スマホグリップのPopSocketsは、TikTokで発見させて自社ECで買わせる導線に主軸を移しました。
本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。Modern Retailが2026年7月29日に報じたところによると、同社の自社EC売上はカード決済データの推計で2026年第1四半期に前年同期比38%増となりました。一方で2026年第2四半期は6%減と失速しており、自社ECシフトが一本調子ではないことも同時に示されています。卸売り中心のブランドが自社ECとTikTokをどう組み替えたのか、日本のEC事業者が持ち帰れる論点として整理します。
何が起きたか|卸中心のブランドが自社ECを「槍の穂先」に据え直した
結論から言うと、PopSocketsは売上の大半を卸売りに依存したまま、若年層の再獲得だけを自社ECとTikTokに担わせる分業に切り替えました。同社は2014年にクラウドファンディングから立ち上がったスマホグリップのブランドで、Best BuyやTargetといった量販チェーンとの取引を広げて成長してきました。ところがコロナ禍の途中からZ世代の支持を失い、創業者のDavid Barnettいわく「ミレニアル世代の母親向けブランド」と見られるようになったといいます。
そこで同社が選んだのが、卸売りでは実行できない施策を自社ECに集中させるやり方です。具体的には1〜2週間に1回のペースで限定商品のドロップ販売を回し、公式サイトに「coming soon」のページを設けて次回の発売日を先出ししています。同社サイトの予告ページでは8月6日と8月19日の発売予定が並び、通知登録もできる作りです。プリントオンデマンドの生産体制を持つため、コラボ商品を短期間で出し切れる点が前提になっています。
注目すべきは、卸先の姿勢が変わったという証言です。Barnettは、創業当初は小売店に自社サイトの話をしてはいけない空気があったものの、コロナ後は自社ECが強いブランドこそ棚に置きたいと見なされるようになったと語っています。自社ECは卸売りの敵ではなく、ブランド需要を作る装置として再定義されたわけです。
数字で読む|38%増と6%減が同居するDTCの実態
数字を並べると、自社ECシフトの効果と難しさが同時に見えてきます。Modern Retailに提供されたConsumer Edgeの米国カード決済データによれば、PopSocketsの自社EC売上は2025年第3四半期が前年同期比32%増、2025年第4四半期が16%増、2026年第1四半期が38%増と伸びた一方、2026年第2四半期は6%減に転じました。創業者は直近3年の自社ECについて二桁から三桁の成長と表現していますが、四半期単位では明確に波があります。
商品面では、7月に主力の薄型グリップLow-Proが自社サイトで発売されました。Low-Proは磁石で着脱でき、引き出して立てられるスタンドを備えた製品で、6月に先行してAppleの販売チャネルに並んでいます。同社によれば、発売から2週間でLow-Pro Grip Black(39.95ドル)がAppleチャネルにおける同社の最量販SKUになり、従来の主力を上回りました。既存客の不満解消ではなく、厚みを理由に敬遠していた新規層の獲得を狙った設計だと説明されています。
TikTokの扱いも数字の裏付けがあります。Barnettは1年前に自らブランドのTikTok運用を引き取り、商品訴求を前に出さないコメディ寄りの動画に切り替えました。再生数が200万から300万回に達する動画も出ています。ただし販売面については、「TikTok Shopで利益を出すのは簡単ではない」と本人が認めており、実際にはTikTokで発見した人が自社サイトか実店舗で買う流れが中心だとしています。
日本のEC事業者が持ち帰れる3つの型
まず押さえるべきは、発見と購入を同じ場所で完結させなくてよいという設計思想です。日本でも楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピングに売上の大半を置いたまま、SNSは指名検索を作る役割に限定するという分担は現実的です。SNSの投稿から直接の売上が立たないことを理由に運用を止めてしまうと、モール内の指名検索と自社ECの土台を同時に失うおそれがあります。効果測定はSNS経由の直接転換だけでなく、ブランド名の検索数や自社EC比率とあわせて見るのが妥当です。
次に、ドロップ販売は在庫リスクではなく更新頻度の仕組みとして捉える型です。PopSocketsが1〜2週間ごとに新作を出せているのは、受注生産に近い供給体制を持つからです。日本の中小EC事業者がそのまま真似るのは難しくても、既存商品の別柄展開や数量限定セット、季節ラベルなど、原価を大きく動かさずに新着枠を作る方法はあります。広告クリエイティブが枯れる問題も、新着があれば自然に解消されます。
三つ目に、楽天市場を主戦場にしている場合は規約の壁を必ず先に確認してください。楽天のメルマガや商品ページから自社サイトやSNSへ誘導することは規約違反にあたるため、PopSocketsのようなモール外への送客導線をそのまま持ち込むことはできません。楽天では店舗内の回遊設計とセグメント配信に集中し、自社ECやSNSへの誘導は同梱物や自社チャネル側から行うなど、経路を分けて組み立てる必要があります。この線引きを曖昧にしたまま施策を走らせると、成果が出る前に出店そのものが危うくなります。
まとめ
PopSocketsの事例が示すのは、自社EC強化とはモール売上を捨てることではなく、若年層の獲得とブランド需要の形成だけを自社チャネルに寄せる分業だという点です。四半期で38%増と6%減が並ぶ通り、単月の数字に一喜一憂する話でもありません。日本のEC事業者は、SNSを発見の入口、モールと自社ECを購入の受け皿と割り切り、そのうえで各モールの規約に沿った導線を引くところから着手するのが現実的です。
参考文献
- Modern Retail・PopSockets’ next act hinges on DTC, TikTok and a bigger product ecosystem
- Modern Retail・CEO Jiayu Lin on how PopSockets deepened its relationships with Best Buy, Target and Walmart in 2025
- PopSockets公式・Coming Soon(ドロップ予告ページ)
- Apple・MagSafe対応PopSockets製品一覧
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。