ムラティ新会社が初のオープンAI「Inkling」公開|975Bの勝算3つ

ムラティのThinking Machinesが初のオープンモデルInklingを公開。975B・100万トークン・マルチモーダル入力の実力と、企業が自分で育てるAI戦略の勝算3つをEC視点で解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

ムラティの新会社が初のAIモデル「Inkling」をオープン公開しました。

元OpenAI CTOのミラ・ムラティが率いるThinking Machines Labは2026年7月15日(米国時間)、初の自社開発AIモデル「Inkling」を発表しました。総パラメータ975B(9,750億)の大規模モデルでありながら、OpenAIやAnthropicのフラッグシップとは異なり、誰でも重みをダウンロードして改変できるオープンウェイト形式での公開です。創業から約1年半、沈黙を守ってきた同社の最初の「答え」が、クローズドな汎用チャットボットではなく「企業が自分で育てるAI」だった点は、AI業界の分岐点として注目に値します。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

何が起きたか:975B・100万トークンのマルチモーダルモデルを開放

結論から言うと、Inklingは「総パラメータ975B・アクティブ41B」のMixture-of-Experts(複数の専門家ネットワークを切り替えて使う省エネ設計)モデルで、100万トークンのコンテキストウィンドウを備えます。TechCrunchによると、テキスト・画像・音声・動画あわせて45兆トークンで学習されており、入力はテキスト・画像・音声をネイティブに理解します。現時点の出力はテキスト(コードや構造化データを含む)に限定されます。

Hugging Faceの公式ブログでは、BF16版に加えて推論コストを抑えるNVFP4量子化版が同時公開され、transformers・SGLang・llama.cppで公開初日からサポートされることが示されています。回答の確信度を明示する「キャリブレーション」と、速度と性能を天秤にかけて思考時間を調整できる「エフォート制御」も特徴で、同社はあるコーディングベンチマークにおいてNVIDIAの最新オープンモデルNemotron 3 Ultraと同等性能を3分の1のトークン消費で達成したと主張しています(自社評価のため要確認)。

興味深いのは、同社自身が「Inklingは現時点で最強のモデルではない。オープンでもクローズドでも」と公式ブログで明言している点です。狙いは頂点ではなく、企業が自社データでファインチューニングする「出発点」としての万能さにあります。その受け皿が、同社のモデルカスタマイズ基盤Tinkerです。

なぜ重要か:「1社が作る万能AI」への対抗仮説が形になった

このリリースが重要な理由は、ChatGPT・Claude・Geminiが体現する「1社が中央で訓練した万能モデルを皆が借りる」構図への、正面からの対抗仮説だからです。TechCrunchが紹介したBridgewater Associates(世界最大のヘッジファンド)との共同プロジェクトでは、既存のオープンソースモデルを同社の金融知見で追加訓練した結果、金融推論テストで84.7%を記録し、トップの独自モデルを上回りながら運用コストは約14分の1だったとされます(両社の自社評価であり、独立検証はされていない点に注意が必要です)。

追い風も吹いています。Microsoft CEOのサティア・ナデラは直近のブログで、独自モデルを使う企業は「購読料と、プロンプトに埋め込んだ業務知識の2回支払っている」と警告しました。Hugging Face CEOのクレマン・ドラングも、フロンティアモデルは実験や高価値タスク向けに限られ、本番ワークロードはオープンや自社モデルに移るとの見立てを示しています。うるチカラでもDatabricksがオープンソースのGLM 5.2を標準コーディングエンジンに採用した動きや、Kimi K2.7 Codeの圧倒的な低価格戦略を報じてきましたが、Inklingはこの潮流の中心に位置する動きです。

一方で課題も明確です。ファインチューニングには相応の機械学習人材が必要で、カスタマイズ後の安全性の担保は顧客側の責任になります。また蒸留(他社モデル出力での学習)について同社は、事前学習はゼロからと説明しつつ、初期のポストトレーニングデータ生成にMoonshot AIのKimi K2.5などオープンウェイトモデルを利用したことを認めています。

今後の動き:収益はモデルではなくTinkerから

今後の焦点は3つです。第一に収益化。重みが公開された以上、ダウンロードして自前で動かす利用者から同社は対価を得られません。収益源は訓練・ファインチューニング・ホスティングエコシステムを担うTinker側に置かれており、このモデルが成立するかが最大の見どころです。第二に資金。同社は3月にNVIDIAと提携しVera Rubin世代の計算能力1ギガワット分の展開を決めましたが、その費用の賄い方は明らかにしていません(500億ドルの資金調達が停滞していると報じられており、要確認)。第三に競合の反応。GPT-5.6 SolがFable 5に価格で仕掛けた消耗戦が続くなか、「安い汎用API」対「自社で育てるオープンモデル」という新しい対立軸が加わります。

EC事業者にとっての示唆を1段落だけ添えます。Bridgewaterの事例が示すのは、業種特化の知見でオープンモデルを追加訓練すれば、汎用フラッグシップを特定業務で上回れる可能性です。商品分類・レビュー解析・問い合わせ対応など、自社データが豊富なEC業務はまさにこの構図に当てはまります。今すぐInklingを自社運用する必要はありませんが、「プロンプトに蓄積した業務知見は資産である」というナデラの指摘は、日々のAI活用ログを整理して残しておくだけでも将来の選択肢になる、という実務的な教訓として受け取れます。

まとめ

Thinking Machinesの初モデルInklingは、975B・100万トークン・マルチモーダル入力のオープンウェイトモデルであり、「企業が自分で育てるAI」という対抗仮説の最初の実証物です。ベンチマークの頂点ではなくファインチューニングの出発点を狙う戦略が成立するか、Tinkerの収益化とあわせて注視すべき局面です。

参考文献

※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/

引用元: TechCrunch


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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