日本でもチャットボットによる顧客対応が一般化していますが、海外では既にチャットボットから直接商品を購入できる時代が始まろうとしています。Visaが発表したAIシステムへの決済ネットワーク組み込み計画により、オンラインショッパーはチャットボットから直接購入できるようになり、これがAmazonやiPhone以来最大のショッピング変革をもたらす可能性があります。この革新的な取り組みについて、決済業界とeコマースの未来を大きく変える重要な発表を紹介します。
Visa が水曜日に発表したこの取り組みは、まだ初期テスト段階ですが、パートナーとしてOpenAI、Anthropic、Microsoft、Mistral、Perplexityなどの主要AI企業が名を連ねています。Visaの最高製品戦略責任者ジャック・フォレステルは、サンフランシスコでのイベントで「この変化は、eコマースとモバイルコマース自体がもたらしたレベルの影響に匹敵する可能性があると考えています」と述べています。さらに注目すべきは、MastercardとPayPalも今週、エージェンシー・コマースの取り組みを発表していることです。
一度の認証で自然な会話ショッピングが実現
Visaが実演したシステムでは、ユーザーが一度だけチャットボットに支払い情報を入力すれば、AIエージェントとの自然な会話を通じてさまざまな商品やサービスを購入できます。技術的には、Visaがモバイルとオンラインコマースのセキュリティに使用してきたトークン化技術と、認証、支払い意図、指示を伝達するメカニズムを組み合わせています。
OpenAIも月曜日に、ChatGPT検索がファッション、美容、家庭用品、電子機器などのカテゴリから始めて、検索結果に直接商品リンクを含めるようになると発表しました。これにより、検索から購入までのプロセスが劇的に簡素化されることになります。
興味深いのは、この技術の最大のハードルが技術的なものではなく、信頼の問題だということです。フォレステルは「今日でもAIエージェントに決済ツールを与えることができ、彼らはあなたの認証情報、カード、お金にアクセスして支払いを実行できるでしょう。しかし、それは最初のステップを踏む前に解決する必要がある他の重要な問題を明らかにするだけです」と水曜日のステージで説明しています。
普及の見通しと業界への影響
普及のタイミングについて、フォレステルは慎重ながらも楽観的な見解を示しています。「これは本当に予測が困難です」と認めつつ、「eコマースは25年間存在していますが、世界的に見ても売上の半分以下しか占めていません。時間がかかるものだと思う部分もあります」と述べています。
一方で、「生成AIチャットボットを使う人が29ヶ月前はゼロだったのに、今やChatGPT、Llama、類似ツールを数十億人が使用している」という急速な普及例も挙げています。フォレステルは「少なくとも特定のユースケースにおいて、今後12ヶ月以内に人々が自律エージェント決済のオプションを利用できるようになることを期待している」と述べています。
この変化がもたらす影響は決済だけにとどまりません。チャットボットがショッピングを変え、ショッピングがチャットボットを変えることになります。コマースが行くところには広告が続き、収益分配やアフィリエイトプログラムなどの技術プロバイダーが利益を得る他の手段も続きます。GoogleもFacebookも当初は広告やコマースから無料でしたが、最終的に両業界の顔を変え、同時に彼らのサービスも立ち上げ時とは根本的に異なるものに変貌しました。
小売業者が準備すべき戦略転換
専門家によると、小売業者はチャットボットが重要な役割を果たすことに備えて、eコマース戦略の再考を始める必要があります。この変化により、企業は検索広告への支出を減らすことができる可能性がありますが、商品とその在庫に関する最新情報を持つことがより重要になります。
Pimberlyの CEOマーティン・バラムは「商品データが完璧でない場合、つまり属性が欠落していたり一貫性がなかったりする場合、AIエンジンによって誤って表示されたり、完全に除外されたりするリスクがあります」と警告しています。同社はMarshallsやBuild-A-Bearなどの小売クライアントの収益向上を支援しています。
OpenAIの代表者は、同社がアフィリエイトリンクを持たず、ChatGPT検索を通じた購入から収益を得ておらず、現在のところそうする計画もないと述べています。Visaイベントで上映されたビデオで、OpenAIのCFOサラ・フライアは、同社が顧客にChatGPTが常に「ビジネスモデルや広告などの決定によって歪められた答えではなく、最良の答えを提供している」という確信を持ってもらいたいと述べています。
日本市場への影響と今後の展望
この決済革新が日本市場に与える影響は計り知れません。日本は既にQRコード決済やIC カード決済が広く普及しており、新しい決済手段への適応力が高い市場です。しかし、同時にセキュリティとプライバシーに対する意識も非常に高く、AIエージェントによる自動決済への信頼構築が重要な課題となるでしょう。
日本の消費者の特徴として、「確認・再確認」の文化があります。重要な購入の際は複数回確認することが一般的で、AIエージェントによる自動決済システムもこの文化的特性に対応する必要があります。例えば、高額商品や初回購入時には追加の確認ステップを組み込むなど、日本特有のUX設計が求められるでしょう。
また、日本語の曖昧性や敬語システムへの対応も重要です。「それにします」「お願いします」といった間接的な表現から購買意図を正確に読み取る技術の向上が不可欠でしょう。
日本の小売業界にとって、この変化は大きな機会でもあります。従来のオンライン広告費用の削減が可能になる一方で、商品データの品質がこれまで以上に重要になります。特に、日本独特の商品特性(サイズ感、季節対応、地域限定など)を正確にデータ化し、AIが理解できる形で整備することが競争優位の源泉となるでしょう。
この技術の普及により、日本の「おもてなし」精神とAI技術が融合した、世界に類を見ない高度なカスタマーエクスペリエンスが創造される可能性があります。AIエージェントが日本の細やかなサービス文化を学習し、個々の顧客の好みや状況に応じた提案を行えるようになれば、グローバル市場でも競争力のある独自のサービスを展開できるはずです。
ただし、準備期間は限られています。フォレステルが予測する12ヶ月という時間軸を考慮すると、日本企業も早急にこの変化への対応策を検討し、実装を始める必要があります。変化の波に乗り遅れることは、グローバル競争での劣勢を意味することになるでしょう。
引用:axios