米国で関税回避スキームへの一斉取り締まりが始まります。Modern Retailが2026年6月11日に報じたところによると、トランプ大統領は6月上旬、税関詐欺の防止強化を指示する大統領令に署名しました。背景には、関税コストの増大に乗じて「正規価格より約20%安く配送できる」と持ちかける関税回避業者の営業攻勢があります。米国向けに販売する日本の越境EC事業者にとっても、物流パートナー選定の基準が変わる重要なニュースです。
何が起きたか:大統領令で税関詐欺の取り締まりを強化
今回の大統領令は、米国税関・国境警備局(CBP)に対して、関税の過少納付、原産地の隠蔽、ペーパーカンパニーを使った輸入の取り締まり強化を指示する内容です。輸入記録者(インポーター・オブ・レコード)の要件を厳格化し、通関ブローカーや保証提供者への監視も強めます。
取り締まりの対象となる関税回避の手口として、記事では大きく3つが挙げられています。
1つ目は、DDP(関税込み配送)スキームの悪用です。DDP自体は海外サプライヤーが送料・通関・関税支払いを一括で引き受ける合法的な取引条件ですが、詐欺的な業者は商品価値の過少申告や品目の誤分類によって関税を不正に圧縮します。
2つ目は、ペーパーカンパニーの利用です。実態のない小規模LLCを輸入者として立てることで、不正が発覚しても資産がほぼなく、未納関税の回収が事実上不可能になる構造をつくります。
3つ目は、こうしたスキームの営業攻勢そのものです。メール、LinkedIn、WeChat経由で「関税・送料込みの正規価格より約20%安い」配送提案がマーチャントに大量に届いており、通関弁護士のDavid Forgueは「うますぎる話は、たいてい嘘です」と警告しています。記事によれば、昨年の中国側の対米輸出額と米国側の輸入申告額には1,120億ドルの開きがあり、過少申告の規模の大きさを示唆しています。
注目すべきは、米国のEC事業者側がこの取り締まりをおおむね歓迎している点です。サプリメント販売のWholesome Storyや、ジュエリーD2CのHaus of Brillianceの経営者は「全員にとって公平な競争環境であるべきだ」と述べており、正直に関税を払う事業者ほど価格競争で不利になる現状への不満が背景にあります。

日本のEC事業者にとっての論点:物流パートナーの選定責任が重くなる
米国の国内問題に見えますが、日本のEC事業者には少なくとも3つの論点があります。
第一に、米国向け越境ECの物流選定リスクです。Shopifyや自社サイト、Amazon.comで米国販売を行う日本の事業者にも、安価なDDP配送を売り込む業者からの営業は届きます。委託した物流業者が過少申告をしていた場合、荷主側が「知らなかった」では済まされない可能性が高まります。輸入記録者の要件厳格化は、誰が関税納付の責任を負うのかを明確にする方向の改革であり、安さだけで配送業者を選ぶ運用は危険になります。
第二に、正規に納税してきた事業者には追い風です。関税回避で原価を不正に下げた競合と同じ土俵で戦わされてきた構図が、取り締まりによって是正されれば、適正価格で販売する日本事業者の相対的な競争力は上がります。
第三に、関税起因のコスト変動が続くという経営前提です。うるチカラでは関税還付が進まず価格戦略が揺れる米国EC事情も紹介しましたが、関税を巡る制度変更は今後も短いサイクルで続く見込みで、都度の対応よりも「制度が変わっても破綻しない値付けと物流の設計」が重要になっています。
今後の展望と初動アクション
まず、米国向け販売で利用中の物流・通関業者の申告実務を確認してください。具体的には、インボイスの申告価格が実売価格と一致しているか、HSコード(品目分類)が正しいか、輸入記録者が誰になっているかの3点です。
次に、相場より大幅に安いDDP提案には乗らないことです。関税・送料込みで2割安い提案は、その差額がどこかで不正に吸収されている可能性を疑うべきだとForgueは指摘しています。
最後に、取り締まり強化は通関の遅延や検査率の上昇という形で正規の荷物にも波及しえます。年末商戦に向けた米国向け在庫は、通関リードタイムに余裕を持たせた計画にしておくと安全です。
まとめ
トランプ政権の大統領令により、過少申告・ペーパーカンパニー型の関税回避への取り締まりが本格化します。日本の越境EC事業者は、安価なDDP提案を安易に受けず、物流パートナーの申告実務を点検することが当面の初動です。正規に納税してきた事業者にとっては、公平な競争環境への一歩となります。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。