%増、独立系書店の店舗数は3,281から3,783に増えています。ABAのアリソン・ヒルは、アルゴリズムや巨大資本への反発と、地域における書店の役割が支持された結果だと説明しています。

先月の「Anti-Prime」キャンペーンでは、売上148万ドル、注文数は前年比11%増の39,000件、地域書店への寄付は21万ドルでした。同社は2026年の売上を8,000万ドル(前年6,800万ドル)と見込み、2026年8月には書店への累計還元額5,000万ドルに到達する見通しです。大手モールへの対抗軸を掲げるだけでなく、キャンペーンの数字を毎回公開して積み上げている点が、支持の再現性につながっていると考えられます。

まとめ

特需の反動で売上が落ちた局面で Bookshop.org が選んだのは、新規チャネルの追加ではなくサイト基盤・検索・チェックアウト・メール設計の作り直しでした。日本のEC事業者が同じ状況に置かれたときも、まず既存導線のどこで落ちているかを数字で押さえ、自分の裁量で触れる範囲から直すのが順番として堅い判断です。あわせて、送客の起点を自社側に残す設計になっているかを点検しておくと、翌年の利益率が変わってきます。

参考文献

※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/

引用元: Modern Retail


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

お問い合わせ