Modern Retailが2026年5月16日に公開したポッドキャストで、ニューヨークの人気ピザ店プリンス・ストリート・ピザのCEOが「すべてのブランドはもはやメディア企業になっている」と語り、ブランド自身がオリジナル映像コンテンツを継続発信する潮流が改めて注目されています。日本のEC事業者にとっても、商品ページや広告だけで戦う時代の終わりを示す象徴的な発信であり、今日からの初動設計を整理しておく価値があります。
ピザ店・アパレル・ブライダルが自社番組を持ち始めた
Modern Retail がインタビューしたのは、ニューヨーク・ノリータ地区の名物店プリンス・ストリート・ピザのCEOロレンス・ロンゴで、俳優ニック・トゥルトゥーロと共同制作したシリーズ「Delivering Happiness」を2025年9月から配信中です。店舗の裏側や常連客との会話を綴る短尺ドキュメンタリーで、メニュー紹介より人物と物語に比重を置いている点が特徴です。番組と並行して、ナッシュビルとチャールストンへの新規出店も進めており、コンテンツが集客の前段に据えられています。
同じ流れはアパレルやブライダルにも広がっています。Gap Inc. は2025年1月に Chief Entertainment Officer という新ポストを設け、エンタメ業界出身のパム・カウフマンを起用しました。ブライダル大手 David’s Bridal も2026年にリアリティ番組風シリーズ「Breaking Bridal」を立ち上げる計画で、いずれも「商品を売る広告」ではなく「人を見せる番組」に投資しています。
注目すべきは、登場したCEO自身が「オーセンティックなコンテンツが即座の売上につながると期待してはいけない」と明言したことです。番組はブランド認知と長期的なファン形成のためにあり、ROIを四半期で測ろうとすると失敗するという警告を、現場の経営者から発信している点が重要です。
日本のEC事業者にとって重要な理由
このトピックを「米国の有名店の話」で片付けるのはもったいない論点です。日本でも、楽天市場・Amazon・Shopify・Yahoo!ショッピングのどこで売っていても広告CPCは上がり続け、商品ページの差別化余地は型番系商材ほど削られています。検索流入と広告流入の両方が頭打ちになる前提で、ブランド側に新しい入口を作る必要が出てきました。
すでに動いている日本の事例として、コスメのBULK HOMMEが自社チャネルで男性向けスキンケア解説動画を継続発信してブランド検索を底上げしているほか、家電のアイリスオーヤマも社員出演型の商品紹介動画を自社チャネルで積み上げています。共通するのは、商品LPではなく「人と背景」が前面に出ていることで、米国のメディア企業化の流れと方向が一致しています。
一方でAIツールの普及によって、短尺動画の編集・字幕生成・サムネ生成コストはこの1年で大幅に下がりました。ChatGPTやClaudeで企画の壁打ちを行い、RunwayやAdobe PremiereのAI機能で粗編集を済ませれば、月4〜8本の運用は中小EC事業者でも現実的なラインに入ってきました。「予算がない」を言い訳にできる期間は急速に閉じています。
日本のEC事業者が今日から打てる4つの初動
第一に、自社が継続発信できる「人」を一人決めることです。社長・店長・バイヤー・物流責任者のいずれでも構いませんが、月1回ではなく週1回の頻度で出続けられる人物を確保しないと、シリーズ化できません。プリンス・ストリート・ピザの番組もCEOが顔出しで毎話登場しているからこそ続いており、属人性は弱点ではなく前提条件です。
第二に、最初の3カ月はKPIを「売上」ではなく「視聴維持率」「再生数」「保存数」「コメント数」に固定することです。Gap Inc. のように四半期の売上だけで番組の存続を判断していたら、ほとんどの企業が2話目で打ち切りになります。広告ではない以上、評価軸も広告ではない指標で組む必要があります。
第三に、配信先を分散させすぎないことです。YouTubeショート・TikTok・Instagram Reelsの三つを最初から全部やろうとするとリソースが破綻します。商材の購買層が最も滞在しているプラットフォームを1つだけ選び、そこに6カ月集中投下するのが現実解です。回り始めてから二つ目に広げても遅くありません。
第四に、コンテンツから商品ページへの導線を「番組ページ」経由にすることです。動画概要欄から直接商品ページに飛ばすとCVは出ますが、ブランド体験は薄れます。自社ECサイト内に「シリーズアーカイブページ」を作り、そこから関連商品に誘導する二段構えにすると、検索からの流入も拾えるようになり、長期的にはSEO資産としても積み上がります。
まとめ
Modern Retailが伝えた「すべてのブランドはメディア企業」という潮流は、米国の特定業界の話ではなく、日本のEC事業者にとっても直近1〜2年で結果が分かれる経営判断です。発信者を一人決め、評価軸を変え、配信先を絞り、自社サイトに番組ページを置く。この4点を今月中に決めるだけで、来年同時期の検索流入とリピート率の景色は大きく変わります。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。